閑話 第二の爆弾
ドリアン視点
夜を迎えて、明日の予定も決まって解散になった。
ようやく部屋に腰を落ち着けて、さっき見たときから更に増えているメールの未読件数から努めて意識をそらしてアイスを開ける。
「はあああああぁぁぁぁぁ」
リーダーとロイドのお部屋配信をタブレットで開いていたら、隣から大変に大きな溜息が聞こえた。
「よく持ち込みましたねえそんなもの」
「これがないと生きていかれへんのや」
「大変ですね」
部屋の中には大きな空気清浄機が置かれている。ホテルのものではなく、先輩が持ち込んだものだ。車からガラガラと台車を運び出した時は何事かと思った。
「こんな時期に山の傍で大会なんぞしよってからに……」
「3月4月はこういうイベントのラッシュですよ、毎年何かしらこの時期にこういう案件は来ます」
「知っとるけど毎年思っとんのや」
それはそれは。と思いながらタブレットを眺めれば、部屋の紹介は一通り終わっていた。
『お部屋はこんな感じ~。この部屋はー……えーと、グレードなんぼだっけ?』
『公式サイトの表記ではスーペリアルームのBタイプだな。この上にデラックスやスイートルームが存在する』
『あー、俺たちが特別扱いでいい部屋に割り振られた訳じゃなくて、相部屋OKを出している人が優先的に広い部屋に振られてるっぽい。一人部屋を希望した人はモデレートかスタンダードに入ってるって』
『まあスタンダードも本来二人部屋なので、ひとりで使うにはかなり広いと思う』
『そうねぇ。トシさんとか確か、トロイライト全員で相部屋でいいって言ってジュニアスイートあたりだったはず』
『――――"一番高い部屋"?多分ロイヤルスイートだな。スイートルームはヘッドギアタイプの専用VRが置かれているはずだ』
『――――"どうせスイートなんて泊まれんから聞いただけ"。なんだそれwまあ、ドレスコードなんかは気にせず泊まって大丈夫だよ、案外スイートルームTシャツ短パンの人いる』
『金銭的な話をしてるんじゃないのか?』
『あー……言うて専用VRも上位機種ではあるけどポッドタイプに比べるとちょっと性能落ちるし、一人二人くらいで泊まるならスタンダードで全然良いと思うけど』
『スイートルーム宿泊者専用のラウンジなどもあるんだが……正直、他所のホテルでもあまり使ったことがない』
『ロイド酒飲まねえもんなぁ――――"そもそも予約取れません"。ほー、どんくらい先まで埋まってんの?――――"システム的に取れる2年先までびっちりキャンセル待ち"?流石に嘘だろ?』
ところがどっこいこれが本当なんですよねえ。
予行演習のために何度も泊まったので感覚が完全に麻痺しているけれど、ここは現状、少なくとも日本国内では替えのきかない施設だ。
後追いは、まあ2、3年くらいは難しいんじゃないでしょうかね。安全や衛生の確保を考えると少し高めの料金設定が必要になりますし、そうすると突貫で作ったハコでは駄目なので。
一般予約が解放された時点でシステムは触ってみたけれど予約不可の日付がかなりあったので、すでに相当先までイベントの開催も決まっているんでしょう。
トシアキさんがチームで合宿をしたいと言っていたけれど、取れたんでしょうかねえ?
「俺ンとこにな」
「はい?」
「西生寺VxRの予約枠をくれ言う連絡が二桁きてん」
「それはそれは」
「俺は旅行代理店やねえっつぅの」
「まあ、気持ちは分かりますけどね。もしかしたら優先予約枠持ってるかもしれないですし」
「持っとるかいなアホか。お前んとこには来てへんのか?」
「私、周囲には最初の会社の秘書課をやめた話をそもそもしていないので」
「はあ?」
「私がサザンクロスに入ったことを知っているのは先輩だけですよ」
「まじか」
まじです。両親にすら言っていない。
両親は独り立ちした息子の動向を全く気にしていないので、そもそも仕事の話を聞かれたことがない。VRや配信事業にもまったく興味がないので、言ったところで分かるかどうかも微妙なところだ。
友人たちには「社長秘書のようなものをやっている」と伝えている。リーダーは社長なのでこれも別に嘘ではない。
配信でも一度も本名を出したことも、顔を出したこともない。大規模イベントではチラッと顔が映ることはあるが、メインキャストではなくちらっと画面端に映った凡顔のマネージャーの個人特定はほぼ不可能だ。
…………本名出したことがないはずなんですけど、なぜか二次創作に書かれている私の名前、合ってるんですよね。謎だ。
「むしろ先輩はどこから漏れたんです?」
「……元カノ」
「大学の同期でしたっけ?」
「せやねん。飲み会で喋っとったらしい」
「それはそれは」
流石に恋人に転職を隠すのは無理だし不義理ですね。引っ越してもらった時はまだ付き合ってましたし。
共通の知り合いである彼氏が芸能事務所みたいなものに就職した、というのを世間話的に周囲に話して。
「知り合いが芸能事務所のマネージャーに転職した」ということには興味がなかった人たちが、「国内唯一の予約がパンクした施設にコネがある」となったら欲が出たってところですか。
仕事だったら一発ブラックリスト入りでもいいんですけど、友人となると難しいところだ。
『え、おる?ああ、んー……まあ辞める話はちょっと前に聞いてたよ。――――ん、んー?あいつはゼロプロやめた後は個人だろ?』
『そのあたりはさすがに本人に聞いてくれ』
『おるさ、今日朝活配信してたよなw』
『あれは活動しているうちに入るのか……?』
「これええんか?」
「え?おるさんはゼロプロやめた後は個人ですよ?本人も公言してます」
「詭弁やなぁ」
いえいえ、出資役員は定義上「個人勢」ですよ。何も間違っていません。配信事務所を運営する側は、「所属」ではないんですよ。
「もーどりまーしたぁ〜」
扉がガチャりと開いて、無卿が顔を出した。
戻りが遅いと思っていたけれど、大丈夫だろうか。
「お疲れさん。セリスはおったか?」
「いたいた。伝言はつつがなく」
「ならよかった。遅かったですね?」
「ニンカに捕まって装備作ってた。欲しい性能が倉庫になくてな」
「ニンカの」
「装備……?」
20秒チャレンジ向けの装備ってことですよね?
あちらはなんかもう、完全にスコアが天井ついてて消化試合の印象なんですが……。
「これねー、決まったら面白いことになるよ」
「ニンカまで爆弾かいな」
「微妙なラインなんだけど、やらなきゃどうせ負けるし。決まって欲しいね〜」
「まぁ、盛り上がる分にはいいです」
そういうことなら、しっかり話題になっていただきましょう。
サザンクロス二次創作でドリアンの名前を「アキラ」と表記するのが流行っている。なおドリアンの本名は本当に「章」である(ただの偶然)
この後書きが掲載されているということは、私は32章の執筆は間に合わなかったということでしょう。
予約投稿はここまでになります。
最新の執筆状況や再開予定についてはX(@mizuho_takatori)をご確認ください。
ブックマークしといてもらえるととっても嬉しいです!




