29-3.天才の博打
EFOには、厳密には多くのVRMMOには、「博打」と呼ばれるテクニックがある。
「セリスちゃん」
「はい」
「今日教えるのは博打、あるいはニブイチと呼ばれるテクニックです」
「博打、二分の一……はい」
博打と呼ばれるだけあって、このテクニックは安定しない。使った結果勝つかもしれないし、使った結果負けるかもしれない。
三日ほど悩んだ挙げ句、結局教えることにした。
「最初に言っておくね。このテクニックは、トラ戦まで見せてはいけない。使えることを知られてはいけない。トラはテクニックとしては絶対に知っているから、使ってくると分かっていたら対応される」
「……はい」
これが最大限の効果を発揮するのは不意打ちの一回だけ。トラ以外には実力で勝ってもらう。
「さて……僕もあんまり得意じゃないんだけど、見せ方が他になくてね。軽く打ち合おうか」
もう何度目かわからなくなってきたPvP申込が流れるように承認され、フィールドが展開される。
数度の打ち合いの末に僕が発動したスキルに――――セリスちゃんは完全に受け損なって、すごい勢いで吹き飛んだ。
あー
「…………音声解析の速度……思念解析が…………高速フーリエ変換…………スペクトル解析……包絡を取り出すはずで…………」
いー……
「判別の速度が…………トリガーフレーズの待機…………基準モデルとの比較が…………マルコフモデルと…………13次元変換……変数が…………」
うー…………
「HFO……AD変換………信号推定と…………ノイズが大きくて……補正計算が…………通常は合致を取ってるはずで……………」
えー………………
「ああ、そうか。違うんだ。合致を取っているから。そもそも解析は……二重思考の…………音は…………そうか、伝達……」
おー……………………
「肉体信号……思考判定…………ノイズ除去よりは…………そうか、複数経路からの…………」
やばいどうしよう、セリスちゃんが帰ってこなくなっちゃった……
まだ何も説明していないのに。
まあわかりやすいものではあるんだけど、かんっぜんにどっか行っちゃうと結構困るなこれ。
えーと……えー……今これ声かけていいのかな……?多分だめだよね……?
「――――なるほど」
「ぅおっ」
急激にどこかに行っていた瞳が焦点を結ぶ。
「すみません、急に黙ってしまって」
「え、いや」
全然、黙ってはいなかったね。
「いいけど、えーととりあえず、解説いる?」
「あ、そっか。えっと、多分大丈夫です」
「だよね」
「ぽんすけさん」
「ほいさ?」
<フレンド:セリス より PvP が申し込まれました>
「お手合わせ願います」
「はいはい」
<PvPが承認されました。フィールドが展開されます。
戦闘タイプは「ガチ戦100%」です。
フィールド外への転移が禁止されました。
回復アイテムの使用が禁止されました。>
さて、何を掴んだのかはよく分かってないんだけど、とりあえずやりましょう。
構えた僕に、藍色の髪の彼女が駆け出す。
最初のスキルを、彼女が口にして――――
僕はもしかしたら、とんでもない化物を生んでしまったのかもしれない。




