第29話:三分間の『クッキング・レイド』
目の前に現れたのは、山の如き巨体を誇るエリアボス『モス・ベア・タイラント』。
しかし、リ・センセンの目には、それがただの「歩く素材(経験値)」にしか見えていません。
「イヴさん、時計は持ってるか? 三分経ったら、ちょうどいい焼き加減になるぜ」
正式服12.0のギミック処理、その恐ろしさを思い知らせてやります。
リスナーの皆さん、タイマーの準備はいいですか?
「——グォォォォォォォォォン!!!」
大気を震わせる咆哮。モス・ベア・タイラントの巨体が動くたびに、周囲の木々がマッチ棒のように弾け飛ぶ。その足元からは、魔力を帯びた結晶状の苔が急速に広がり、周囲の生命力を根こそぎ奪い取っていく。これこそが『静寂の密林』の主——その圧倒的なプレゼンスだ。
「リ・センセン、来るぞ! 奴の突進は城門すら粉砕する! 避けろ、まともに受ければ塵も残らん!」
イヴが毒の重剣を構え、俺の前に立とうとする。だが、俺は彼女の肩を軽く叩き、不敵な笑みを浮かべて一歩前へ出た。
「イヴさん、下がってな。これは『騎士の決闘』じゃねえ。……『効率化された作業』なんだよ」
俺は視界の端で、ストップウォッチのアイコンをタップした。
【タイマー開始:03:00】
「さて、家人们(リスナーの皆さん)。まずは下準備だ。……システム、周囲の『誘引の魔華』を全爆破。放出されたフェロモンをモス・ベアの粘膜に全集中させろ」
パパパパパンッ!! と乾いた音が響き、先ほど聚怪(モブ集め)に使った花たちが一斉に自爆した。濃縮された紫色の霧が、大熊の鼻先へと吸い込まれていく。
瞬間、モス・ベアの瞳が血の色に染まり、その巨体がさらに膨れ上がった。
【1.8mのメッシ:おい! 敵をバフ(強化)してどうすんだよ! 狂暴化させたら手におえねえぞ!】
【物理の張先生:……いや、違う。リ・センセンは、奴の『代謝速度』を無理やり上げているのか? 暴走状態に追い込むことで、防御力を犠牲に攻撃能力へ全振りさせている……!】
「さすがは張先生、正解だ。……正式服のセオリーその一:『カチカチのタンクを叩くより、柔らかいバーサーカーをハメ殺せ』。……さあ、第一段階だ。『植物監獄・ソウル・キャッチャー』、起動!」
俺が右手の紋章を地面に叩きつけると、モス・ベアの足元から、鋼鉄よりも硬い『鉄樹』の根が、無数の蛇のように絡みついた。
普通なら、この巨体なら容易く引き千切れるはずだ。だが、俺が流し込んでいるのは『世界樹の雫』から得た過剰なまでの魔力だ。
「グルゥゥゥッ!?」
足止めを食らった大熊が、苛立ちと共にその巨腕を振り下ろす。
大地が割れ、衝撃波が俺の頬を掠めるが、俺は一歩も動かない。むしろ、その攻撃をあざ笑うかのように、システム画面を爆速で操作し続ける。
「二分経過……。そろそろ『熱度』が足りねえな。イヴさん、出番だ! その剣に込めた『食人植物の毒』……あれはただの毒じゃねえ。……『超高濃度の可燃性触媒』だ!」
「な……!? これをどうすればいい!」
「奴の足元の苔に向かって、全力で一撃ぶち込め! 後の着火は俺がやる!」
イヴは戸惑いながらも、俺の言葉を信じて地を蹴った。
彼女の重剣が、大熊の足元に広がる苔の絨毯へと突き刺さる。毒の紫光が地面に伝播し、周囲一帯が不気味な蛍光色に染まった。
「よくやった! あとは……これだ! 投げ銭ギフト・アイテム——『マグマの種』、全投入!!」
俺の手の平から、真っ赤に燃える小さな種が数十個、大熊の足元へと放たれた。
毒の触媒と、マグマの火種。それが接触した瞬間。
ドォォォォォォォォン!!!
密林のど真ん中に、巨大な火柱が立ち上がった。
ただの炎ではない。植物の魔力と毒が化学反応を起こした、超高熱の『プラズマ燃焼』だ。モス・ベアの咆哮が、苦悶の悲鳴へと変わる。
【隣の王さん:うわあああ! ステーキっていうか、これ火葬だろww】
【課金王:ハハハ! 素晴らしい火力だ! エフェクトが最高に『映えて』るぜ!】
「——ラスト一分。……家人们、仕上げだ」
俺は燃え盛る炎の中、一歩ずつ大熊へと近づいた。
右手の紋章が、限界を超えた負荷に悲鳴を上げている。だが、俺の脳内はかつてないほど冷静だった。
12.0のレイドボスだって、最後はギミックの押し付けで終わる。
「システム。周囲の二酸化炭素を吸収し、酸素濃度を 400% まで局所上昇。……全魔力を一点に集中……『終焉の蕾』、開花しろ」
俺の指先が、大熊の眉間に触れた。
その瞬間、大熊の体内から、一本の小さな、透き通るように白い花の蕾が突き出した。
それは、大熊の膨大な魔力と生命力を一瞬で吸い上げ、その『存在そのもの』を養分にして咲く、死の花。
ピキッ……。
微かな音と共に、白い花が開いた。
それと同時に、モス・ベア・タイラントの巨体は、まるで灰のように崩れ去り、その場にはただ、美しく輝く一本の花だけが残された。
【タイマー停止:02:58】
「……ふぅ。ジャストだ。……イヴさん、見てみろ。これが、三分でできる『エリアボスの調理』だ」
静寂が戻った密林。
立ち尽くすイヴと、画面越しに狂喜乱舞するリスナーたち。
リ・センセンは、返り血一つ浴びていない清潔な姿で、カメラに向かってピースサインを送った。
「……リ・センセン。貴様は……本当に、何者なんだ。この森の理を、神の如く書き換えてしまった……」
「ただの配信者ですよ。……さて、家人们。大物は片付けた。……ドロップアイテムの確認、いってみようか!」
リ・センセンの不敵な笑いと共に、夜明けの光が密林に差し込み始めた。
【後書き / Afterword】
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
第29話、ついにモス・ベアを「調理」完了です!
三分以内という宣言通り、正式服プレイヤーならではの「環境デバフ+高火力ギミック」の合わせ技。
もはや異世界の常識では測れない、リ・センセンの異常な強さが際立つ回となりました。
そして、最後に残った「白い花」。これが一体どんなドロップアイテムなのか……?
【作者からのお願い】
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現在、4月18日の50話到達に向けて、文字通り命を削る「疯狗模式(狂犬モード)」で爆走中!
次の第30話は、ドロップアイテムの確認、そして密林のさらに奥にある「隠しダンジョン」への入り口が見つかります。
この勢いのまま、一気に駆け抜けますよ!
それでは、第30話でお会いしましょう!




