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ラ・カーム戦記  作者: 神名 信
27/70

第27話

「ラ・カーム手を握って」ラナが呟いた。

 「あ、うん」

 ラナの手は震えていた。

 ラ・カームはラァのことも抱きしめた。


 イグニクェトゥア軍の五軍については、ファ・ゴート率いる赤軍が右翼・リザ・ナッシュ率いる紫軍が左翼に配置されている。

 名前は全く違うが、この二人は双子の兄弟である。

 イグニクェトゥアにあっても最も古い家系に生まれた二人は競い合いながら成長していった。

 軍団長に就任したのも、同日であり現在十九歳になる二人はイグニクェトゥアにあって最も期待されている魔術師であり軍団長である。

 赤軍・紫軍については先鋒を務めるだけあって歩兵についても最強クラスの兵隊がついている。

 赤軍・紫軍に続いては緑軍・黄軍が続き、回復と補給を担当する水軍が後詰となっている。

 緑軍団長は風魔法「ユ・ガルーダ」=空中飛行で過去最高速を記録したユ・ネルが率いている。

 ユ・ネルのガルーダの高速飛行は通常の術者の二倍を超える移動速度だと言われている。

 黄軍団長と副団長は潜入工作のため不在であり、今回黄軍はカイ・ロキが直接指揮をすることとなっている。

 水軍団長については、ラ・プレという若干十四歳の少女が任命されている。

 ラ・プレの回復魔法については、天使の息吹と言われるほどの人気がある。

 また、ラ・プレ自身のおっとりした性格や顔立ちの良さ、腰まで伸びた黒髪の美しさからもイグニクェトゥア軍のトップアイドルと言ってもいい存在であり、軍団長以外の男性が話しかけるには命がけであるという噂まで流れている。


 「兄貴、今回は俺がダナ・カシムの首をとるぜ、あいつには散々部下を殺されているからな」リザ・ナッシュが隣で馬を走らせているファ・ゴートに伝えた。

 「それを言うなら俺も同じだ、お前は紫軍の担当である対空防御にまわれ」ファ・ゴートがたしなめた。

 「兄貴、そう言いながらラ・プレちゃんにアピールしたいだけだろ?」

 「ば、ばかか、今回の作戦はそんな個人的なものではないだろう、五軍すべてが投入されているんだぞ」

 「じゃあ、兄貴は俺のフォローにまわってくれ、俺はダナ・カシムを倒してプレちゃんに告白するから」

 「上等だ、今から赤軍全軍でお前を倒しに行く、そこで停止しておけ」

 「ちょ、まじで、俺ら二人とも軍法会議ものになるからやめてくれ。兄貴はプレちゃんの話になると止まらないからなー」

 「そうそう、この前ラ・ケアをかけてもらったんだが、もうねこのまま死んでもいいと思えるようなヒールだったぜ」

 「・・・兄貴、今紫軍の男子全員を敵に回したぜ、今回の戦場では背中に気をつけな」

 「ば、おまえがそんなだから怖がって誰もラ・プレちゃんに友達できないんだろ、大人になれよ」

 二人の会話の間にもイグニクェトゥア軍の行軍は進み、すでにラ・カーム領土深くまで入り込んでいる。

 

 ラ・カーム王国北部方面軍はイグニクェトゥアの行軍を見ながら、手を出せないでいた。

 「キューゼル、南部方面軍はまだこないのか?」ダナ・カシムは副官の女性にそう呟いた。

 「まだです、報告によれば南部方面軍航空部隊『グリフォン』一万機の到着は二時間かかります。また、現段階で北軍が動けば到着前に壊滅する可能性が八十五パーセントです」

 「身も蓋もない言い方するなよ、キューゼルもっと可愛らしく言えないのか?美人が台無しだぞ」

 「私の容貌と戦況は関係ないかと思いますが、団長」

 「いや・・・なんでもない」

 

 ダナ・カシムは副官との話をやめ、団長席に戻った。

 ダナ・カシムは英雄と言えるだけの剣技と度量を持っていたが一軍の団長として大勢を見誤ることのない冷静さを持っていた。

 二十万にも迫る敵軍を相手に北部方面軍は七万しかいない。

 イグニクェトゥアは五軍団長をはじめ、幕僚長カイ・ロキまで出陣しているはずである。

 さらに、北部森林の中でも奇襲ができるような場所は巧みに避けている敵軍に対して無策に突撃することはできなかった。

 ・・・この時期に攻めてくるとはな、坊やたちが狙われているか?しかし、カイのじじいが出てきているということは本気で北部森林をぶんどるつもりか。


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