2 大海賊はパン屋の息子
キャプテンカインと言えば、知らぬ者はいない大海賊である。
7つの海をまたにかけ、魔法帆船バルバトス号で暴れ回る海賊の中の海賊だ。
今まで見付けた宝は星の数。今まで殺してきたライバルも星の数。今までに抱いてきた女も星の数。
と世間一般では言われている。
しかしそれは事実ではない。
もちろん真実もあるが、ことさら女性関係においてその噂は真実と一致しない。
カイルは幼い頃から強面だった。それ故女にもてない悲しい青春時代を送り、本当は父親のパン屋を継ぐところ、あまりの強面に海賊と勘違いされ逮捕されたあげく、牢屋にいる荒くれ者達を連れて脱走したことから海賊となった不運な人物だ。
彼自身は未だに自分をパン屋の息子だと言い張っているが、こんな顔のパン屋に客が来るはずもないのである意味運が良かったとも言える。
またパンをこねるために日夜鍛えた腕力は誰も適わず、たまたま牢屋で出会った剣の達人から学んだ剣術は、もはや達人の域である。
本人はいつか自分のパン屋を持ったとき、強盗に負けないようにと習ったつもりだが、強盗の撃退だけならその顔だけで十分である。
そのうえ、パンに関して勉強をするために覚えた読み書きのお陰で航海術の本も難なく読みこなした彼は、魔法帆船の扱いも一級だ。
人魚の入り江や、暗黒の海域でも平気で船を乗り回すその腕は、船乗りの間では伝説。
しかし本人は「いつか自分の焼いたパンを世界中に配達したい」と言う願いのために学んだと言い張っている。
だが結局、パン屋に戻れぬまますでに20年。
さすがに彼も、もうパン屋を開けないのではと思い始めている。
思い始めてはいるが、だからといって大海賊になりたいわけではない。もちろん宝探しは好きだ。昔から海賊物の小説は好きだった。
けれどだからといってみんなに恐れられる海賊になりたいわけではない。むしろ愛されたい。特に若い女の子に。
顔は強面、戦いになれば鬼のように強い。だがカインの恋愛観は、12の女の子よりもピュアだった。