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呪われ姫の秘密な絵巻 ~和風乙女ゲームに転生したのでこっそり推し活していたら、都の危機に巻き込まれました~  作者: 有路ちみどろ
 

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33. 先触れ 3

 ふわふわの豆千世を抱き寄せて、姿勢を正す。腹に力を入れて、しっかりと前を――東雲と未明と曉を見据える。


「虫がいい要求なのは承知しています。しかし、浄化の力を持つ真日流さんと、彼女と信頼関係を築いた腕利きの三人……都の危機に打ち勝つには、貴方たちの協力が必要不可欠なのです!」


 そう言い切って、再び頭を下げる。勢いあまって、はらはらと肩から髪が垂れて視界を狭めた。


「靜子様が持つ能力――転写魂術には天命を正す不思議な力があるそうで、これこそが私たちの勝機です。靜子様が力を万全に発揮できるように、私たちが妖異を退けて護衛、補佐するのです」


 優しく諭すように真日流ちゃんが言葉を続ける。ここまで親身になってくれる彼女には、本当に頭が下がりっぱなしだ。その気持ちを無駄にしないためにも、顔を上げて三人の鋭い視線を真っ向から受け止めた。


「すべてを信じろというのは、土台無理な話だが……真日流は信じているんだな?」

「はい。靜子様はご自身の地位をなげうってでも、『皆を助けたい』と思ってくれたのです。その心構えは私も同じですから」


 怪訝な表情に反して、曉の口調は意外にも穏やかだった。彼は真日流ちゃんの返事を聞くと、あきれたと言わんばかりにそっぽを向いて小さな溜息をついた。


「呪われ姫はともかく、真日流のことは信用できる。その真日流が行くと言うのなら、ついていく。……この調子だと、止めたところで一人でも突撃していきそうだしな」


 ぶっきらぼうに見えて情に厚い、彼ならではの判断基準だ。真日流ちゃんのおかげとはいえ、ようやく勝ち取った賛同……少しだけ気持ちが楽になる。


 しかし、安堵するにはまだ早い。残る交渉先は二人……と、私は目線をさまよわせる。先に言葉を発したのは、どこか不機嫌そうな未明だった。


「師匠は」

「……え?」

「師匠はこの件について、君の能力について、なんと言っていた」


 一瞬、なんのことかわからなかった。「師匠」と言われたから咄嗟に反応したけど、真日流ちゃんではなく、私に宛てた台詞だったようだ。


「私の能力は五行には属さず、『境界の歪みを解消し、天命を正常な状態へと導く術』なんだそうです。この力が解決策になるというのは、師匠の分析によるものです」


 未明にとっても私にとっても、師匠という存在は大きい。その師匠が認めた能力だと明かせば、彼はどんな反応を示すのだろう。私は不安な心中を覆い隠すように、表情だけは強気を保つ。


「……なるほど、あの人のお墨付きというわけか。実際に見て判断したいところだが、そんな時間はないときた。……ひとまず、同じ師を持つ相弟子として協力はしよう。特殊な式神を操るという、君の実力も測りたいしな」


 未明はそう言って、私に抱えられている豆千世をひとにらみした。対する豆千世は、存在を誇示するかのようにもぞもぞと身じろいだ。

 相弟子認定という予想外の出来事にたじろぐ私は、どうにか「頑張ります」と短い返事を絞り出した。……って、まさかの方向からプレッシャーが飛んできちゃったよ。彼に失望されない程度に頑張らないと。


 私と未明による無駄に緊迫感のあるやり取りを、静かに見守っていた東雲が、かすかに苦笑をもらした。

 東雲はこの場のなかでは最も高貴な地位にいるけれど、そうとは感じさせないような落ち着いた雰囲気をまとっている。

 慎重で公平性を重んじる彼は、最終的にどんな判断を下すのか。私と真日流ちゃんが熱い視線を向ける。


「耳にしたのはいつだったか、『見れば災い降りかかる』という噂は聞いたことがあったが……呪われた姫というのは存外に人望があるらしい」

「滅相もない……」

「いや、むしろ安心した。どんなに面白おかしく騒ぎ立てたところで噂は噂。結局は当てにならないものだ」


 本人の意思はともかく、彼の言動には影響力がある。ここにきてそれを意識してしまい、体が勝手に萎縮する。そんな小心者の私を横目に、東雲は得意げに口角を上げ、大きくうなずいて見せた。


「そういうわけで、私も手を貸そう。新嘗祭での祭事は、いくつか欠席することになるだろうが……大事の前の小事だな」


 珍しく、東雲が子供のような無邪気な笑みを浮かべる。その貴重すぎるワンシーンに見とれそうになっていると、横から真日流ちゃんが勢いよく抱きついてきた。ぐっ……可愛いけど苦しい。


「よかったぁ! これで一緒に戦えますね!」

「どうもありがとうございます。私は皆さんのように妖異を倒すことはできませんが、必ずや都の脅威を……不幸な天命を、打ち破ってみせます!」


 ついテンションがあがって、柄にもない台詞を口走ってしまった。真日流ちゃんはキラキラと目を輝かせていたけど、私は言ったそばから恥ずかしくなってきた。

 みるみるうちに意気消沈していく私を見て、真日流ちゃんが人なつっこく笑った。


「もう、弱気は駄目ですよ、靜子様。今から私たちは同志! それに、私たち同い年なんですよね? もっと気さくに接してほしいです」

「真日流さん……いえ、真日流ちゃん。私はいつも貴方の姿を探しては、追いかけてきました。いわば、絵巻における中心人物。そんな貴方とこうして手を取り合えるなんて……感無量です」


 私だけに向けられる、真日流ちゃんの屈託のない笑顔……まさにプライスレス。多幸感に包まれて脱力する私の頭上で、豆千世が活を入れるかのごとく飛び跳ねている。


「一応、真日流に教えておくが……普通、貴族にそんな砕けた態度をしたら、何をされるかわからないからな」


 さすがの東雲も半笑いになりながら、浮かれた様子の真日流ちゃんに忠告する。そのやり取りに便乗して、未明が鼻を鳴らして笑った。


「……まぁ、相手も普通の貴族ではないから、大丈夫だろうよ」


 未明の鋭くも正確なツッコミに、曉が吹き出した。


「たしかに。ここに普通の奴なんぞ、一人もいねぇな」


 ひときわ大きな曉の笑い声が、小さな道場全体に響き渡る。

 その晴れやかな声を聞いていると、本当に三人の協力を取り付けられたんだなと、ようやく実感が湧いてくる。



 大いなる天命を回す歯車が、いつから狂っていたのかはわからない。でも、私にはそれを正す力がある。それに、こんなに心強い仲間も得られた。だから、きっと大丈夫。


 肩に添えられた手のひらから、真日流ちゃんのぬくもりが伝わってくる。私も穏やかに微笑みながら、その上にしっかりと手を重ねた。


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