誘黒神は遊びたい 2
「──それで?彼が言うには貴方は反逆の六英雄では無いとの事ですが……」
「バレたか……まあ、お茶目な嘘と言うやつだ。許せ」
ふよふよと宙に浮く【偽りの神聖なる|邪聖天魔デモリエル》ルシファー】のカードに彼──【ルシフェリオン】が手をかざすと、そのテキスト欄に刻まれていた王冠のようなマークが消え失せます。
「なんでそんな嘘を吐くのです?」
「英雄という肩書きが欲しかったからだ」
「…………それだけですか?」
「それだけだが?」
ふんすと胸を張る【ルシフェリオン】に思わず溜め息が零れます。
そんな英雄という肩書きなんかの為に権能まで持ち出して周りを巻き込んだ盛大な嘘を吐いたのですか……もう少しこう、深い考えがあるかと私は思ったのですが。
「はぁ……じゃあ、もうこの話は終わりです。急ぎますよ、お父さんをこれ以上暴れさせる訳にはいきませんから」
「なんだその残念な物を見る目は……肩書きは大事だぞ?他者から見た自分への第一印象になるからな」
「……ならば、貴方から見て私はどのような肩書きを持っていますか?」
「私から見ればそうだな……優義徒の肩書きは美禍の子だな。そしてその中にいるお前は……」
【ルシフェリオン】の言葉に私は安心しました。
ああ、ちゃんと私は■されるべき存在でいられているのだと
ーーーーー
「アタシのターン!ドロー!」
水兎 第二ターン
ライフ:10
手札:6 ターンカウンター:3
【タマモノマエ】が封印されているから、カウンターの倍加が無い。
前のターンでデッキトップに固定したカードを引いた水兎の表情は苦しそうだ……相手にしなければいけない二体の大型天使。片方はライフを半減させて場を離れなくして、もう片方はライフが4以下となれば強力な耐性と敗北回避能力を持っている。
それを二ターン目で出されたのだから、俺だって困るし絶望しそうになる。
「水兎!片方だけでも処理してくれたら、後は俺が何とかする!!だから、無理すんなよな!!」
「うっさいバカ!!アタシはこんな所で負けたりしないの!!良いから、アンタはアタシが更地にした後であの人を一気に倒す方法を考えてなさい!!!」
俺のそんな心配の言葉をアイツは一蹴するけど、その目に火が灯る。
バシンと自分の頬を叩いて気合を入れた水兎が一気に動き始める。
「スペルカード【悪戯妖精大集合!】を使うわ!さらに、アーティファクト【童話の蜃気楼】発動!
【悪戯妖精大集合!】
青 コスト:2 スペル・妖精
自分の場にカードがない時に発動出来る。
デッキからコストが2以下になるように妖精カードを手札に加える。
こうして手札に加えたカードのコストは-1される。
【童話の蜃気楼】
青・白 コスト:3 妖精
コスト:1以下の妖精モンスターが場に出た時に発動する。その妖精モンスターのサモン時に発動する効果をもう一度発動する事が出来る。
水兎が発動した二枚のカード。辺りに冷気が満ちる……白いモヤが地面から這い上がってきて、寒さを感じると同時に視界が悪くなってきた。それと同時に風に乗って、くすくすケラケラと女の子の笑い声が響いたかと思うと、その声に誘われて水兎のデッキから2体の妖精が飛び出す。
「デッキからコストが2以下になるように妖精カードを手札に加えるわ!アタシが手札に加えるのは【氷雪の妖精】が二枚!さらに、こうして手札に加えたカードのコストは1減る!」
「【童話の蜃気楼】の効果も誘発して一気に四枚ドロー……青デッキらしいドロー量ですが、その程度のモンスター達では【ルシフェル】の効果による常時A-4によって、ろくにダメージを与える事が出来ませんよ?」
「まだ下準備の段階よ!女の子は支度に時間が掛かるの!【氷雪の妖精】をサモン!そのサモン時効果でカードを一枚引くわ!【童話の蜃気楼】の効果で【氷雪の妖精】のサモン時効果を再発動させてもう一枚ドローよ!もう一度【氷雪の妖精】をサモンして、合計二枚ドロー!」
一気に四枚ドローされて水兎の手札は八枚になる。
ターンカウンター自体の消費も0だし、初手のドローも合わせてカードを五枚引いているから、後ろで水兎の様子を見ている"ギアスモンスター"の【スノーホワイト】を出す事は可能だ。
……でも、その効果では一番厄介な【ルシファー】の効果は無効に出来ないし、何より破棄しただけではまた墓地から帰ってくる。
デッキか手札に送り返すのが良いと思うけども、あの【ルシフェリオン】の効果で再度呼び出されるのが目に見えている。
…………いや、水兎は│強い《・・》。俺は水兎があの盤面を処理するのを信じて、一気にユギトのライフを削る手段を考えよう。今、俺に出来るのはそれくらいだ。
「(後、四枚……!!)【氷雪の蝶妖精】をサモン!」
【氷雪の蝶妖精】
青 コスト:2 妖精・雪
A:2 B:1
このモンスターを手札からサモンした時に発動出来る。手札を一枚破棄し、カードを二枚引く。
氷で出来た蝶のようなモンスター──【氷雪の蝶妖精】が羽ばたくとその小さな風が竜巻になり、水兎の手札を一枚吹き飛ばしてからデッキの上のカード二枚を代わりに飛ばしてくる。
「【氷雪の蝶妖精】の効果発動!手札を一枚破棄して、カードを二枚ドロー!」
手札に引いたカードを見て、水兎の表情が一気に晴れ渡る。
「来た!スペルカード【再凍結】!【氷雪の蝶妖精】を戻してそのコスト分だけターンカウンターを回復!もう一度【氷雪の蝶妖精】をサモンして効果発動!!」
さらに蝶が羽ばたいて手札が増える水兎。
そして、水兎のデッキから一枚のカードが飛び出す。
「このカードは一ターンの間にカード効果で引いたカードが八枚以上の時にデッキから手札に加わる!スペルカード【妖精王の悪戯】を発動!」
【妖精王の悪戯】
青 コスト:2 スペル・妖精・神器
このスペルは一ターンの間にカードを八枚以上カード効果で手札に加えた時にデッキから手札に加えられる。
カードを四枚以上手札に加えたターンにのみ発動出来る。カード名を宣言し、相手の場、手札、デッキ、墓地からそのカードを全て自分の手札に加える。
こうして手札に加えたカードの効果は無効になる。
低めの女の人のような、高めの男のようなそんな妙に耳の奥がざわざわする笑い声が聞こえたかと思うと、目も開けられない程の勢いで吹雪が巻き起こる。
目を開けると、そこにいたのは白っぽい水色……氷色とでも表現したくなる色の髪の背の高い人物。
そいつは【ルシファー】の手を取ったかと思うと、その手の甲にキスしてから花びらに包まれて二人とも姿を消した。
「カード名を宣言し、そのカードを相手プレイヤーから全て奪うわ!アタシが宣言するのは【偽りの神聖なる邪聖天魔ルシファー】!!」
「なるほど。墓地からもデッキからも無限に生えてくるモンスターならば、自分の手札に監禁してしまえば良いと……良い解法ですね」
今度こそ、切り札を完全に排除させられたのにユギトは楽しげに笑う。
……アイツのあの余裕はなんなんだ?
