五章 ~冬イベ 駄弁リング~
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十二月二十四日、クリスマスイブの日。あやめさんの家にお呼ばれしている日だ。前に来たことがあるから道には迷わなかったけど、相変わらず広大な屋敷で気後れしてしまう。
「さ、こちらへ」
高洲さんの案内で通されたのは、妙に広い部屋。高洲さんによると、ここはレクリエーションルームらしい。
「あ、桜ちゃ~ん! やっと来たZE! マイ・ソウル・メイト! さあさあナイトフィーバーの始まりだYO!」
部屋の中央にいたあやめさんは、いつかの暴走状態になってた……。どうして?
「ちぃーす―――って牧野ちゃん。どしたの? こんなとこで突っ立って」
思わず呆然としていると、西崎君が部屋に入ってきた。どうやら、彼も到着したみたい。
「HEY! ゆーたんもフィーバーしようZE!」
「あー……なるほど、もう出来上がってたか」
暴走したあやめさんを見て、西崎君は納得したように頷いている。けれどあやめさんは、そんな西崎君には目もくれず、変な踊りを披露している。……ほんと、この人大丈夫なんだろうか?
「よっしゃー! 盛り上がってきたZE!」
盛り上がっているのはあやめさん一人だけのような気が……。
「お次は恒例のぉーーー……や・きゅ・う・け・ん・だぁーーー!」
「や、野球拳って……」
それって、じゃんけんをして、負けたほうが、ぬ、脱ぐ……奴だよね? どうしていきなり、何の脈絡もなく……?
「よぅし! さ~いしょ~はグー!」
とか考えているうちに、あやめさんがじゃんけんを始めてしまった。
「じゃ~んけ~ん……ぽん!」
「え……!? ええと、ぽ、ぽん!」
つい、反射的に手を出してしまう。……それが我が身を滅ぼすことくらい、分かりきっていたのに。
「うっし! あやちゃん一人勝ち!」
あやめさんが出したのはグーで、私と西崎君が出したのはチョキ……。こ、これは……。
「ちゅーわけでぇ~……ほれほれぇ~! 脱ぎねぇ脱ぎねぇ~!」
……このとき私は、悪夢の始まりを感じて身を震わしたのだった。
◇
「なるほど、そういうことになっていましたか」
あの後、中田君が到着したことで野球拳は中止となり、私たちは難を逃れた。そして今は、中田君に事の顛末(と呼べるほどの内容でもないけど)を話していた。
「全く、いくらなんでもはしゃぎすぎです」
「はい……すみません」
そのあやめさんといえば、床に正座させられていた。さっき許してもらったはずなんだけど、また調子に乗ってツイスターをやろうと言い出したため、この状態になってしまったのだ。そして、さっきのこともついでに叱られている。
「大体、野球拳は一対一でしょうに」
「そこ……?」
二人でやるならいいの……?
「そうですよね? 西崎君」
「何故そこで俺に振るし……?」
「だって、君は結構楽しんでしましたよね?」
え……? 西崎君って、そういう人だったんだ……。なんかショック。
「こらこら、そういう誤解を招くようなことを―――」
「分かってますよ。誤解を招くために言ってるんですから」
……っていうか、中田君もちょっとふざけてない? 普段真面目な分、余計に目立つのかもだけど。
「まあ、遊ぶなら普通にトランプですよね。定番ですし」
そう言って、中田君はトランプを取り出した。手品で使うような絵柄のトランプだ。
「とりあえず、大富豪でもしましょうか」
中田君の提案により、とりあえずみんなで大富豪をすることになった。
◇
それから、日が沈むまでトランプで遊んだ(因みに、ほぼ全戦で中田君の一人勝ちだった)。その後、食堂で夕食をご馳走になった。クリスマスイブだからとやたら豪勢な料理のフルコースだったけど、中田君も西崎君も普通にしていたから、あやめさんの家に来ると普段からこんな感じなのかもしれない。食事の後は入浴を済まし、あやめさんの自室に移動して、パジャマパーティー(要するにただ駄弁るだけ)となった。
「よっし! これからは私の時間だぜ!」
「こら、調子乗らないの」
ガッツポーズをしてテンション全開のあやめさんに、中田君がチョップを決める。今回はブレーキがちゃんと働いているみたいで助かる。
「えぇ~? 折角の機会だから、桜ちゃんに色々と根掘り葉掘り聞きたいのに……」
「どうして私限定なの……?」
「だって、優や西崎君のことは全部知ってるし」
そうだろうけど……だからって、一人だけ色々聞かれるのはあまりいい気がしない。という思考を読み取ったのか、あやめさんがこんな提案をしてきた。
「それなら、お題を出して、それについてみんなで話し合うのはどう? それなら桜ちゃんも、私たちのことが聞けるから、公平だよ?」
確かにそれならいいと思うけど……そのお題って、どうやって決めるの?
