トークン
──勝敗は決しました。
倒れ伏すお父さんを見るのはこれで二度目です……おぼつかない足取りで近づき、床に散らばるカードの中から、お父さんが握っていた手札の一枚を拾い上げました。
「……何が、対象を変える効果のカードですか。全く違うカードじゃないですか」
笑っちゃいますよ……私にサレンダーを促していたのはただのハッタリでした。
あそこでソレが行える胆力は流石は日本支部総主教といった所でしょう……
まあ、それは置いておいて……お父さんとの一戦は"サモンエナジー"を大量に発生させる事が出来ました。
"ギアスディスク"のメーター、そして大気中で可視化出来るほどに密度の上がった"サモンエナジー"を用いれば、私の目的は達成出来るでしょう。
……ジュンくん、そしてお父さんとの連戦は流石に応えましたね。
【神聖なる】と【邪聖天】という大型モンスターの連打を得意とするテーマが混ざったこのデッキは白と黒がそれぞれの要となるので回すのにかなりの神経を使います。
特にお父さんとのファイトは全力の回しでした……デッキ内の神聖なるモンスターの全て、そして邪聖天モンスターの方もかなりの数を使う事となりました。
その上で、まだ晒すつもりの無かった【誘黒神】の顕現……吐き気すら催す程の頭痛に私の体調は最悪を更新し続けています。
『クックック……もう少しで私の肉体が生み出される……この殺風景な牢獄で作られるのは味気無いが、まあ許してやろう』
「…………」
『おい、聞いているのか?』
また勝手に出て来た【ルシフェリオン】が私に話し掛けてきますが声を出すのも今は億劫で視線だけを向けます。
そんな私に何かを勘違いでもしたのか、顎に手をやってふむと呟いた後にこちらの両肩に手を置いてくる【ルシフェリオン】
『まだ壊れてくれるなよ……終わってからならば、お前が壊れたという事柄も嘘に塗り替えてやれる……だから、持ち応えろ』
真っ直ぐにこちらを仮面越しに見つめるその目は真剣そのもので……だからこそ、つい吹き出してしまったのです。
『私が心配してやっているのになぜ笑う!!』
「ふふふ……すいません【ルシフェリオン】でも、大丈夫ですよ……私は全部ちゃんとやり切りますから」
そう言ってから、また疼くような頭の痛みが走ります……時間がありませんね。
大気中に可視化出来る程に濃くなった"サモンエナジー"に向かい、一枚のカードを使います。
『しかし考えたな……トークンを使うとは』
テーブルファイトの時にはカートの効果などでトークンが生み出される際に、トークン用のカードを使用する事があります。
トークン限定ではありますがそのカードはワイルドカード……つまりは何にでもなれる。
"サモンエナジー"でトークンを実体化させ、それによって生み出された魂無き肉体に【ルシフェリオン】が憑依する事で完全な実体化を果たす。
それが、最初の計画でした。
「私の求める水準に達するまでトークンに"サモンエナジー"を注ぎ続けます……余計な事はしないで下さいね?器が変質する恐れがありますので」
『どれ程掛かる?』
「さあ……?初めての事なので私には分かりません」
『むぅ…………まあいい。待つのは慣れている』
"サモンエナジー"が一箇所に集まり、人間大の真っ白な卵のような物へと変化します。
その卵か気になるのか指でつつこうとする【ルシフェリオン】を窘めていると入り口の辺りが騒がしくなります……主役のご登場ですね。
「ユギト!!やっと見つけたぞ!!」
その声に振り返れば、やっぱり来てくれたのはヒャッカくんです。
その後に続くのはミト嬢にマイバラ嬢、そしてアポロさん……?
「……招かれざる客人がいますね」
「HAHAHA!一応、私もこの大会出てたんだよ?偽名だけどね!!!」
「ここに来たということは……約束を破るつもりですか?」
「いいや?私はただの見届け人さ」
参加者リストをめぼしい名前しか確認していなかったのが痛手ですね……でも、邪魔をするつもりが無いなら彼については問題ありません。
目下、問題となるのは……
「ユギト……さん、あのバイクの女の人に何をしたの……?」
「すっごいおっかなかったっぺ……オバケに取り憑かれてたみたいだったっペ」
「…………少し、背中を押してあげただけですよ?」
バイクの女の人……恐らくはレイカ嬢でしょうね。【アスモデウス】による色欲──恋心の暴走で何かとんでもない事でも口走ったのでしょうかね。
彼女にスペック以上の働きをしてもらうにはああするしか無かったので仕方ありませんが……ミト嬢とマイバラ嬢二人がかりで倒し切れるとは思いません。
向こうで何があったのかは気になりますが……過ぎた事なので置いておきましょう。
四人の注目は私から逸れ、背後の【ルシフェリオン】……さらにその背後のやがて器となる白い卵に向きました。
「お前、やっぱりなんか悪巧みしてるだろユギト!」
『悪巧み?違うな!私とコイツが行おうとしているのは善行だ!』
「確かユギトの"ギアスモンスター"の……」
『フッフッフ……我が名は【ルシフェリオン】!!やがてお前たち人間、そしてモンスター全てを支配する存在である!!』
そう高らかに宣言する【ルシフェリオン】に対して、警戒しているのかヒャッカくん達は"ギアスディスク"を構えます。
「支配ってどういう事だよ!!」
『そのままの意味だ!我が力にて、貴様らの望むままの未来をくれてやる……その代わりにこの私を崇め続けるのだ!!』
……正直、私も初めて聞いた時はなんだそれと思いましたよ。
【ルシフェリオン】の力の真髄は現実の改変……嘘を真実にする力です。
あの調子に乗りやすくて足元をすくわれやすい(一応は)善性に溢れた性格でなければ、もっと凶悪な使い方をしていたでしょう。
その気になれば死んだという事すら嘘にしてしまう。
その力を遍く人類に振るう代償としての要求が自分を崇める事……ようは、神様に成り代わるという事ですかね?
