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第一部 22

 菱本先生ご婚約の件は、まずPTA関係者に伝わり次に貴史の母へ、そこから自動的に美里の母へと伝言されていった。だいたい想像はついていたが、すでに「おめでた」というのも情報としては把握ずみ。親同士でやたらと盛り上がっているらしい。

「それにしてもねえ、先生も若いわよねえ」

 いつもの長話、母が清坂宅玄関でぺらぺらしゃべっているのが聞こえる。

「おいくつだったっけ、菱本先生って」

「たしか今年で三十あたりじゃあ」

「まあ、それじゃあ不思議ではないかもしれないけれど、でも、もうおめでたなんでしょう」

「そうなのよ、それなら早く結婚してあげればよかったのにねえ」

 自分の母親だからなおのこと思うのだが、こうやって噂話している姿を見ていると、美里の母と区別がつかなくなる。しゃべり方が似ているといえばいいのだろうか。女子の相似系として美里を見ている貴史としては、なんだかうっとおしい気持ちになる。

 ──ったく、女子なんかに夢なんか持ってるなんて勘違いもいいとこだよなあ。

 アイドル鈴蘭優を追っかけている自分が人のこと言えないのはよくよくわかっている。

 それでもやっぱり、現実の「女子」という奴にはうんざりしてしまう。

 ──やっぱ、俺は、優ちゃんが一番だ! ってことでまずかけるか。テープ。

 鈴蘭優のLPレコードから即録音したカセットテープをラジカセに押し込み、貴史はイヤホンを片耳にはめた。これ以上女子連中の会話なんぞ聴きたくない。


 ──どっちにしろ、明日立村を捕まえるしかねえな。

 なんだかんだいってのびのびになっていた立村との「菱本先生ご婚約」に関する対話。

 もちろん普通に話はしているし、たいして記憶に残らない与太ネタばっかり交わしているのが現状だ。女子の話なんかしなくたって一日は過ぎる。そんなくだらんことを語り合っている暇があれば、トランプ持ち出してスピード対決でもしていればいい。たまに金沢や水口が絡んで来て芸術談義に付き合わされたりもするが、それも聞き流していればそれなりに時間が過ぎる。美里の面倒なんて見ている暇なんて、実際はない。

 ないのだが、しかし。

 ──あいつも相当、まいってるよな。

 霧島ゆいと一緒に高校へ進学したいという願いが叶えられるはずもなく、集めた署名もC組担任殿池先生に涙ぐまれて受け取られたのみ。そこから何が起こったでもない。

 C組から流れてくる情報によれば、かつてのアマゾネス評議委員霧島ゆいは、すっかり風船がしぼんだ状態で言葉少なに「薄幸の美少女」のまま過ごしているという。口の悪い一部男子連中によれば、

「あのまま三年間過ごしていれば、もっといいことあったってのになあ」

 すすり泣いてばかりいる方が彼女らしいとの発言は、他方面からも数多く出ている。

「今、二年に霧島さんの弟いるじゃん、すごい美少年、お姉さんそっくりの」

「うんうん知ってる」

「すごい頭よくってさ、すっごい美形なんだけど、でもね、なんか変なんだって」

「そうなんだあ、でも男子はやっぱり顔だよね」

 ──顔じゃねえだろ、ハートだろ。

 クラスの女子たちが好き勝手に情報を披露しているが、貴史にはどうでもいいことだった。そんなこだわりのある相手でもないのに、自分と関係のない奴らの噂なんかして、どこが楽しいのか理解に苦しむ。だから女子ってのはうんざりなのだ。

 ──ま、そんな奴らにからまれちゃあ美里もたまったもんじゃねえよな。


 次の日、月曜日の朝、貴史は美里を目で探してみた。

 露骨に嫌がらせをされているわけではない。

 むしろ美里の言動でとばっちりを受けているのは立村側ではないかと受け止めている

 三年D組の女子たちが立村に対して意味もなく陰口攻撃を続けているのには貴史も腹が立つし、あまりにも不当な言い分にはこちらも受けて立ってやったりする。当の本人に宥められて黙るというのも、しゃくに障る。

