閑話 それぞれの大会前
31章、スタートです!
「――――」
目の前で、発声とは違うスキルが発動する。
反射的に前に出そうになった体を既のところで押し留め、こちらもスキルを繰り出す。
スキル軌道に槍が絡まり、武器同士がぶつかる音が響いた。
「今のは見えた」
「っ、はい!」
「少し後ろにやりすぎかな、知らなくてもあそこまで動くとちょっと視線が寄る」
「うーん……塩梅が難しいですね」
「そうねえ。でもかなり分からなくなったよ。初見なら三回くらいは騙せると思う」
「はい、ありがとうございます」
「問題は二戦目かねぇ」
「そう、ですね。一回目を俯瞰で見られますからね」
大会では迷路上での対戦を配信する都合、確定で上空カメラがある。
上から見たら流石に分かるよねえ。
まぁ絶対に違うと分かっていても一瞬体が反応するのだから、本当にとんでもないよね。EFOに慣れていればいるほど対応が難しい。
「やっぱり、トラ戦以外では使えないかな」
「はい、そこ以外は自力で超えます」
「"ゲーム"が上手いプロたちを、EFOはこうやるんだよって是非蹴散らしてきてね」
「……最大限努力します」
何か言うべきなのかなぁ。うーん。
「あー…………その、」
「えっと?はい」
「色々忙しいとは思うんだけど、大会は楽しんできてね」
「あ……はい、楽しんできます」
彼女はそう応えて、ふわりと微笑んだ。
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「忘れ物はありませんか?」
問いかけに彼はそれはそれは嫌そうな顔を向けた。
「最寄り駅からシャトルバスが出ているそうなので時間に気をつけてくださいね。向こうではみなさんとそれなりに仲良くしてくださいよ」
「いらねえっつの」
「もう、またそんなことを言って」
ふうと息を吐く。でもまあ、彼がそう言った問題を起こしたことは一度しかない。私がいなければ、それなりになんとかするのでしょう。
「気をつけていってきてください。応援しています」
「てめえも参加だろうがよ」
「記念参加ですよ。ソロですから、勝ち上がれるかは、微妙なところです」
「勝て」
「……分かりました、最大限努力します」
あまり真面目にやる気もなかったのですが、仕方ないですね。
「本当にお気をつけて――――勝って来てください」
「当たり前だ」
ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らす彼の、その背中を見送った。
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お父さんが大きい荷物を車に固定した。
色々なものがあたしにぶつからないように細々した工夫の凝らされた我が家の車に乗り込んで、車椅子を固定する。
今日の運転はお母さんだ。
「やっぱり、今更だけどお父さんも行こうか?」
「いいって、ってか普通に仕事じゃん、ちゃんと仕事して」
大会が近付くにつれてこの泣き言が加速度的に増えてるんだけど、今から人数変更とかホテル側に迷惑だしやめて欲しい。
「何でお父さんは土曜日仕事なんだろう……」
「六花の通院に合わせるために平日休みの仕事についたからじゃない?」
「……正論で殴るとお父さんは泣くよ」
「はいはい、終わったら帰る時は家にいてくれるんでしょ?」
「それはもちろん!」
「勝ってたらお祝いしてね、負けてたら慰めてね」
「もちろんだよ、行ってらっしゃい、お姫様。彼にもよろしくね」
「うん、行ってきます」
扉が閉まって、車が動き出す。
出発したよ、とメッセージを送った。
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「ほん%$ぁ~っ&#ー&$ぃ&%おぅ&※ぇ~ふ」
『なんて?』
『やっぱりだめだったよ……』
『こんちゃー』
「……すぅ…………」
『おい寝たぞこいつ』
『いつも思うんだけどどうやって配信開始してんの?』
『あーあーもうおしまいだよ』
「んぁ、、、、ぇ#$?」
『だからなんて?』
『寝てたよ』
「ぁ~~~ひょ&ゎぁぃぁぃ%&※ぁ*~」
『かいどくはーん』
『それは知ってるけど一回寝たら?』
『なにが、なんて?』
『ひょわあいあい?』
『なんか一人普通に会話してる人おらん???』
『こんちゃーっす、げーむだいすきおるくんでーす/んぁ、ねてた?/あ~今日は大会行くんだよ~ とおっしゃっています』
『なんで分かるの?』
『言われてみればイントネーションはそれっぽい』
『おいおるくんまた寝てんぞ』
『大会大丈夫か……?』
『大丈夫大丈夫、昼にはねころが迎えに来るから』
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「っし、オッケーだな」
問い合わせが殺到した公式メールアドレスはドリアンとびっくり箱と、臨時でハタさんにぶん投げ、こちらはこちらで車のラゲッジに荷物を積み上げた。
「忘れ物はないか?」
「いや別に、スマホさえあれば最悪あとは現地でなんとでもなんだろ」
一通り着替えやらノートPCやらグラスディスプレイやら入れたからトランク自体はデカくなったけど、なんなら着替えがなくたって現地調達できるって。相手はリゾートホテル名乗ってんだから。
大会参加者証の入ってるスマホだけは忘れると詰むけれど、車のキーがスマホ連動なのでスマホを忘れたらそもそも車が動かない。
一つだけ、どうしても忘れたくなかった荷物は3回確認した。大丈夫のはずだ。
「じゃ、出発」
いざ、完成した西生寺VxRリゾートホテルへ。




