九章 ~目覚め 舞台裏~
「……う、う~ん」
暖かな風を肌で感じながら、私は目を開けた。
「あれ……ここって、確か」
目覚めた場所は、どこか見覚えがあった。見るからに高級な家具、豪華な装飾を施された額縁と、そこに収められた絵画。……多分、ここはあやめさんの屋敷だ。どうして、こんなところにいるんだろうか、私。
「目ぇ、覚めたか?」
声がしたのでそちらを振り返ってみると、そこには何故か夢ちゃんがいて、窓の外を眺めていた。
「あんた確か、牧野桜とかいうたな? どうや、目覚めの程は?」
そこでようやく、さっきまでの記憶が蘇ってきた。確か、誰かの視線を感じて―――それから、意識が消えたんだった。っていうことは……。
「あ、ちゃうちゃう。確かにうちは、あんたを連れてくるように頼んだけど、何も気絶させろなんて命令してないから」
夢ちゃんの台詞は、私の予想を裏付けた。つまり、夢ちゃんが私を襲わせたということ。
「うちはただ、見てもらいたいもんがあっただけなんや。けど、うちの連中は血気盛んでな。連れて来いって命令すると、大抵気絶させてくるねん。ええ加減その癖直すように言うてるんやけど、中々なぁ~」
……そういえば、前にも似たような状況になったけど。あやめさん、あの時は絶対に態とやったよね……。
「んで、ちょっちこれ見て」
夢ちゃんは小型のポータブルテレビを持ってきて、私の前に置いた。テレビには、屋敷の様子が映っているみたいだ。
「あれ……? これって、中田君……?」
テレビの光景の中には、中田君の姿があった。屋敷の廊下を疾走しているようで、彼の姿を追うためか、映像の視点がころころ変わっている。
「今、優にはちょっとしたゲームを楽しんでもらっとるんや」
「ゲーム?」
すると、画面に二つの人影が現れた。どうやら二人とも、黒いスーツの男性みたいだ。
「あっ」
けれどその二人は、突進してきた中田君に吹き飛ばされてしまった。……いや、比喩とかじゃなくて、ほんとに突進で吹き飛ばされていた。
「……無敵状態?」
そのあまりにコミカルな場面に、私は思わずそう漏らしていた。……だって、まるで某ゲームの一場面みたいだったんだから。
「まあ、そうやな。今の優は本気やし、普通の人間では到底敵わん。つまり無敵や」
そうこう言っている間にも、中田君はどんどん屋敷の奥へと進んでいった。一体、どこへ向かっているのだろうか? それに、あの男性たちは? 夢ちゃんはゲームとか言ってたけど……。
「見ながらでええから、ちょっち聞いてくれへん?」
夢ちゃんは、私の隣に座って、一緒にモニターを眺めるような状態になった。その方が、私と話しやすいと思ったのだろうか?
「うちが魔女って話、あやめから聞いとるよな? そして、優も魔女ってことも」
「う、うん……」
っていうか、何でそのことを知っているんだろうか……? あやめさんが話したのだろうか?
「そのせいか優は―――これはうちにもいえることやけど―――誰にも本当の自分を見せたがらんのや」
「本当の、自分……?」
どういう意味だろうか? 普段の中田君は、偽者なのだろうか? それとも、嘘を吐いている、とか?
「いや、正確には「本当の力」を見せたがらないって感じやな。なんていうか……自分の、魔女としての本性を、な」
「魔女としての、本性……」
夢ちゃんの言葉が、私には分からなかった。彼女もそれに気づいているのか、小さく笑いながら、こう言った。
「見てたら分かる。―――魔女の、恐ろしさが」
えっ? と問い返すよりも前に、モニターの映像に変化が訪れた。中田君が立ち止まったのだ。
「ほらほら、最終ステージやで」
中田君がいるのは広い部屋、それも食堂だった。そしてその部屋には、銃を持った男が沢山いて……って、え?
「こ、これって……!」
「ああ、優は、この屋敷が何者かに占拠されたって思ってるはずやで。けど、その男たちはただの役者や」
役者……ってことは、悪い人たちじゃ、ないんだよね? 銃も、小道具なんだよね?
「さて、お手並み拝見やな」
けど、夢ちゃんの浮かべる不気味な笑みを見ていると、不安は全然消えなかった。