「しょうがないんだ。俺が悪いから」

 その一言ですべて自分で抑えてしまう立村の性格が嫌いではない。

 ただ、ぱこんと頭をはたいてやらないと自分自身が落ち着かない。

 結局は「羽飛だってがまんしてるじゃん、立村に対してさ」の一言で終わってしまう。


 美里に直接

「清坂さんって何にもできないくせに目立ちたがり屋だよね。殿池先生に談判したって霧島さんが青大附高に進学できるわけないのに。ばっかみたい」

とか

「もともと清坂さんって変な人好きだよね。たとえばほら、立村なんかと今だに付き合ってるんだもんね」

 などと言えないものだから、

「清坂さんに好かれてるからっていばるんじゃないよ、そこの昼行灯」

 などと事あるごとにつっこまれる。今回だってそうだ。

「立村がしっかりしてないから、霧島さんを傷つけちゃったんじゃないのよ。ったく、男子なんだし、あんたそれ以上に評議委員長でしょ? もっとしっかりしなさいよ!」

 などと因縁つけられるというわけだ。


 ──まあな、美里は自業自得だししゃあねえけど、せめて立村がもっと宥めるなりちゅーするなりすれば、あいつだってもっと落ち着くんじゃねえのか?

 あえて聞かないでいるが、美里が立村とすれ違っている様子は貴史も見て取れる。

 そろそろ、時か。

 ──しゃあねえな。今日の放課後はあいつをとっつかまえて、三者面談でもやっか。

 貴史という教師役……もとい、仲裁役がいれば立村も美里もそれなりに言いたいことが言えるだろう。評議委員同士という枠なく話し込めるはずだ。

 美里もそうして欲しがっているはずだ。

「なあ、立村」

 貴史は教室に戻ってきた立村に声をかけた。

 鞄は机に置きっぱなしだったが、最近は授業開始ぎりぎり一分前まで戻ってこないことが多い。何してるんだか。

「今日の放課後、お前、暇?」

「評議委員会があってその後なら」

「悪いんだが、さしいってお前と美里に相談してえことあるんだわ」

 首をかしげるように立村は美里を見やった。貴史の見間違いでなければ、今朝はまだふたりとも話をしていないはずだ。おかっぱ髪をぷるぷるさせながら美里が古川こずえ、奈良岡彰子となにやら内緒話をしているのが見えた。

