12 前にも見た光景
「で?」
カインと二人、目の前の鉄格子を眺めながらリードは呟いた。
「気付かなかったんですか? 罠だって」
「……」
「手も縛られて目隠しもされて、腰の剣まで奪われて、どうして気付かなかったんですか?」
「だって、そう言うプレイだって思ったんだもん」
なにが「だもん」だ、いい年したおっさんの口から聞いたってイライラするだけなんだよ、このカスが。
と思うだけでなくあえて口にして、リードは目の前の鉄格子を軽く揺する。
造りは頑丈だ。リードの腕では破ることは難しいだろう。
「ごめんなさい」
落ち込む船長に、リードも今回だけはそれ以上皮肉を重ねるのをやめた。
「まあ、俺にも落ち度はありましたから」
そう言い、リードは苦しそうに胸を押さえた。それに、カインが目ざとく気付く。
「お前、顔色が悪いぞ」
「冷えるからですよ」
「違うだろ」
リードを体を乱暴に抱き寄せると、カインは胸に耳を押し当てる。
「脈が速いし、瞳孔も開いてる。お前まさか、毒を……」
「そこは、俺を罵るところですよ。酒に毒をしこむなんて古典的な罠にも気付かないなんて……」
「阿呆!」
そう言って、カインは着ていたコートを震えるリードの体にかける。
「いいか、俺が怒ってるのはお前が毒に気付かなかった事じゃない! 毒を喰らっているのにそれを言わないことだ」
死んだらどうするつもりだと、カインは激怒する。
「今すぐここから出るぞ」
「どうやって…」
「惚れた女のピンチだぞ、脱走ぐらいへでもない」
カインの言葉にリードが赤くなったことにも気付かぬ勢いで、カインはかぎ爪を鉄格子の鍵穴に突っ込んだ。
そして右腕に自慢の怪力をこめれば、轟音と共に鉄格子が壁から外れた。と言うか壁ごとはずれた。
「てっきり、鍵開けの技をお持ちなのかと」
「そのつもりだったが意外ともろかった」
鍵穴からかぎ爪を引き抜き、カインはリードの体を抱きかかえる。
そのまま外へと飛び出したとき、武装した男が二人の前に立ちはだかった。
「ちょっと待ってな」
ほんの少し名残惜しそうにリードを優しく降ろし、カインは男と退治する。
相手が持つのは凶悪な大きさの青龍刀で、男は威嚇をするように、それを振りまわす。
だがカインは全く動じない。
そろどころか一瞬の隙をついてカインが動き、そして勝負は決まった。
抉るようなカインの右ストレートが男の頬骨を粉砕し、青龍刀は出番のないまま床に突き刺さる。
「この勢いで女を押し倒してくれたら」
リードのつぶやきを五月蠅いと一蹴して、カインは素早く彼女を抱き上げた。