二章 ~冬到来 外堀~
月日が流れて、十二月初頭。通学の際にコートが手放せなくなる季節。前日の一件以来、あやめとの関係は比較的良好だ。具体的にどんな感じかというと―――
「優~、クリスマスの予定って立てた?」
休み時間、教室に入ってくるなり、そんなことを言い出すあやめ。因みに彼女の言う予定とは、僕の家では毎年クリスマスにパーティーをするので、その準備状況についてだ。
「一応例年通りのつもりです。招待する人も大体決めましたから」
いつもはうちの家族+あやめと西崎君、その他に幼馴染数名が基本だけど、今年は牧野さんも呼ぼうと思う。幸い、家には広い地下室があるので、参加人数にはある程度大きくなっても問題ない。
「ご馳走も期待してるよ~」
「分かってます」
そう答えると、あやめは「えへへ~」と笑いながら(実際に口に出していた)、顔を綻ばせた。きっと、頭の中では涎を垂らしまくっているのだろう。
「じゃあねぇ~」
そしてそのまま、半ば上の空な状態で、自分の教室へ戻っていく。足取りも覚束なくて、見ていてとても危なっかしい。なんか、熱にでも浮かされているのだろうか? といっても、ここのところずっとこんな感じだけど。
「……はぁ」
今までにも、何度か気まずくなって、その度に仲直りしてきた。けれど今回みたいに、ここまで関係が良好になったのは初めてだ。……変なフラグが立ってないといいけど。
◇
「……はぁ」
「ん? どうしたんだよ優兄? 溜息なんか吐いて」
夕方、夕食の支度をしていると、弟の冷がやって来た。どうやら、無意識のうちに溜息を吐いていたみたいだ。……前にも似たようなことがあったような。
「いえ、別に何もないですよ」
「ふーん。まあいいや」
そう言って、冷は食卓に着いた。……一応、彼の名誉のために言っておくと、冷は他人の事情に深く関わらないのが美徳だと思っているので、何でもないと言えばそれ以上干渉してこないのだ。決して気が利かないとか、そういう意味ではない。
「そういえば、クリスマスのときって誰が来んのー?」
そんなメタ的な思考をしていると、冷が不意にそう問いかけてきた。クリスマス、というのは、今日あやめが訊いて来たのと同じことだろう。
「今のところは、幼馴染には粗方声を掛けてますよ」
「あのでかい女は?」
でかい女……もしかしなくても牧野さんのことだろう。何故か冷は、牧野さんのことを快く思っていない節がある。どうしてだろうか?
「牧野さんなら、一応誘うつもりです」
「ふーん……」
そう答えると、冷は興味を失ったらしく、ダイニングのテレビをつけた。一体、何だったのだろうか?
夕食の用意が整い、弓もやって来て、家族で食事の時間となった。兄さんは相変わらず忙しくて、今日は家で食べないそうだ。
「……なあ、弓」
「なあに?」
食事の途中、テレビを眺めていた冷が、ぽつりと漏らすように弓へ話しかけた。
「今度のクリスマス、優兄が彼女連れてくるって」
「えぇっ!?」
突然の話に、悲鳴を上げるように驚く弓。……って、ちょっと待って。
「ちょっ、何でそんな話になってるんですか!?」
さっきクリスマスパーティーに来る人について話したけれど、そんなことを言った覚えはない。一体、何がどうなって……。
「だって、あのでか女来るんだろ?」
「牧野さんは呼ぶつもりですけど……」
まさかとは思うけど―――
「その人って、お花見のときに来てた、優兄の彼女だよね!?」
半ば興奮気味に問いかけてくる弓。……何故に、この子達の中ではそんな認識になっているのだろうか?
「……違います。牧野さんと私はそういう関係では―――」
「じゃあじゃあ! クリスマスの夜に、「そ・う・い・う」関係になろうと!?」
そういえば、小五ってこんなお年頃だったっけ。色恋沙汰に興味を示しだす。しかも弓の場合、自分のことには疎いくせに、他人の色恋沙汰には敏感に反応するから手に負えない。
「そういう弓こそ、彼氏はいないんですか?」
「うん、いないよ」
意地悪のつもりで聞いてみたけど、笑顔で即答される。……隣の冷がほっとしているのには突っ込まないで置こう。
「れ、冷はいないんですか? 彼女」
「いるわけないだろ」
同じことを冷にも尋ねたけど、速攻で否定された。まあ、気持ちは分からなくないけど……困ったな。
「それで? 彼女連れ込んでどうするつもりだよ?」
「だ、だから、そういうんじゃないですってば……」
それから何度も否定したけど、二人は結局信じてくれなかった。……普段は思わず涙するくらい信用してくれるのに。