水兎の方は青いオーラを出して"ギアスモンスター"をサモンするみたいだ。
「誓約サモン!!絶対零度の理を敷き、絶対の女王よ全てを凍てつかせろ!!【凍土の悲痛なる女王スノーホワイト】!!」
ゾッとするくらいに綺麗なねーちゃん──【スノーホワイト】が冷たい視線を【ルシフェル】に向けながら、指を指す。
それだけで、一瞬にして【ルシフェル】の羽が凍りつき霜が降りる。
「【スノーホワイト】が場に出た時の効果発動!アタシのターンの終わりまで相手の場のモンスター全ての効果を無効にし、さらに次の優義徒さんのターンの終わりまで攻撃不能も付けるわ!」
「コスト:8以上のモンスターが場に出たので、Cカウンターを【強壮なる使者】に一つ乗せます。まあ、このまま【ルシフェル】も処理されるのでこの攻撃不能は無意味になりますけどね」
「ご名答よ!バトル!!【氷雪の妖精】二体と【氷雪の蝶妖精】で【ルシフェル】を攻撃!!」
『おのれ、こんな子供たちに二度も──』
七色の光の槍で近づいてくる二体の水色の妖精を叩き潰した隙を、小さな氷の蝶は見逃さなかった。
一瞬の間に近づき、その体に触れて自分諸共【ルシフェル】を完全に凍りつかせて消えていく。
「【スノーホワイト】で優義徒さんに攻撃!!」
【スノーホワイト】が指を鳴らす。それだけで、世界全てが凍りついたように動きを止めた。
そして、氷の杭が何本も地面から生えてきてユギトの体を貫いた。
ユギト ライフ:10→8
血が滴る。
でもそれは真っ赤な色ではなく、真っ黒で……液体の筈なのにボトボトと泥のような粘り気を持っていた。
「なっ……!?」
「……あーあ、やっぱり貴女程の方の攻撃は効きますね。私の本体にまで攻撃が届きましたよ。ちょっと漏れちゃったじゃないですか」
氷が突き刺さったまま、ユギトは痛みを感じないかのように喋り続ける。
「でもお見事ですね、水兎嬢。【ルシフェル】と【ルシファー】を突破し、尚且つ【ルシファー】はもう出せない状態にまで持ち込まれるとは……ここまで成長するなんて、【凍土】のカードを貴女に与えた甲斐がありましたよ」
「水兎が前に変になったのってまさか……」
「はい、それも私の仕業です。私、そこそこ昔から色々していたのですよ?」
ニコリと笑うユギト……アイツの腹から流れていた黒い血が、氷を食い破るように割ってそのまま腹の傷が時間が巻き戻るように、衣服ごと治っていく。
あんなの……普通の人間が出来る事じゃない。
急に現れて、影から変なの出した時はモンスターの力を借りたのだと思ったけども……今のアレはそれでは言い訳がつかない。
久しぶりに、俺は何かを怖いと感じた。
「ジュンお兄さんが言ってたの本当だったんだっぺか……?優義徒さんの中に……優義徒さんじゃない化け物がいるって、本当だったんだっぺか?」
震える米子の言葉にユギトは……アイツは笑っていた。
「そういえば、ジュンくんとお話していましたよねマイバラ嬢。その通りですよ。今の私は優義徒の中にいるモノです。そして、この体の主導権を握らせていただいています」
笑ったまま話すその姿は、よくカードショップで一緒に"ギアスファイト"をしていた時のユギトのまんまで……だからこそ、怖かった。
「一応、名乗りましょうか。私はかつては【這いよる混沌】という名のカードでしたが今は……【誘黒神】となります」
真っ白な仮面に、真っ白なローブ……それに似つかわしくない真っ黒な中身が友達の姿のまま、友達のように笑っていた。
カード紹介
【妖精王の悪戯】
青の神、幸福な終わりを愛する存在が戯れに書いた筋書きの結末。
宣言したカードを奪い取るというシンプルながら凶悪な効果を持ち、大量にドローを行う事で自動的に手札に来る。
使用には制限があるものの、自動的に手札に来たターンに使ってしまえばその制約も有ってないものと同じだ。




