八章 ~冬イベ 準備万端~
◇
翌日、つまりは十二月二十五日、クリスマス。目を覚ますと、そこはいつもの自室ではなく、上等な布団と豪奢なベッドのある部屋―――あやめの家にあるゲストルームだった。隣では、西崎君が盛大ないびきをかいている……そっか、昨日は夜遅くまで騒いでたから。
「……この分だと、あやめは寝てますよね」
あの子、絶対牧野さんと夜更かししてるはずだし……。さて、どうしたものか。
「起きるまで待つと、今日の準備に支障が出ますし……かといって、家主に挨拶もなしに帰るのはどうなんでしょうか?」
正直、あやめ相手にそこまで気を遣う必要はないんだけど、最低限の礼節は弁えたいし。……あ、そうだ。
「高洲さんに挨拶してから帰ろう」
高洲さんはあやめの執事だし、実質的にこの屋敷を管理しているから、ある意味家主といえなくもない。私が早く帰ることは伝えてあるので、帰り際に一声掛けておけば大丈夫だろう。
「……となれば、早いとこ身支度しないとですね」
急ぐことはないんだけど、だからってのんびりはしていられない。兄さんが勝手に料理を食べていないかも気掛かりだし……。
◇
高洲さんのところへ顔を出すと、朝食の準備が整っていたので、折角だからと頂くことにした。それから自宅へと戻り、パーティーの準備に取り掛かる。幸いにも、兄さんの摘み食いには遭っていなかったようなので、料理のほうは問題なしだった。地下室で会場の設営や、昼食の用意を済ませると、もう二時を過ぎていた。
「そろそろ誰か来るかもですね……」
開始は四時からだけど、早めに来る人は多い。因みにあやめは例年通りだと遅れてくる。……そういえば、西崎君はどうしてるんだろうか? あやめといい雰囲気には―――ならないか。彼のことだし。牧野さんもいるし。
「っと。ほんとに誰か来た」
呼び鈴が鳴り、来訪者の存在を告げてくる。まだ約束の二時間前なのに……となると、これはやはり、あの人か。
「はーい」
「よっ」
玄関の扉を開くと、そこにいたのはロン毛の少年―――孝介さんだった。今までは家の都合云々で来られなかった孝介さんだけど、今年は予定が空いたらしく、参加することとなった。
「準備は捗ってるか?」
「ええ、万全です」
「そうか。手伝おうと思ったんだが……不要だったか」
孝介さんは私と主夫仲間だからなのか、こういう催し物にはいち早く駆けつけて、私を手伝おうとしてくる。その結果、二時間も前にやって来たのだろう。けれど、用意は殆ど終わっているので、彼の出番はない。
「孝介さんはお客さんなんですから、手伝おうだなんて思わなくていいんですよ?」
「まあ、そうなんだけどな……」
やっぱり、気配りの出来る人だとこうなるのか。あやめや兄さんなんて、寧ろ逆だし。……姉さん? あの人は論外。
「それより……聖ちゃんは一緒じゃないんですか?」
「ああ。なんでも、友達とクリパがあるらしい」
「そうですか」
海での一件以来会っていないから、久しぶりに会いたかったんだけど、それなら仕方ない。
「にしても、そういう名目で彼氏とデートだったら大変ですね」
「何……!? 聖に彼氏だと!?」
残念ついでにからかってあげようと思いそう言うと、突然孝介さんが血走った目で叫びだした。……この人、相変わらず重度のシスコンだ。前も、聖ちゃんが男の子と一緒にいたのを見て、大立ち回りしたことが―――
「誰だ!? 誰が俺の可愛い聖を誑かしたんだ!? 今すぐぶちのめしてやる!」
「落ち着いてください。冗談です」
それから孝介さんを宥めるのに少し掛かった。……次からは気をつけよう。
「なるほど、ほんとに準備は済んだんだな」
すっかり落ち着いた孝介さんは、会場となる地下室を見てこう漏らした。置いてあった物をどかしてテーブルを並べた部屋は、クリスマスツリーなどの装飾も万全で、あとは料理を運んでくるだけだった。
「となると、折角早く来たのにやることがないな……」
というか、孝介さんはいつもこういう催しに早く来て、結局することがなくて暇を持て余すのだ。……いい加減、学習して欲しい。いくら今回のパーティーに初参加とは言えど。
「それなら、本を何冊か貸しましょうか?」
「おお、助かる」
丁度、この前届いた本があるし。読んでもらったら感想聞こう。
◇
「……ん? 誰か来たんじゃないか?」
三十分ほど経過した頃、鳴り響いたチャイムに、本を読んでいた孝介さんが顔を上げる。
「この時間に来るってことは……日暮さんか理夢ちゃんだと思います。というわけで、ちょっと行って来ますね」
「おう」
孝介さんに断ってから、応対のために玄関へと向かう。因みに、日暮さんも理夢ちゃんも私の幼馴染だ。
「はーい」
「よっ」
「やっほー!」
ドアを開けると、そこにいたのは二人の女の子。一人は私より少し背の低い子で、ボブよりちょっとだけ伸びた癖毛が特徴的。もう一人は、見るからに小さい子で、私の胸辺りくらいの背しかない。トレードマークとなっているツインテールの内、右の房を束ねるゴムには、扇形の陶器片が結わえてあった。
「日暮さんと理夢ちゃんじゃないですか。二人で一緒に来たんですか?」
この二人が、さっき言っていた日暮さんと理夢ちゃんだ。髪の短いほうが日暮さんで私と同い年、ツインテールのほうが理夢ちゃんで私より一つ年上だ。
「おう。途中でバッタリな」
そう答える日暮さんは、女子にしてはハスキーな声で、どことなく爽やかな印象を受ける。まあ実際、細かいことは気にしないさっぱりとした性格だし。
「まいちゃんのおうちにいくんだから、ばったりしてもふしぎじゃないよね?」
まいちゃん、というのは私のことだ。何故彼女がそう呼んでいるのかは……牧野さんが来たら話すことになるだろうし、そのときでいいか。
「それじゃあ二人とも、入って下さい」
「ああ」
「おじゃましまーす!」
さてと。これで残るのはあやめたちだけだ。




