四章 ~冬イベ 野球拳ブレイカー~
◇
何だかんだで、十二月二十四日。あやめの家で行われるお泊り会を前に、私はケーキを焼いていた。勿論、翌日のパーティー用だ。人数が多いから普通のホールケーキでは少ないと思うし、折角なので何種類か焼くことにした。その分、作るのも大変だけど。
「~~~♪」
作るのは、スタンダードに苺のショートケーキが一つ、チーズケーキが一つ、そしてクリスマスケーキの定番である、ブッシュ・ド・ノエルが一つだ。
「おっ、うまそうだな―――」
「駄目ですよ、兄さん」
一つ目のデコレーションに入ったとき、横から腕が伸びてきたので、それを間髪入れずに叩き落とした。ケーキ用のクリームを舐めようとした兄さんが、ボウルに手を伸ばしていたのだ。
「いいじゃないか、ちょっとくらい」
「駄目です。家族だけじゃなくて、お客さんも食べるんですから。どうしても食べたいなら、摘み食い用に作りますから、それまで待ってて下さい」
「はーい……」
そう言って、どうにか兄さんを追い出す。……多めに生クリームを買っておいてよかった。もしも摘み食い用クリームを作れなかったら、折角のケーキが台無しになってしまうところだった。
◇
兄さん用クリームも含めたケーキの用意を終えると、今度はあやめの家へ行く準備に入る。と言っても、既に纏めた荷物を背負うだけだけど。
「それじゃあ兄さん、行ってきますから。冷蔵庫のものには絶対に手をつけないでくださいね。夕食と朝食の用意は弓に頼んでありますから、台所には絶対に入らないでください。絶対ですよ。入ったら家族の縁を切りますからね」
「へいへい、分かったって」
うんざりした様子でそう答える兄さんだけど、一応前科があるので信用ならない。……鍵の掛かる冷蔵庫って、家庭用のはないんだろうか?
「それじゃあ、行ってきます」
とても不安だったけど、さすがに兄さんも子供じゃないんだから、そんなことはしないだろうと思いながら、私は家を出た。
◇
「やっほー! 優たん元気か~い!?」
「……」
あやめの家に着くと、あやめが出迎えてくれた。……超ハイテンションで。
「ほらほら~! みんなもう来てるZE! オールナイトパーティーの始まりだYO~!」
「あやめ、もしかして徹夜ですか?」
「三日三晩不眠不休SA!」
「馬鹿ですか!?」
いくらなんでも飛ばしすぎだと思う。どうせ今日も徹夜する気だろうに、それで体が持つのだろうか?
「HAHAHA~! 私は一週間くらい寝なくても平気だNE!」
……もういいや。この子に一々突っ込んでたらきりがない。それよりも、西崎君や牧野さんが巻き添えを食ってないといいけど。
あやめの案内で通されたのはレクリエーションルームだった。この前のゲーム部屋とは違って、だだっ広いだけの場所だ。本来はビリヤードの台なんかが置かれていたらしいけど、使う人がいなくて撤去したとか。
「あ、優。遅かったじゃねぇか」
「中田君……」
中では、西崎君と牧野さんが床に座っていた。……半脱ぎの状態で。
「……何やってるんですか?」
西崎君は上着を脱いで肌着の状態。靴下も脱いでいる。牧野さんは靴下と、コートだけ脱いでいたけど、着ている上着はヨレヨレだった。
「あやめさんが、野球拳しようって……」
「ああ、なるほど」
確かに、今のあやめなら言い出しそうだ。しかもじゃんけんは強い子だから、殆ど一方的に脱がされていたに違いない。……もう少し来るのが遅かったら、大変なことになっていたかも。
「よぅし! 優たんも来たことだし、再開するZE!」
「駄目です」
「HAHAHA~! 冗談きついな優たんWA!」
きっぱりと断るも、全く気にしていない様子のあやめ……どうしよう。この従姉に対して、殺意が芽生えてしまいそうだ。あやめのことを好きになれない理由って、こういう本性を何度も見てきたからなんだろうか?
「いい加減にしないと、明日のパーティー、あやめの分のケーキはなしにしますよ?」
「HA……す、すんません! マジすんません! それだけはどうかご容赦を~!」
ケーキを人質にしてみたら、手のひら返したように縋り付いてくるあやめ。……クリスマスケーキの威力は恐ろしい。
「遊ぶのはいいですけど、ちゃんと節度ある行動をしてください。いいですね?」
「は~い……」
叱られて、しょんぼりするあやめ。少し可哀想だけど、ここで優しくするとつけあがるので、心を鬼にしなければならない。
「ふぅ……それじゃあ二人とも、というか西崎君、服着てください」
牧野さんは靴下しか脱いでないけど、西崎君は上着も脱いでるから寒そうだ。
「助かったぜ……色々と」
上着に袖を通した西崎君が、安堵の息を漏らしていた。まあ、あやめに脱がされるのは複雑なんだろうけど。
「全く、断ればいいでしょうに」
「それが出来たら苦労しないって」
確かに、ハイテンションなあやめを相手に自分の意見を言える人って、日本にはそういないかも。幼馴染の中でも、親族である私くらいか。
「でも、牧野さんもいるんですよ? 命懸けで止めて下さい」
「わ、私は大丈夫だから……」
「大丈夫じゃないですよ。女の子なんですから、人前で脱ぐなんて、絶対に阻止しないとです」
牧野さんはそう言うけど、この場合、西崎君が止めるのは当然なのだ。牧野さんだって、同性のあやめはともかく、西崎君に肌を晒すのなんて耐えられないはずだ。私だって、彼の前は極力避けたい。
「さてと。とりあえず落ち着いたみたいですし、遊ぶならもっとちゃんとしたことしましょう」
まあ、あやめがいると、ちゃんとも何もないんだろうけど。




