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ラ・カーム戦記  作者: 神名 信
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第41話

 ラ・カーム王国で親衛隊の発隊式が行われていたころ、イグニクェトゥアでも今後のラ・カームとの戦争・交渉について国家委員会と幕僚長カイ・ロキ、副官のアクサ・シロの間で話し合いがもたれていた。

 「今回の貴公の働きにはがっかりだよ」

 副委員長から厳しい言葉が投げかけられた。

 「返す言葉もございません」カイは素直に言った。

 「ドラゴン部隊については実質上壊滅、ラ・カーム軍は北部方面軍を犠牲にしても、我が軍全軍について殲滅するつもりであったということだな」

 「はい、そのとおりであります」

 「敵のグリフォン部隊にしても、馬鹿ではあるまい、今回のようなリザ・ゼロが何回も通用するとは思われないぞ、なにか考えがあるのか?」

 「現状、グリフォン部隊に対してこちらは各拠点に立てこもって、迎え撃つという防御に徹するほかないかと思われます」

 「それでは、何の解決にもなってないな、北部方面軍が主力となって攻めてきた場合は各個撃破される恐れもある」

 「赤軍を常時警戒態勢として南方各拠点の守りを固めております、北部方面軍とて赤軍を制圧するのは容易ではないかと」

 「みな、カイ幕僚長のみに責任をかぶせるのはやめないか」国家主席でもある国家委員会代表から戒める言葉が発せられた。

 「カイ殿がいなければ、我が軍は全滅もありえた、戦力を温存できたのはカイ殿の状況判断と撤退指揮によるところが多い」

 「もったいないお言葉です」

 「ただ、一か月を目安として、ラ・カーム軍に対しての迎撃・再侵攻についての案を提出してくれ」

 「はい、了解致しました」

 「それでは、本日の会議はここまでとする」


 「言いたい放題ですね」アクサ・シロが言った。

 「向こうは向こうで、アカデミーやら各魔術組織からのプレッシャーがある、今回の作戦指揮はわしだったのだから、なにを言われてもやむを得ない」

 「しかし、カイ様」

 「わしの方もグリフォン部隊については完全に戦力を低く見積もっていた、その誤算がドラゴン部隊全滅となったのだから、どのような叱責を受けてもなにも言えんさ」


 イグニクェトゥアはラ・カーム王国と接する南部に穀物地帯の平野があり、中央はミスリル鉱を含む山地がある、その北には極寒の山地があり全土として比較するとラ・カーム王国より一年の平均気温が五度は低い。

 首都クェトゥアはほぼ中央のミスリル鉱山近くの盆地にある。

 五軍の各本部もクェトゥアにあり、また、各魔法アカデミーもあった。

クェトゥアは政治・軍事・魔法のほかミスリル工業・ミスリル取引といった経済の中心でもあった。

 クェトゥアの人口は七十万人

 イグニクェトゥア全土の人口が五百万と言われているからその一割以上が住んでいることになる。

 クェトゥアを中心としてイグニクェトゥア各都市を結ぶ幹線道路が通っているが、毎日大量の馬車が行き交い街は賑わっていた。


 「パク」いつもより甘えた声でユナが呼んでいた。

 「なんだ?」

 「ううん、呼んでみただけ」

 「ああ」

 二人はパクの私邸で作戦後の貴重な休暇を過ごしていた。

 「あの光はなんだったのか、俺はあの後ぼんやりと周りが見えるようになったんだが」

 「え!!!!ほんと?」ユナが思わず大きな声を出した。

 「ああ」

 「私の顔も見えてるってこと?」

 「ぼんやりとだが」

 「えーちょっとまって」言ってユナは鏡に走って化粧を直していた。

 「ユナ、そんなにはっきり見えているわけじゃ・・・」

 「そーいう問題じゃありません!」

 「そ、そうなのか」

 「そうです」

 数分後、ユナが戻ってきた。

 「あの光、なんだったんでしょうね」

 「分からないが、おそらくは皇子と王女であろうな」

 「でも、パクの目が見えるようになったのね、奇跡を起こせるのかしら」

 「今回一番役に立たなかった俺がな」

 「そういうことは言わないでください、パク」

 「事実を・・・」言いかけたパクの口をユナの唇がふさぐ。

 「・・・」

 「ユナってこんなにきれいだったんだな」

 「ばか」照れてユナは下を向いた。


 ファ・ゴートとリザ・ナッシュ、それとラ・プレの三人はクェトゥアでも最も若者に人気のある場所で買い物をしていた。

 それぞれの軍から護衛を出すという申し出があったが、ファ・ゴートとリザ・ナッシュが一蹴した。

 「俺たちに手を出せるやつはいない」ということであった。

 三人は軍団長ではあっても、まだ十代であったし繁華街で遊ぶのも楽しかった。

 三人はクェトゥアの若者の間では最も有名なアイドルであった。

 街ですれ違う人たちはみんな握手を求めていたし、商店によっても大幅に値引きして売ってくれた。

 三人が買った商品という噂が出るだけで完売するくらいの宣伝効果があった。

 そして三人は仲が良かった、そもそも二人は双子であるし、ラ・プレは一人っ子ということもあり、お兄さんがほしかった。

 ただ、仲が良すぎて今さら、恋人になるような関係でもないのがファ・ゴートとリザ・ナッシュにとってはもどかしかった。

 「ラ・プレちゃん、お腹すいてない?」ファ・ゴートが気を使って言った。

 「うーん、ちょっとだけすいたかなー」

 「あ、この前兄貴と行ったお店美味しかったよ、肉料理なんだけど」

 「お肉好きー、連れてって」

 「じゃあ行こう、この通りからすぐのところだから」


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