↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役貴族、剣を捨てて法と金で無双する~破滅予定なので、契約魔法で勇者を差し押さえ、ブラック領地をホワイト企業に再生します~  作者: 他力本願寺


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/48

第48話 :結びの後。――宰相の机、そして二人の朝。

結びの儀から、数日が過ぎた。

 王国の宰相府。

 私の執務室には、いつものように書類の山が築かれていた。


「……結婚したばかりだというのに、手加減なしか」


 私は苦笑しながら、羽ペンを走らせる。

 北の鉱山開発、西の港湾拡張、南の農業改革。

 世界が平和になればなるほど、それを維持するための調整事は増えていく。


「旦那様。……そろそろよろしいのでは?」


 セバスチャンが黒茶を注ぎながら言う。

 私は窓の外を見た。

 東の空が白み始めている。徹夜だ。


「ああ。……だが、あと少しだ」


 私は最後の一枚――『次期宰相候補の育成計画書』に署名した。

 いつまでも私が全てを抱え込むわけにはいかない。

 権限を委譲し、仕組みを作る。

 それが、私の「最後の仕事」だ。


「……よし、終わった」


 ペンを置き、大きく伸びをする。

 肩がバキバキと鳴った。


「お疲れ様でございます」

「ああ。……帰るよ。エリスが待っている」


 私は執務室を出て、朝霧に包まれた王都の通りを歩いた。

 まだ人影はまばらだが、パン屋からは香ばしい匂いが漂ってくる。

 市場には荷車が並び、商いの準備が始まっている。

 当たり前の、平和な朝だ。


 屋敷に着くと、すでに台所から温かな湯気と、包丁を刻む音が聞こえてきた。


「……ただいま」

「おかえりなさい、アルバート様」


 エリスが小走りで出迎えてくれる。

 エプロン姿の彼女は、聖女の装束よりも輝いて見えた。


「お疲れですよね? すぐ朝ごはんにしますか? それともお風呂?」

「……朝ごはんにしよう。腹が減った」


 食卓には、焼きたてのパンと、野菜のスープ、そして目玉焼きが並んでいた。

 宮廷料理のような豪華さはない。

 だが、私にとっては最高のご馳走だ。


「いただきます」


 スープを一口すする。

 野菜の甘みが、徹夜明けの身体に染み渡る。


「……うまい」

「よかった。……おかわり、ありますからね」


 エリスが微笑み、私の向かいに座る。

 私たちは窓から差し込む朝日の中で、ゆっくりと朝食をとった。

 他愛のない話をして、笑い合う。

 かつては想像もしなかった、穏やかな時間。


「ねえ、アルバート様」

「ん?」

「……幸せですね」


 エリスがパンをちぎりながら、ぽつりと言う。


「ああ。……そうだな」


 私はコーヒー――いや、黒茶を飲み干し、窓の外を見上げた。

 青空を、一頭の竜が飛んでいくのが見えた。

 その背には大きな荷箱が積まれている。

 魔王とドレイクが話していた「空の商い」も、どうやら始まったらしい。


 世界は動き続ける。

 新しい問題が起き、新しい商機が生まれる。

 私の仕事は終わらないだろう。


 だが。


「……さて、行くか」


 私は立ち上がった。

 隣には、最愛の伴侶がいる。

 背中には、頼れる部下たちがいる。

 そして、守るべき世界がある。


「はい! いってらっしゃい、あなた」


 エリスが背伸びをして、私の頬に口づけをする。

 その温かさを胸に、私は扉を開けた。


 今日もまた、野蛮で、騒がしく、愛おしい一日が始まる。

 さあ――働きに行こうか。


 (完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。