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【書籍四巻】定年後は異世界で種馬生活【コミカライズ】  作者: 街のぶーらんじぇりー【種馬書籍四巻/コミカライズ】
第九部 フィオの里帰り

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第439話 おかしな結果

 ガブリエラを抱いた司祭ツェリが、その小さく愛らしい生き物を、ゆっくりと聖なる水を満たした盆に浸していく。


 まあ、結果は鉄板だろうけどな。すでにミカエラはSクラス相当の、ベルゼンブリュック最強の土属性魔法使いであることを、あちこちの実戦で証明している。


 そしてガブリエラは母親からチョコレート色の髪と紫色のくりくりした瞳を受け継いでいて……土属性Sクラスは確実だ。姿かたちが母親に似なかったベアトやクラーラの時には洗礼の結果にもおかしなことが起こったけれど、まあ今回は安心していいだろう。まもなくガブリエラの身体から、明るい金色の光がまぶしく放射されるはずさ。


 だけど……。


「おかしいわね、身体が光らないわ」


 最前列、俺の隣でグレーテルがつぶやく。儀式を司っているツェリの表情にも、驚きの色が広がっている。


「ま、まさか、魔力なし?」「そんな? 領主様の『神の種』だぞ?」


 有力住民の間に、ざわめきが広がる。そう、愛しき幼馴染が指摘した通り、ガブリエラはバーデン領主の後継者最有力候補と目されていたのだ。住民たちにとって一番大事なのは、領が安定し自分たちの生活が平穏であること……領主の跡継ぎが魔力なしなんてことが、あってはならないのだ。勝手にがやがやと騒ぐ有力者たちの声が大きくなった、その時。


「お静かになさいませ! このお子は魔力なしなどではありませんことよ!」


 力強い高音が聖堂に響き渡ると、外野の雑音は一気に静まった。その声の主はもちろん……。


「魔法王国ベルゼンブリュックの皆様がこのようなことで騒がれるなんて、滑稽ですわね。ほら、あれをごらんなさいな!」


 キャラメルブロンドの縦ロールを揺らすのは、もちろん帝国第二皇女、メルセデスだ。マウントを取りにくるような言い方には相変わらずイラっとくるけれど、この場を落ち着かせてくれたことには、感謝しないとな。そして彼女がずびしと指さす先をよくよく見れば、ガブリエラの身体から、何やら白っぽいもやもやが立ち上がっている。そういや似た記憶がどこかで……。


「あのもやは『無属性』の証ですわ。そんなこともこの国の方々はご存じありませんの?」


 だから、無用な煽りはやめろと言いたいのだが……確かにあれは、俺とリーゼ姉さんの子、ティナの洗礼で顕れた事象と、とても似ている。魔力を示す光の代わりに陽炎みたいなもやもやが上がるのはあの時と同じ、だけどあの時のもやもやは、黒っぽかった気がするけどな。


「た、確かにこれは……無属性と判断すべき事象です。未来のバーデン領を背負って立つこの子に、希少な無属性を授けて下さった至高神の恩寵に、感謝を」


 まだその表情に驚きの色を浮かべつつも、ツェリはなんとかその場を締めた。


    ◇◇◇◇◇◇◇◇


「ごめんなさい。あの場で騒がれるよりはと、口をはさんでしまいましたわ……」


 意外なことに殊勝な態度で俺たちに詫びを入れてくるメルセデス。さっきの高圧的な振る舞いは本当に、俺たちを助けるためのものだったようだ。ものすごく、わかりにくいけどな!


「いや、むしろ助かった。住民たちは『そんなものか』と納得して帰ってくれたからな。才女と名高い帝国皇女の言葉だ、まるっと信じてしまったんだろう」


 俺の「才女と名高い……」のくだりに、フンスと鼻をうごめかせるところが、やはりメルセデスだ。だが民衆の間で彼女の評価が、あの迷宮攻略で爆上がりしているのは間違いない。それは当然闇一族の情報工作と王室主導の歌劇化なんかのおかげもあるわけで……そんなこともあって、俺たちに協力してくれる気になったのだろうな。


「だけど『無属性』の話なんか、よく知ってたな……」


 そう「無属性」の存在は、ティナの洗礼でエリーゼ枢機卿猊下が口にするまで、ベルゼンブリュックではほぼ忘れ去られていたのだ。


「帝国には、皇室しか読めない『禁書』がありましてよ。そこに記載がありますわ、もやのような特別な魔力をもつ者に関することが。千年以上昔には、大陸で幾人かそんな魔法使いが存在し、彼女らは他者の魔法を吸収し、吸収した魔法を放出することができたのだと」


 これは驚いた。魔法王国ベルゼンブリュックにも伝わっていない「無属性」の情報が、まさか帝国に残っていたとは。そして彼女が述べる無属性の特徴は、そのまんまティナがこのあいだ俺たちの前でやって見せた、そのものだ。もちろんそれは女王陛下の命で厳重に秘匿され、メルセデスはティナの能力を知らないはずで……それが意味するところは明確、つまり帝国の「禁書」には真実が記述されているということだ。


「さすがは千五百年前から連綿と続く帝国皇室、数百年の歴史しかないベルゼンブリュックとは、蓄積が違うわね」


 素直に帝国の情報量を賞賛するグレーテルに、メルセデスも満足そうな表情だ。今までならこんな時、周囲をイラつかせるようなドヤり方をしていた彼女だけれど、多少は大人になったようだ。まあグレーテルとは迷宮の厳しい戦いを一緒に潜り抜けたのだ、友情に似たものも芽生えかけているのだろう。


「ということは……ガブリエラにも、ティナと同じ能力が?」


 俺の言葉に、グレーテルとメルセデスが顔を見合わせた。


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