5-6.トップタンクと傀儡師
「よっす!行こうぜ!」
ここ最近で一番の笑顔のニンカが、ログイン直後から待っていた。
「早くね?」
「まあいつもよりは早いかも?てかレベリング行こ!さっさと上の方回れるようになっときたい」
「待て待て、二人じゃ無理だ。ロイドかリーダー…あー、昨日配信してたから……」
「ちょっと前から見てるけどいないんだよね。今日は動画編集の方じゃないかな?トラキチ呼ぶ?」
「あいつが他人のレベリングの手伝いなんてするわけねえだろ」
「それはそう」
うーん、ギルメンの程よい上級組が軒並みいない。
いやうん、色々開放された直後だから、皆忙しいよな。うーん……社会人組がログインするのはもう3時間は後だし、居たとしてもあまりあの人達を格下に連れていくのもな…。
「ふっ二人でも、いいよ?」
ニンカの声が少しだけ上ずった。
「あー、えっと、あたしだけで行けるとこだとグライドの経験値は美味しくないけど、ほら、ダラダラするよりはっいいかなってっ!」
なんか、いつもより様子が変だ。何がとは言えないが……からげんきっぽい?
「あー、まあ、そうだな。今150か?170くらいのとこ行けそうか?」
「まだ慣れてないんで正直わかんない。昨日の終盤は一応人魚ソロとボガードソロまではやった」
「なら行けそうだな。傀儡師って扱いは何だ?純魔?」
「スキルは魔法、通常攻撃は斬属性の斬魔。疾く駆ける戦車の上からカード攻撃するから、扱いは中衛かな。昨日の感じ的には、アサシンほどは火力出ないと思う。やっぱ通常攻撃あそこまではいんねーや」
「いや、普通のアサシンもあそこまで火力出ないからな」
魔弱点か、斬弱点、150~170くらい。うーん。
「ああ、王墓行くか」
グランベルの王墓。ピラミッドダンジョンで、ボスは斬撃弱点と魔法弱点を定期的にスイッチするというギミックボスだ。
ボスの状態スイッチ時にヘイト値がリセットされるという、タンカーの実力が試される場所でもある。
推奨レベルは165。ちょうど良いんじゃないだろうか。
最寄りのグランブルートシティから直結する場所にあって、周回もし易い。
「よくそんなマイナーダンジョンほいほい出てくるよね……」
「いや実は、必要素材の関係でちょうど調べてた」
「お、そなの?じゃそこだね。紫に光ってる時が斬弱点で、赤く光ってる時が魔弱点だっけ?」
「合ってる」
「よし行こうぜ、あぃ……えと、タンクの神様?」
「っ、あ、ああ、行くか」
ニンカが俺をそう呼んだのは、初めてだった。
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あーばかばかばかばか!
もう、匿名希望ちゃんのせいだ!
なんか、変に意識しちゃって上手く顔が見れないっ!いつも気軽に相棒って呼んでたのに、なんか、なんかさぁ!こないだまで平気だったのにっ。
何だよ~タンクの神様って……いや動画コメントとかでそう呼ばれてはいるけどさぁ。ほらー、グライド引いちゃったじゃん……。
ってか二人って、二人ってまじか……ロイドさん早く来て!間が持たない!リーダーでも良い!!!
いやもう、いい。敵殴ってれば忘れるだろ!行くぞ!!!
「で、王墓で欲しい素材って?」
「副葬品の王冠とか、金属っぽいやつ。新盾の修復素材に古代の黄金が要るんで分解して使う」
「なるりょ。ボスのランダムドロップかな?多めに周回すっか」
「だな」
道中は魔法弱点フロアと斬撃弱点フロアが交互に続く。
まあ適当に従魔召喚を発動して打ち漏らしをカードで薙ぎ払っていくだけの簡単なお仕事だ。
あーいいねぇ、ちゃんと選べる召喚……ストレスフリー。雷虎じゃなくて子猫しか出ないのが解せないけど。松竹梅も選ばせろ。
さー来たぞボス部屋!