「因みに、お題はこの中に用意してあります」
そう言ってあやめさんが取り出したのは、お菓子の空き箱と思しきものに穴を空けた物体。この中に、お題を書いた紙が入っているのだろう。
「それじゃあ栄えある一回目は~……じゃじゃ~ん!」
みんなの了承も待たず、あやめさんは取り出した紙を広げ、内容を読み上げる。
「「好きな異性のタイプ」に決定っ!」
好きな異性のタイプって……え!? そんなの、聞かれても分からないんだけど……。
「じゃあまず桜ちゃんから! どぞ!」
「え、えぇっ!?」
しかも一番バッターだし! さも当然のように振ってるあやめさんを、これほどまでに恨めしく思ったことがいままでにあっただろうか?
「ささ、ズバッと言っちゃいなよ!」
「え、えっと……優しい人、かな?」
とりあえず、無難な返答でこの場を乗り切ることにする。……いや、ほんとはそういうこと聞かれても答えられないんだけどね。……男の人って、まだちょっと苦手だし。
「なるほど~。つまり、桜ちゃんは優みたいな人が好み……と?」
「ちょっ、なんでそういう結論になってるんです?」
あやめさんの発言に、私よりも先に中田君が反応した。いつもより慌てているような気がするけど……その理由によっては、ちょっと傷つくかも。
「あれ? 優は嫌なの? 桜ちゃんに好かれるの」
「そんなことはありませんけど……もぅ、どうしてみんな、そういう方向に持っていくんですか?」
みんな? もしかして、他にも誰かに同じようなことを言われたのかな?
「はいはい。じゃあ、そういう優はどんな女の子が好みなの?」
「……あやめと正反対の子、でしょうか」
「なるほど、桜ちゃんみたいな子だね」
皮肉めいた口調で答える中田君。しかしあやめさんはこれっぽっちも堪えていなくて、寧ろ私を巻き込んでいく。
「どうしてそうなるんですか?」
「だって、私と正反対ってことは、ないすばでぃーな庶民派で、大人しい控えめな子ってことでしょ?」
「自分がじゃじゃ馬で自分勝手なトラブルメーカーだって自覚はあったんですね」
それより、ないすばでぃーって……私、そんなに背が高いのかな?
「いいと思うよ、桜ちゃん。いい子だし、私としても、桜ちゃんになら譲ってもいいし」
「譲るも何も、私は別にあなたの所有物ではありませんよ?」
っていうか、いつの間にか私と中田君が相思相愛みたいな流れになってる気が……。
「それで? そういうあやめはどうなんですか?」
「私? 私は勿論、優一択だよ?」
あやめさんはなんでもないような風を装って、そう答えているけど……本心はどうなんだろうか? 中田君を想うのが辛いから、態と私とくっつけようとしているのではないかと思えてきて、そう考えるとちょっぴり切ない気持ちになってしまう。
「そんなことより……西崎君はどうなの?」
「お、俺……?」
そして次なる標的(?)は、今まで沈黙を貫いていた西崎君に。……どうしよう、何故か「中田君」以外の回答が想像できない。
「西崎君の場合、答えは一つしかないですよね」
「ちょっ、優、何を言い出すんだ……!?」
中田君の言葉に、何故か慌てふためく西崎君。どうかしたのかな? もしかして、やっぱり中田君が……?
「まあ、本人を前にしては恥ずかしいでしょうけど」
「本人?」
「わー! わー! わー!」
中田君の声を掻き消すように、騒ぎ立てる西崎君。何をそんなに慌てているのだろうか? ……もうこれ、中田君で確定な気がする。
「言えないなら、私が代わりに言いましょうか?」
「それだけはマジで勘弁……!」
と思ったら、突然土下座しだした。そんなにばらされたくないの……?
「ですって。まあ、可哀想ですし、この辺にしておきましょう、あやめ」
「そうだね」
必死の土下座が功を奏したのか、西崎君への追及はそこでぴたりと止んだ。