本人がそれで良いならいいのですが……なんだかなぁ。
「望むままの未来……?」
『そうだなぁ……"ギアスファイト"に永遠に勝ち続けられる未来、食うに困らず腹いっぱいで過ごし続けられる未来、愛した友を守り抜く事が出来た未来……何でも私が創りあげてやろう』
それぞれの未来を言う度に視線をミト嬢、マイバラ嬢、アポロさんに向ける【ルシフェリオン】にヒャッカくんが噛みつきます。
「お前なんかに俺たちの未来を勝手に作られてたまるかよ!!」
「そーよ!アタシの未来はアタシの力で叶えてやるんだから!アンタみたいな真っ白オバケの力なんて要らないわ!!」
「一人だけでおなかいっぱいになっても嬉しくないっぺ……」
『ふん、貴様らのような子供はまだ何も無い未来の恐怖を知らんのだ……だが、お前はよく知っているな?』
「よーく知ってるよ……でも、私も彼もまだ終わってないからねぇ。ま、若い子達に今は任せる事にするよ」
そう言って一歩下がったアポロさんの代わりに前に出た三人の子供たちの姿はまさに巨悪に立ち向かおうとする主人公達そのものです。
私の最期の相手にするにはピッタリです。
「【ルシフェリオン】下がって下さい……もはや言葉では聞きませんよ、あの子達は」
『そのようだな……だから道理を知らん子供は苦手なのだ』
デッキを浮かべ、懐から大司教として動く時の仮面を取り出して被ります。
「面倒なので三人纏めて掛かってきて下さい……ルールは変則マッチという事で、ライフとデッキ、ターンカウンター、手札は個別で、全てのプレイヤーが一ターン目を終えるまでは攻撃不可。そちらの場と墓地のカードは共有可能、また他者のターンでも手札からカードのクイック発動は可能。"ギアスモンスター"は各々が使用可能……代わりにこちらは初期ライフを倍にして、先行を貰いましょうか」
「良いぜ……俺たちが勝ったらお前達の悪事、止めてもらうからな!」
「……ええ、そう約束しましょう」
彼らの背後に並ぶ"ギアスモンスター"はそれぞれ、赤の英雄、青の英雄、緑の英雄。
既に【ルシフェリオン】はデッキに舞い戻った為、私の隣には誰もいません。
「約定カード【強壮なる使者】をゲーム開始前に発動します。効果により、私は"ギアスモンスター"を配置する事が出来ません」
「約定カード……?水兎ちゃん、知ってるっぺか?」
「知らないわ……でも、"ギアスモンスター"を置けないってデメリットが有るんだからきっとそれを覆すくらいの効果がある筈」
「その通りですね……約定カードはプレイヤー自身に効果を与えるカードと認識して下さい。ありとあらゆるカードの効果を受けません。そして、このカードを使用しているプレイヤーは自身のターン開始時に好きなカードをデッキから一枚サーチし、さらに手札から使用する黒のカードのコストを2減らす事が出来ます」
「何それ!?カウンターブーストのデメリット踏み倒せるじゃない!!?」
「黒限定だけどコストが2も減るのもヤベェよ……でも、負けられねぇからな!!」
ヒャッカくんの言葉に他の二人も頷きあっています。
その意気です。ラスボスのパワーカードぐらい、貴方達ならば乗り越えて行けるはずです。
「「「「"ギアスファイト"レディセット!」」」だっぺ!」
ユギト 【誘うは深淵の果て】
VS
炎柳 百火 【英雄に至る神火】
五月雨 水兎 【英雄に至る氷河】
米原 翠子 【英雄に至る繁栄】
「「「「スタートアップ!!!」」」だっぺ!!!」
さあ、最期の遊びを始めましょうか




