プロローグ「儚い願い」
──目を開ければ、周りには煙が立っている。
焼き焦げた鉄とガソリンの匂いが充満し、鼻の奥を刺激する。
動かそうにも、首以外反応しない体を確かめ私は事故にあったことを認識した。
私が倒れている場所は、辺り一面紅色へと変貌していた。
車も道路も空も。──否、周りが赤くなっているのではなく、自分の目が流血した血で赤く写っているのだ。
首を動かしてでも聴こえるピチャリという音。
それで、確信できた。
「──!─ン!!」
そこに、聞き慣れた声が飛んできた。
私を抱きかかえ、心配している少年…まだ意識が朦朧としているが、確かにその声は私の知っている………大切な……………
誰……だっけ………
思い出せない…
私の記憶にはこの少年はいない。いや、この少年だけじゃない、何もかも覚えていない。
だけど、私にはもう悩んでいる時間さえ残っていなかった。
遠のいていく意識がそう実感させる。
目の前の少年は泣き崩れ、虚ろな目をしている。抱えていた手は、いつの間にか力なく地についていた。
私はその手を握りしめ、少年に希望を、願いを「託す」ため、自分の想いを伝える。
たとえ、届かなかったとしても…。
「─────」
聞こえていない。いや、届いているかすら分からない。
でも、そっちの方が良いのかもしれない。
どんな形でも、幸せに暮らしてくれるなら。
そう願い、私──シオンはこの世を去った。




