第25話
この作戦の理由は単純で、大規模な陽動であった。
真の目的は皇子の暗殺
それができない場合でも電撃戦によってラ・カーム王国の戦力を削ぎ、決定的な勝利を収められれば、そこから政治交渉によってラ・カーム王国との和平にこぎつけるという二段構えになっていた。
しかし、そのどちらも達成しえなかった場合イグニクェトゥア五軍の戦力は大幅に低下し、かつこの遠征にかかった莫大な費用についても財政を悪化させるであろう。
作戦指揮官はカイ・ロキ自身が執ることになっている。
イグニクェトゥア軍集結の情報はラ・カーム側に漏れていることは計算のうちであった。
しかし、ラ・カームの北部方面軍の迎撃部隊はイグニクェトゥア五軍の半数以下であり、いかに勇猛なダナ・カシムが率いているといってもすぐには迎撃態勢に移れない。
南部方面軍、ダ・コール自衛軍等の援軍の到着前に橋頭保を築いてしまえば良い。
そして、今回の作戦発動と同時にクアナ湖にいる皇太子を暗殺部隊が急襲できるかどうかが最大のポイントとなる。
今回の暗殺部隊には、イグニクェトゥアの黄軍団長であるパク・ドゥーンが務める。
パク・ドゥーンの使うインビジについては、魔法による看破が不可能と言われ、最も隠密性の高い魔術師であり、かつ剣の腕も秀でている。
パク・ドゥーンはすでに、配下とともにラ・カーム王国内に潜伏しているはずである。
「現在主戦力の八割が集結しています」副官のアクサが伝えた。
「ほぼ予定通りか、二時間後にラ・カーム領内に突入する。まだ集結していない部隊は順次合流させろ」カイ・ロキは伝えた。
十六万の将兵が集結しており、ラ・カーム王国が迎撃態勢をとるのは時間の問題であった。
この時点で皇子たちが王都に引き返そうとしても、すでにパク・ドゥーンが皇子を捉えられる地点にいるはずであり、作戦に支障はないはずであった。
この作戦に先立つ三か月前にパク・ドゥーンは五十名の部下を率いてラ・カーム領内に潜入していた。
パク・ドゥーンは生まれつき目が見えない。
魔術師の家系出身ではあったが、それほど裕福な家ではなかった。
また、パク・ドゥーンの両親はパクに大きな期待をかけていたわけではなかった。
魔法の教育をするにつれて、土魔法の才能があると分かったが、それでも食べるのに困らない程度の魔術師になれれば良かった。
イグニクェトゥアには五系統の魔法を一般的に教える魔術学院と専門的に教えるアカデミーがある。
アカデミーは基本的には魔術学院出身者が進学するところであり、年齢的にも十八歳~二十歳で入学するのが通例である。
パクに関しては十歳の時にアカデミーからの招待があり、さらには特待生として授業料免除の他生活費まで支給された。
それ以降パクはアカデミーでひたすら土魔法の研究と実戦をこなし、十五歳の時には士官待遇で黄軍に入隊した。
パクはサイレントキラーの異名を持ち、多くの戦場で敵将を至近距離からのシミターによって倒していた。
三年前にその功績により黄軍団長となってからもなお、自らの手で多くの敵将を倒していった。
パクの才能か、全盲であるが故なのか、戦場の流れを読む力、いわゆる急所を押えていた。
ラ・カーム軍が勢いづいた瞬間の指揮官・もしくは撤退戦の要となる人物、それをこのタイミングという絶妙なタイミングで殺していった。
北部方面軍団長ダナ・カシムをして、「パクは必ず俺の手で殺す」とまで言わしめている。
通常のマジシャンが使うインビジは数十分が限界であり、敵地奥深くまで潜入できない。
しかし、パクのインビジは数十時間から丸一日も持つと言われている。
パクの手段は暗殺と呼ぶようなものであったが、インビジを極めたパクからすれば、戦争において自分のできうる最も効果的な戦闘方法であり恥じるものではなかった。
さらに、今回の作戦はパクなしでは立案すらしなかっただろう作戦であり、他の系統からすれば一つ格下と見られがちな土魔法の地位向上という魔法大国ならではの派閥意識もあった。
・・・しかし、斃した相手が死ぬ瞬間に見せる光はなんだ。光の入らぬ世界に住んでいる俺に唯一見える光
あの光はいつか俺が辿る道を示しているのか?
「・・団長、パク団長」
パクが考えていると副官がそう呼んでいた。
「なんだ」
「伝令です、本日一時間後に作戦発動します」
「時間通りだな、さすがカイ殿」
「指示通りクアナ湖の北、首都ラー方面へは三十名配置しました」
「分かった」短く呟いた。
「ここからは俺は単独行動に出る、もし五時間経っても俺が帰らなければ本体に合流しろ」
「パク様、せめて私だけでも一緒に」副官も土魔法のマスターであり、パクの副官として三年間行動を共にしている、今年で二十歳となる女性であった。
パクのことは指揮官として以上に、一言で言えば恋をしていた。
「ユナ、ついてきてもらえば邪魔になるだけだ」
「はい・・・申し訳ございません」




