13 彼こそが海賊
牢屋のある廊下を進めば、そこに現れたのは地上へと続く階段だった。
そこは先ほどの宿の1階で、どうやらこの店には裏の顔があったようだ。
道行く従業員達を観察して、リードは思わず頭を抱えた。彼らの腕に、海賊の証であるドクロの刺青を見付けたのである。
「すいません、カスと言ったのは撤回します」
「突然どうした」
「俺の責任です、この国の周りで色々派手にやったのを忘れていました」
「じゃあ、これは仕返しか」
砂漠の海の宝を求め、近海の海賊達とやり合った記憶はまだ新しい。
普段は人目につかない航路を使うところ、さっさと事を終わらせたいと思っていたリードは、多くの船が使う最短航路を選んでこの国に入ったのだ。
一日の滞在だからと思ったが、こちらの寄港を読んで罠をはっていた輩がいてもおかしくない。
「俺のミスです」
「そんなことはどうでも良い、とにかくここを出ないと」
リードを担ぎながら人目につかないように入り口を目指すと、店の玄関前には20を越える数の男達が武器を片手に待ちかまえていた。多分、先ほどの音で逃げたのがばれたのだろう。
武器もなく、リードを庇いながらでは容易くはない数である。それに今のカインは右腕がないのだ。
「…キャプテン」
「置いて逃げろとかアホ抜かしたら、お前の腕もフックにしてやるからな」
「冗談言ってる場合じゃないです」
「わかってる。こいつ等をさっさと倒して、すぐにお前を病院に連れて行かないとな」
それこそ冗談の極みだと呟こうとしたリードを、カインは背負った。
「本当に俺のことは……」
「俺はもう決めたんだ。お前を絶対に置いていかないし、船からも降ろさない」
「何ですかそれ」
「お前に認められるような、キャプテンになるって事だよ。それには、お前がいなきゃ話にならない」
お前の前で、今度はちゃんと男になる。…娼婦は嫌だけど、でも頑張る。
嫌々な本音が透けている所カインらしいが、お陰でリードの顔に笑顔が戻る。
「だからしっかりしがみついてろよ、派手に荒れるぜ」
広い背中とその声は、多くの人々が憧れる男の中の男、大海賊カインの物だった。
『敵に囲まれた状況からの華麗な大逆転。またしても大海賊は伝説を作った』
明日の新聞の見出しが見えた気がして、リードはこっそり微笑んだ。
その笑顔を隠しながら、いつもは頑ななリードが、ほんの少しだけ声音を和らげる。
「ここで頑張ったら、男になる件、少しだけ猶予を上げても良いです」
「ま、マジか?」
「だからしっかり守ってくださいよ、キャプテン」
カインの頬がだらしなく歪んだことにリードは気付かない。
「今の言い方、可愛すぎるだろう!」
回れた腕の強さにテンションを上げ、大海賊カイン=モーガンは男達の中に突っ込んでいく。
武器がないのも多勢に無勢もお構いなし。
一度火のついた大海賊を、止められる者は誰一人としていなかった。
殴り倒し、蹴り倒し、避けて殴って、また殴る。
剣を奪うとか、かぎ爪で喉をかききるような野暮な真似はしない。というより、命を奪うような戦い方は、どんなときでもカインの主義に反する。
何せ彼は、大海賊であると同時に、副官に恋するパン屋の息子なのだから。
後に伝説として語り継がれるほどの圧倒的大勝利、それはもう目の前だった。