「なんだろうそれ」

「お前さんが大嫌いな奴のことなんで、ちょいとな」

「あいつかよ」

 担任教師を「あいつ」と言い切ってしまうところに立村の本心が伺われる。

「ここだけの話だがな」

 耳元で囁く。かすかに香水くさい匂いがする。十五歳の男子とは思えない匂いだ。

「菱本先生、嫁もらうんだと」

 さすがに立村も面食らったようだ。顔を一度しかめて、

「羽飛もう一度言ってくれ」

 小声で問いただした。

「結婚式は来月、なぜなら嫁さん腹ぼっけ。ガキが生まれる前に大至急式を挙げねえと腹から出てきちまうってこと。以上、うちの母ちゃん通信より得た情報だ。感謝しろよ」

 ここまで伝えたところで新郎予定者、菱本先生が教室に入ってきたので中断せざるを得なかった。立村の返事はなかった。ぼんやり座ったまま、目を宙に泳がせていた。

「おい、立村どうした? 号令かけないのか?」

 促されるまで立村は「起立、礼、着席」をすっかり忘れていたようだった。

 天敵に先を越されたショック、ではないだろうが。

 ──まあ、それなりにがつんと来たんだろうなあ。

 号令をかけ終えて後、立村は貴史に向かい、ひとつこくんと頷いて見せた。

 つまり、放課後、OK、そういうことだ。

 次の休み時間を待って美里にも伝えておいた。

「あ、そう、わかった。いいって言ってた?」

 立村がOKしたのならば美里にも異存はない、というところだろう。


 古川につっこまれるのだけは勘弁してほしいと願っていた。

「大丈夫、今日はこずえ、これから図書局当番だって言ってたから」

 美里に確認した。口が堅い女子とは思っていないが、それでも貴史の思惑くらいは理解しているはずだ。

「お母さんからも聞いたけど、来月が結婚式なんだよね。早いよね」

 事情については、とりあえず綺麗な部分だけ聞かされているようだ。

 菱本先生のいかにも「男」たる逃げの部分は伝わっていないようだ。

 放課後、他の連中が教室からいなくなるまでまずは廊下の階段踊り場まで下りていった。二階の二年教室が並ぶ場所よりもまだ秘密が保たれそうな場所だった。

「急がねえとまずいってことだろ」

「生まれちゃったら大変だもんね」

 母から聞いた話だと、結婚そのものが決まったのは九月の初旬だったらしい。その頃に彼女の妊娠が判明し、即、菱本先生はプロポーズしたという。どこまで本当かはわからないが、貴史がこずえと一緒に見た修羅場の延長上で決まったと判断してよさそうだ。

 ただ、隠し通してきたということに、菱本先生のなんとも言えないやりきれなさを感じたりもする。その点、母ふたりは全く気付いていなかったらしい。とにかくおめでたいこととだけ、幸せな発想で片づけていた。

 たぶん、美里もそうだろう。

 こずえが懸念していた通り、美里は菱本先生の結婚に関してきれいで可愛いものだけで埋め尽くしたいようだ。簡単なことだ。事実を伝えなければいいわけだから。

 ──まずはだ、来月の結婚式に誰が出るかってことだわな。


「うーんとね、先生が結婚する場合、クラスからは評議委員が出るのが普通らしいよ」

「お前どうしてそんなこと知ってるんだ?」

「うん、常識だよ、先輩たちが話してたもん」

 どうも美里は、菱本先生に彼女がいると聞いた段階でいろいろと情報を集めていたらしい。

「だからたぶん、私と立村くんが出ることになるよね」

「あいつが、そんなの、出たがると思うか?」

「思わない、絶対、ないよね」

 首を髪の毛乱すほど振った。

「立村くんはどんなことがあっても休むよ。仮病使うのあの人平気だもん」

「まあ、あすこまで憎まなくてもなあ」

 時計を覗きこんだ。ひさびさに天気もよくて汗ばんで来ている。

「それだったら貴史が代わりに出ればいいよ。私、それの方がいいと思う」

「はあ、俺がかよ。そりゃまずいだろ」

 美里はまた、小ぶりに頭を揺らしてじっと見た。

「まずくないよ。立村くんがまた何かしでかさないうちに予防するのも、評議委員の義務だもん」

 酷い言い方だ。これでもこいつは立村の彼女なのだ。男子としては少々辛い。

「美里、お前なあ、立村聞いたら泣くぞ。否定しねえけど」

「間違ってないでしょ! 立村くん、絶対に自分がいやなことはしない人だもん。納得しないことはてこでもしないし、好きじゃない人のことは全然やさしくしないし、反対に大好きな人のことはめっちゃくちゃ命がけで守ろうとするし」

 すごいのろけ発言だった。笑ってしまう。

「なによ、貴史、なんで笑うのよ!」

「お前守られてるじゃねえの」

「そんなことないよ! 私言いたいことって違うの! 立村くんは何が何でも自分のしたいことしかしない人だって、わかってるじゃない! 大嫌いな菱本先生の結婚式なんて、たぶん黒ネクタイ用意して出るんじゃないかって気するよ。わざとらしくお祝い袋にお花料とか書きそうじゃない!」

「そりゃあ常識なしって言ってるもおなじだろが!」

 美里の弾丸攻撃、死ぬほど笑える。実際立村が「喪」に服する格好で現れそうな気がしてしまうから怖い。三年近く立村の性格を観察していると、美里の発言がまんざら嘘でもないと思えてしまう。

「でしょ! 笑い事じゃないって。だから、そのことなんだけどね、立村くんじゃなくって、貴史が出るように話を持ってった方がいいと思う。私ね、そのこと話してみようかって思うんだ」

「俺評議じゃねえけどな」

「そんなの関係ないじゃない。みんな貴史が出れば納得するよ。菱本先生だって喜ぶと思うよ。仏頂面した立村くんが結婚式のスピーチなんてやれなんて言われたら最後、何を言い出すしかわかんないよ。立村くんって、そういう人でしょ?」

