第37話
その後、一月経っても二人の容体は変わらず、ミルシャ含めて水魔法のマスター十人は二人につきっきりで術式を唱えていた。
ただ、ラ・カームの希望もあり学校は再開されることになった。
剣術については変わらずシュナイゼルが教えることになったが、魔法の授業についてはミルシャの不在を埋めるべく後任が決まった。
「サーシャ・アビヌです、今後よろしくお願いします、殿下」
元気よく挨拶をしたサーシャは王国では初めて三系統の魔術のマスターの称号を得た少女であった。
炎、水、雷のマスターの称号を持ち、夢はメノ・インヴォース、西の魔人を一人で倒すという途方もないものであり、自身に満ち溢れていた。
若干十六歳の少女は、黒い髪の右前髪だけが赤毛であり、さらに左目は黒いが、右目は赤いという生まれつき不思議な特性を持っていた。
それでも、彼女は自分だけの個性であるとコンプレックスに思うこともなかった。
「サーシャは、魔術担当教官ですが、ラ・カーム殿下の直属の部下となります、今後なにかとご迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします」シュナイゼルが言った。
「ラ・カーム殿下、光栄です!」元気よくサーシャが言う。
「サーシャさん、ありがとう僕にはまだなにもできないから、よろしくお願いします。よかったら、ラァとラナの治療にも手を貸してくれないかな」
「殿下の命令であればなんでもします!」
ラ・カーム王国には、国王の下に北部方面軍・南部方面軍・近衛団・ダ・ゴール自治軍の四軍があるが、それとは別組織となる。皇子親衛隊は、五つ目の軍団となる。
ただし、現在はラ・カーム皇子の他サーシャ・アビヌ一人である。
正式には王国歴八八五年九月十五日発足となっている。
それからさらに一か月が経ち十月になったが、ラァとラナの容体は変わらなかった。
その間、ラ・カームは剣術と魔法の教育を一人で学んでいたが、この間のラ・カームの成長は特筆すべきものであった。
十月現在、シュナイゼルとの稽古においてもほぼ互角の打ち合いができるようになり、また雷魔法においてはマスターの認定までもらっている。
「ラ・カームさまぁ、もう魔術は教えることないですよー」サーシャがラ・カームに言う。
「でも、僕の魔術では、多分リザ・ナッシュには勝てないでしょう」
「リザ・ナッシュはイグニクェトゥアでも最強の雷術者ですよー、私でも無理ですー」
「サーシャさんは、西の魔人も倒したいんでしょ?リザ・ナッシュが倒せなければそんなことはできるはずもないですよ」
「それは、そうなんですけど、あ、殿下今日は収穫祭があるんですよ、よかったら一緒に行きませんか」
「お誘いありがとう、でも学校が終わったらラァとラナのところへ行かなきゃ」
「・・・はい、すみません」