「疾く駆ける戦車!グライド正面任せた!」
「おうさ、プロヴォケート!」
あたしの思考に反応して戦車の先頭の馬がボス部屋の外周を駆け出す。
グライドの挑発スキルが発動して、ボスの視線が逸れていく。
ボスカラーは赤。
「従魔召喚!からの、百発百中!貴方に特別な賞品を!」
これは昨日発見したのだけど、戦車乗車中のダメージは身代わりチャーム>戦車>自分の順に消費される。
このクソダメージ出る貴方に特別な賞品をは自爆分もコンボとして扱われるので、コンボで死亡するダメージを受けた場合、HPを1残すという通称コンボ身代わりチャームを所持していると、プレゼント爆撃中は戦車のHPを1残して打ち放題になるのである!
これ後でぜっっっっったい弱体化される!絶対修正来る。賭けてもいい。だけど今は使う!
トンデモ火力が出るけれど、グライドは挑発を切らさない。
敵のHPが砕けて色が変わる。一発で割れたな、幸先いいぞ。
ボスが紫に光る。ここからは魔法高耐性、斬撃弱点だ。
一瞬敵が振り返り、だけど向こう側から聞こえた「ハイプロヴォケート」の声にまた振り戻った。
カードを投げ飛ばして通常攻撃をガシガシ入れていく。短剣2本より明らかにテンポが遅い。もうちょい効率的なカードさばきは練習しないとな……。
もうちょっとでHPが割れるというタイミングで一瞬だけ敵に近づく。
からの取って返して、そして敵が赤に輝く。
「種も球根もありません……だめか」
ポンコツ爆弾め。もう使わん。
身代わりチャームの効果は終わってしまったのでもう使えない。基礎スキル系で削っていくけれど、削りが遅い。
スキル回しはもうちょい研究しないとだめだな。
そう思った直後、ボスがばっと振り返り、
ドン
という鈍い衝撃とともに、戦車が砕け散った。
っ!抜かれた!
「抜かれた!3秒!」
「山羊車!」
傀儡師にだけ設定されている二つ目の覚醒技を使用する。
戦車の先頭が山羊になったこれは、戦車から乗車時無敵を無くした、つまりただの車椅子だ。
この山羊車はスキル発動者以外も乗れるというもので、まああれだ、車椅子ユーザー同士でパーティ組んだ時に全員傀儡師じゃ遊びにくいよね、という明らかな運営の配慮だ。
慣れた操作で最速挙動で敵から逃げる。1,2,3。
「プロヴォケート!」
グライドが挑発スキルを発動する声が聞こえる。
ボスがグライドに振り返る。
後ろから再度攻撃スキルをぶち込んで、ややあってボスを撃破した。
「…………すまん」
「いや別に大丈夫よ?倒せたし。ただ、どした?らしくないじゃん」
「あー……いや、単純に、スキルの時間管理ミスった」
「珍しいね」
「………………………………すまん」
グライドが目に見えて凹んでいる。いや、珍しいけどさ、たまにはあるでしょ。
「まあ、たまにはそういうこともあるっしょ。次は頼むよ?ほら、周回行こ」
「…………」
「グライド?」
帰還ポータル横についてもグライドが動かない。
「……すまん、今日、終わりでいいか?」
「え、あ、なんか調子悪いやつ?いいよ、無理すんな?」
「悪い。街着いたら解散で」
「あいあい」
グランブルートシティ到着後に、グライドはさくっとパーティを解散して、雑談もせずにログアウトしていった。
調子、悪かったんだろうか。
風邪?寝不足?もしかして今大学の試験期間とかだったりする?
向こうの都合も聞かずに誘っちゃったのはちょっと悪かったな……
次会った時ちゃんと謝っておかなきゃ。
そんなことをぼんやり考えながら、あたしもログアウトした。
――――それから何日も、グライドには会えなかった。
気がついたらブックマークが300件になっていてビビり散らかしています。
ブクマ・評価・いいねありがとうございます!
※コンボ身代わりチャーム
正式名称は「女神アリアのせせらぎの祝福(身代わりチャーム)」
キ○グダムハーツのコンボリーヴみたいなやつ(通じろ)。




