第13話
第二章クアナ胡
数日後
「今日は発表があります」
「来週の七月三十日から夏季合宿を五泊六日で行います」ミルシャは発表した。
三人にとっては初めての王宮の外での宿泊ということで、三人ともはしゃいでいた。
「先生、海ですよね??」とラァ
「厳密には海とは違います、王国最大の湖クアナ湖です、水泳等できますので、水着等の準備も事務局に申し出ておいてくださいね」
「はーい」と元気に三人は返事をした。
「海よ、海」ラァははしゃいでいた。
「海じゃなくて湖でしょ」ラ・カームが訂正した。
「でも、クアナ湖は向こう岸見えないくらい大きいんだよ」
「えっと・・・水着かぁー、ミルシャ先生似合いそうだね」ラナが相変わらずマイペースに話を切り出した。
「そうよね、先生スタイルいいし、いつもきちんとしているけど、絶対胸大きいよね」ラァが話に乗っかった。
「・・・」ラ・カームはちょっと照れているようだ。
「ちょっと、ラ・カームなに照れているの」ラァがすかさず突っ込んだ。
「・・・ラ・カーム変態」ラナも突っ込みを入れている。
「そ・・そんなことないよ、あれだあれ、今日は午後は一緒に魔法講義だね」
『そうね』二人とも目が細くなって、ラ・カームを見た。
午後の魔法講義は魔法の攻防についてであった。
「魔法については、攻撃系の術式、防御系の術式、回復系統の術式、戦闘補助のための術式と大きく四つに分類できます」とミルシャ
「私が使える水系統の術式においては、防御と回復が主な役割になります、また、実際の戦場においては、魔術師が詠唱している時間に敵から攻撃されないために、ファイター系の前衛が『壁』を作り、後衛にいる、魔術師を守ります」
「戦場にあっては、前衛がいかに持ちこたえるか、魔術師がどのように効果的な術式を唱えられるかが基本的な役割になります」
「逆にいえば、ラ・カーム殿下のような戦士であれば、魔術師の詠唱が終わるまでに前衛を突破して、魔術師を倒すことが求められますし、ラァ様、ラナ様のような術者の詠唱時間を持ちこたえることも前衛として必要になってきます」
「ラァ様、ラナ様のような術者であれば、前衛の壁からどれくらい距離を取って詠唱するかが、問題となります」
「魔法には有効距離がありますので、あまり離れすぎて詠唱しても魔法の効果がなく、逆に前衛に近すぎれば前衛が突破された場合に非常に危険であります」
「ただ、ラァ様、ラナ様のように回復系、防御系の術者は通常最前線には立たずに、負傷兵などが搬送されてきた場合に救護にあたったり、前もって防御系の術式を前衛に使用したりすることが多いはずです」
「水系統においては、魔法ダメージを治癒する、ラ・キュリス、物理ダメージを治癒するラ・ケアが最も代表的な術式で、ラァ様もラナ様もすでに習得済みですよね」
「また、水系統の術式ラ・ナーガは対象者を魔法攻撃からガードできる効果があります」
「どの術式も基本的には術者の魔力に応じて効果が異なるので、毎日お二方にやっていただいている魔力の基礎練習は非常に重要になります」
「さらにラァ様の使える風系統の魔法においてはユ・タイトといった攻撃系の魔法や、術者が空中飛行できるユ・ガルーダといった術式があり、使い方次第で非常に有効な術式となります」
「ラナ様が使える土系統の魔法にはバク・ゴーレムといってゴーレムを召喚して戦わせられる術式や、バク・ドラゴンという兵員輸送用のドラゴンを召喚できる術式もあり多様な戦略・戦術が立てられる魔法となっております」
「ラ・カーム殿下においては雷系統の術式の素養があります」
「雷系統については、対空攻撃用のリザ・ドウムやリザ・ストームが主な魔法ですが、地上攻撃魔法のリザ・グラウンドを使いこなせてようやく雷魔法の術者としてマスタークラスと言えます」
「ラ・カーム殿下については、まだ剣術の修行のほうで時間が割かれていますが、卒業するまでには、マスターまで到達できると私は思っています」
「なお、魔法を付与された武器、エンチャント・ウェポンの中でも、特に風系統の術式ユ・プラスエンチャントによって作られた武器には生命が宿り、その武器によって選ばれたマスターが魔術を使えなくても、様々な付随効果で魔力を打ち消すような戦い方があります」
「北部方面軍の団長の・・・・・、ダナ・カシムが使うウォーアクスなどは、魔法を打ち消す術式がかけられています。」
「また、王家に伝わるソード・オブ・ラーのように、使用者の精神力や魔力に応じてその威力が異なる武器も存在します。ただ、ソード・オブ・ラーについては風系統の術式で作られた物かは判明しておりません。」
「戦場においては、基本の攻防のみでなく、あらゆる状況に対応する臨機応変さこそが必要になってきます」
ここまで伝えて午後の授業も終わった。
夜遅く、宿舎からラナが出ていった。
「ミルシャ先生に見つからなかったかな?」
バスケットのようなかごを持ちながら学校の正門のほうへ歩いて行った。
「ラナ様、どうなさいました?」
後ろから男性の声がした。
「あ、シュナイゼル」
「シュナイゼルが毎日夜は私たちを護ってくれているから、お礼にと思って」
ラナはバスケットからパンケーキを取り出した。
「初めて作ったから、あまりうまく焼けてないかもしれないけど」
「ラナ様、お気遣いありがとうございます、お二方も心配していると思います、宿舎にお帰りください」
「うん、シュナイゼルもあまり無理しないでね、いつもありがとう」
そう言うと、ラナは宿舎へと小走りに戻っていった。




