第36話
じっとしていられずに、ラ・カームが階下へ降りると、ちょうど御前会議を終えたダナ・カシムがいた。
「殿下御無沙汰しております」ダナ・カシムが声をかける。
「団長、頼みがあります」
「なんでしょうか」
「イグニクェトゥアには青軍団長を務めるラ・プレという女性がいるそうで、回復魔法においては世界一とか」
「わたしも聞いたことはあります」
「ラァとラナの治療をその方に頼めないでしょうか、交換に僕の命を差し出してもいいです」
「殿下、言っていいこととそうでないものがあります」
「冗談ではありません」
ラ・カームが言った瞬間ダナ・カシムはラ・カームの肩をつかんで言った。
「殿下、申し訳ないがあなたの命はあなただけのものじゃない、今回俺の軍で一万の犠牲が出た、全てこの国を守るため、陛下や殿下のためです、いい加減にしてください」周囲を気遣ってはいるが殺気すらこもった声でダナ・カシムは言った。
「すまない、団長・・・」
「殿下、あなたはまだなんの力もない、シュナイゼルやミルシャに守られている、王国に守られている」
「はい」
「それは投資です、この国の、殿下はラ・カーム王国全国民の希望なんですよ、俺の部下もロゼたち死んでいったやつらも、それを信じたから今回の作戦、勝利したんです」
「ありがとう・・・団長」
「いえ言いすぎました、殿下、申し訳ありません、無責任な言い方かもしれませんが、殿下はいい国王になられると思います」
「それまで、この国を支えてください、団長」
「はい」
「殿下にもお会いできました、夕刻には軍団本部に戻ります、ラァ様、ラナ様にもよろしくお伝えください」
「はい、くれぐれも無理はなさらないでください」
「ありがたきお言葉です、殿下」言って、ダナ・カシムは踵を返した。