「まあそうだわな。否定できねえな。けどあいつだってもしかしたら出たいかもしれねえぞ」

「大丈夫よ。たぶん立村くん、十一月の始めは生徒会改選で藤沖くんたちの手伝いしてて忙しいはずだから。生徒会の関係ですっごく忙しいからって、今日だって朝早くきて天羽くんたちとしゃべってて、さっきもまた男子評議たちだけで相談してるの。私たち女子評議が一生懸命ゆいちゃんのことで」

「美里、黙れ、もういいかげんやめろ」

 びしりと制した。美里が口を閉じた。

「これ以上お前が霧島のことでごたごたやらかしたら、立村から縁切られるぞ。あいつそのくらい平気でやらかす奴だってわかってるだろ。今お前が言ったこと全部思い出してみろ」

 口を尖らせ、目をそらせ、襟元のリボンを片手で弄っている。

「さしあたりお前、もうちょっと別のことで立村に尽くせよ。お前がばたばた騒いでいるから、なんかこう、クラスの連中にぎゃあぎゃあ言われるんだぞ」

「そんなの私、気にならないもん。あんたにはわかんないでしょ」

 堂々めぐりになりそうなので察してやめる。廊下を上り下りする人影が減ったようだ。今、階段二階踊り場には誰もいない。

「もうそろそろ教室に戻ろうよ。立村くん、来てるかもしれないし」

「そだな」

 窓辺の太陽が右の首筋をちりちり焼いた。秋の陽射しは夏の太陽に近い。日焼けしそうだった。


 教室でだべる連中は面子が決まっていて、三年D組の場合で言えば古川こずえがいる時に限り他のうるさい女子連中が固まっていることが多い。話が合うのだろう。反対に美里だけの時は、一対一でこずえがくっついている。たまに奈良岡彰子も混じっているが保健室の天使だけに即、誰かかしらが呼び出しをかけてくる。となると、古川こずえが図書館に捕まった状態の教室は、確実にからっぽだろう。

「変な理屈だよね」

「俺なりの判断だ」

 扉を開け、帰りの掃除が終わったばかりの教室に入る。鞄と体操着を机の上に載せ、ふたりそれぞれの机に座った。椅子なんてかったるくて腰掛けてられない。

 美里が足をぶらつかせながら大きく溜息を吐いた。

「ねえねえ、貴史、菱本先生の結婚式、どんな風にするのかな」

「さあ、なあ」

 言葉を濁した。裏事情を飲み込んでいる貴史にとって、とてもだが菱本先生の満面の笑みは想像できなかった。ふだんの先生が相変わらず熱血最前線を突っ走っているだけになおのことだった。もしあれが演技だとしたら……相当疲れるはずだ。

「やっぱりドレスかなあ」

「知るかよ」

「お嫁さんどんな人かなあ」

「直接聞けよ」

 真実を隠すのはかなりしんどい。ポケットからミントガムを取り出した。規律委員に見つかったら即没収だがそんな野暮なことは言いっこなしだ。美里に呼びかけた。

「おーい、ガムやるぞ」

「ちょうだい」

 ブーメラン風に投げた。うまく美里も片手で受け止めた。毎度のことだ慣れている。

「ブーケトス、やるかなあ」

「お前なあ、なんでそんなことまで考えてるんだ?」

「だってブーケトスって、次にお嫁さんになる人へ投げるんだよ」

 結婚式の細かなイベントなんて知ったことじゃない。第一、ブーケとはなんぞや?

