「日頃の行いが良いからですね」/「見た事あんのかよ……」
私が閉じ込められていた部屋は地下室だったようで窓がなく、時折振動が通路を震わせてその度に崩れるのではないかとヒヤヒヤしていました。
しかし、妙に通路が長くて暑いです……いくら通気性が悪いとはいえもう秋なのですよ?
パーカーの首元に行儀悪く指を掛けてパタパタと扇ぎますが暑さは引きません……何なのですかねこれ。
「完全に迷子なのですが……なんか見覚えがあるようなないようなっと」
再び揺れる通路……今度は大きめでふらっとバランスを崩して壁に手を着いてしまいました。
すると、ガコンと何かのスイッチを押したようで近くの壁がスライドして隠し扉が開きました。
風がそこに吸い込まれているので……恐らくは外に繋がっているのでしょう。
「日頃の行いが良いからですね、ふふふ」
意気揚々と進んでいけば登り階段を見つけましたが……熱気がそこから吹き込んできます。
……凄まじく嫌な予感がしました。しかし、進まなければいけません。恐らくは出口はこの先にあるのですから。
階段を登った先はどこか見覚えのある光景でした。
所々ヒビの入った漆喰の壁が続く廊下は家具や掛けられている絵画は異なりますが教会の生活スペースの物と同じで、割れた窓から見えている外の景色が火の海で無ければ十数年後の教会と言われても信じたでしょう。
「……なるほど、通りで暑いわけですよ」
外の様子を伺おうと窓から身を乗り出そうとした瞬間、炎が吹き上がり思わず身を引きます。
暑い筈なのに背筋が冷たくなって、思わずデッキケースに触れました。いつもならば落ち着くのに……頭の底が冷えるような感覚はありましたがその代わりに体が震え始めました。
呼吸が浅くなって、嫌な汗をかいて、それを治めようと自分の体を抱き締めるように腕を回しましたがダメでした。足から力が抜ける……立っていられない……何かが燃える音がずっと耳から離れません。
「ねぇ……いますよね【ルシフェリオン】」
ポツリと零した言葉が虚しく響きます。いつもならば声を掛ければ姿を見せてくれるのに……心細くなって益々気が滅入ります。
どんどんと湧き上がるのは恐怖心、"ギアスファイト"をしている時のエフェクトの炎は平気なのに今はただひたすらにこの炎が……火の海が恐ろしい。
「いじわるしないでくださいよ……」
返事は無い……何度も何度も名前を呼びますが【ルシフェリオン】は姿を見せてくれません。
直接言おうと【ルシフェリオン】のカードを手に取ろうとデッキケースに触れてしまった瞬間に完全に思考が塗り潰されました。
「やだやだやだやだ……独りにしないでください。ねぇ【ルシフェリオン】……火はもう嫌なんです」
火が怖い、独りのまま焼き尽くされるのは二度と味わいたくない……怖い、嫌だ。
完全に動けなくなって、何かが燃える音すら聞きたくなくて……頭を抱えて蹲るように地面に倒れました。
ーーーーー
火の海をかき分けて俺たちはお化け林の中を進んでいく。
おっさんも心配だけど、やっぱり先に連れ去られた二人が心配だからと自分に言い聞かせて前に進む。
遠くにぼんやりと見えてきた建物……微妙に崩れてるのかシルエットがおかしいソレに気づいた俺は足を止めた。
「アレって……」
「教会……に、似てるわよね?」
「教会って神聖制約教団のか?見た事あんのかよ……?」
「無い筈なんだけど……でも、似てるって思うのよ、不思議な事に」
水兎と一緒に首を傾げていたら米子が追い付いてゼーハーしながら声を掛けてくる。
「ふ、二人とも早いっぺよ〜……あそこの建物に行くんだっペ……?」
「んー……今ん所、あそこぐらいしか人いなさそうだし、行ってみるか」
俺の言葉に少し間を空けてから水兎が頷く。
あそこぐらいしか手掛かりねぇし、行くしかねぇもんな。
進んでいくと火に照らされて建物の姿が全部見えてきた。
建物はやっぱり屋根が崩れかけていて、植物のツルが伸びていてお化け屋敷っていう言葉そのまんまな見た目だった。それでも不思議と火は建物を避けるように燃え続けている。
そして金属の半開きな門の前に誰かが立っていた。
「レジーナ!!?」
「……通さない」
ぼんやりとした様子のレジーナは水兎が声を掛けると"ギアスディスク"を構える……ってなんでだよ!?
「なんか様子おかしくねぇか……?水兎の時と同じ感じがするぜ」
「ソコロワさんも操られてるっぺ……?」
だとしたらやっぱりユギトの野郎がなんかしたのか……アイツ、悪いこともうしねぇって言ってたのに!!
「通さない……通さない……」
ブツブツと呟いている様子は明らかに正気じゃなくて間違いなく、足止めの為に"ギアスファイト"を仕掛けに来ていた。
俺が相手をしてやろうと一歩前に出ようとしたら水兎が手を前に出す。
「アタシがレジーナの相手をするから百火と翠子さんは先に行って」
「水兎ちゃん置いてけって事っぺ!?」
「置いていくんじゃないの、ちょうどいい機会だから、レジーナにリベンジしたいだけよ。ずっと中断とかで決着つけられなかったしね!」
そう言う水兎の目は真っ直ぐレジーナを見ていた……しゃーねぇし、今回は譲ってやるぜ。
「絶対に追い掛けて来いよ、水兎!」
「レジーナと一緒に追いかけてやるからさっさと行きなさいバカ百火!」
俺たちが駆け出した瞬間に阻止しようとレジーナが動くがその前に水兎が"ギアスディスク"を起動させる。
「アンタの相手はアタシよ!」
後ろから聞こえる声に振り向かず、俺たちは崩れた入口から建物の中へと入っていった。