「そんなことも知らないの? ばっかみたい」

 美里は勝ち誇った風に笑った。

「結婚式でね、次に結婚する人にブーケを投げるの。それをみんなで取り合うの」

 なんだかおぞましい光景が眼に浮かんだ。雀にパンくず投げるようなもんじゃないか。

「女子ってのはそんなことで盛り上がるのかよ」

「だって、花、受け取れたら幸せな結婚できるんだよ!」

「結婚なんてどこがいいんだよ。俺はやだね」


 美里にしても、また姉にしても女子というのはどうして結婚に憧れるのだろう。

 正直、貴史は菱本先生の本音に共感したい。

 あんな、「おなかの子とクラスの子とどっちが大事なの!」とか言うような押しの強い女子と付き合うのもいやだし、ましてや一緒に暮らすなんて地獄へいらっしゃいの世界に思える。でも、女子にとってそれは幸せの究極点らしい。

「あんたには鈴蘭優しかいないからどうでもいいけど」

「お前には立村しかいねえからどうでもいいがな」

 美里はまた机に座り直した。返事をしなかった。

「けど、本当に好きな子には違うよ。ほんと、そう思うよ」

 足をぶらぶらさせながら、少し考え呟いた。

「ほら、たとえば、二年の新井林くん、いるじゃない?」

 ──難波が言っていたあいつか。


 美里の方から振ってくるとは思わなかった。最近美里と一緒にいちゃついているらしいという二年の男子評議で、一時期は立村と評議委員長の座を奪い合ったという因縁の相手だ。貴史には何度か「羽飛先輩、お願いです、青大附中のバスケ部を守るためにぜひ、協力してください!」といった趣旨で話を持ちかけられていたが、全く興味がないので無視していた。

「バスケ部のあいつな。最近美里、あいつと話してるのかよ」

 知らん顔で聞いてみた。やはり美里は大慌てで首やら手やらばたばた動かして全否定した。

「当たり前よ。評議の後輩だよ? 話しちゃいけない? 変なこと、考えてない? 貴史、知らないかもしれないけど、新井林くんにはすっごく有名な公認の彼女がいるんだよ。話したら長くなるから言わないけど」

「らしいな。知ったことじゃねえけどよ。美里、そんなことで立村に妬かせようとしてるんだったら、そりゃあ女の浅知恵だぞ」

「何勘違いしてるのよ! 私がそんなことする分けないじゃない!」

「とある情報筋から流れてきたぞ。最近美里は二年の新井林と一緒に帰ってるってな」

 きょとんとした後、今度は机の端を叩きながら身体を揺らした。「違う」その意味だけだ。

「あのねえ、私がそんなことできると思う? 立村くんが私に妬いたりするわけ絶対ないの! 私が新井林くんと話をしてるのは、女子の気持ちとかそういうのについて、直接彼女には聞けないことについて、相談にのってあげてるだけ。ほんっと、それだけなんだから!」

「で、立村はなんて言ってるんだ?」

 さらに言葉を重ねた。

「だから! 立村くんが私にそこまで興味持ってるわけないの」

 美里の返事はどこかずれていた。

「それより貴史、どうせだったら結婚式の後に、クラスのお祝いパーティーをやろうよ! それだったら立村くんだって黙って参加するし。ね、貴史、計画立てようよ!」


 ──立村の奴、妬こうって気、ねえのか?

 難波から見て目に余る行為だったのだろうが、美里本人は全く何も考えていないようだし、浮気の心配はなさそうだった。今日は無理にしても立村には、

「おい、もう少し、やきもち妬いたほうがいいんじゃねえのか? 新井林ったら公私共にお前の超ライバルだろが? そいつに美里とられちまったらどうするんだ?」

 くらい言ってやってもよさそうだ。

 とりあえずは、美里の気持ちが立村から離れているのではないということが確認できたわけだから。ガムをかみながら貴史は大きく息を吐ききった。

「そうだな、じゃあ先走ってまずは計画立ててくか!」

 大きくこっくり頷いた美里に、貴史は思いっきり両手を広げて見せた。

「まずはでっかいポスターで『菱本先生ご結婚&おめでたおめでとうございます!』の準備だな。金沢あたりに手伝わせて超・超・ゴージャスなもん作るか!」

「うん、それいい! 今から準備しなくちゃね!」

 ひょこっと机から降り、美里は貴史の座っている机に乗っかり座った。尻と尻が直角に当たる場所で美里は、肩だけぶつけて貴史の顔を覗き込んできた。

「で、貴史、どんな風にする?」

 まだ立村の来る気配はなかった。

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