5-5.トップタンクの思い出2
翌日、彼女はまた同じ場所で募集をしていた。
誰も声をかけない様子だったので、予定通りサブキャラをアコライトに転職させて近づいた。
「よっ、昨日振り」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
あまりにおもしろくてスクショを撮ったら怒られた。
この子となら、パートナーになれる。
ただひたすらに誰かと組むのが怖くて、怖いままのらりくらりとパーティを固定せずここまで来たけれど。
彼女なら大丈夫だ。
どこかで気づいていることだけは伝えておいて、あとはのんびりやっていけばいい。
ひとまずはサブのレベル上げだ。読みが正しければ、付いてきてくれるだろう。
やっっっっちまったあああああああああああああああ
パーティを組んだままなのに彼女が消えた。
ログアウト表示も出ない、バイタルエラーによるはじき出しだ。
パーティ状態が強制的に解除された旨の表示が出る。いや、こんな表示あんのか……ってそうじゃなくて。そうじゃなくて……。
この思ったことをペラっと言っちまうのなんとかなんねーのかな、俺!
いきなり言うことじゃねえだろいい加減にしろ!
あああああああもうダメだおしまいだ……せっかくペア組める人を見つけたと思ったのに……。
ああ、せめてどっかで謝っておかないと……
今日もログインしていない。いや、フレンド登録してないからログインしてるかどうかすらわからないんだけど、とりあえず募集広場にはいない。
あああ俺のせいで引退とかしちゃってたらどうしようっ……募集広場外だといそうな場所は……ボートタウン?サブ持ってないって言ってたし、あり得るか……?
――――いたわ。
「ニンカさん!……って待って!逃げないで!?」
誤解を、誤解を解かせてくれ……大丈夫?俺今喋れてる?何喋ってんだろ、えっと、だから、その……
「時間を取ってくれてありがとう。またそのうち遊んでくれたら嬉しい」
返事はない。
終わった。色々と。パーティ解散を選択して立ち上がる。
プレイヤー:ニンカからパーティ申請が届きました。
「えっ……と?」
「この間組んだの、本当に楽しくて。びっくりしちゃっただけで、謝ってもらうことはなくて、だから、その」
彼女はたどたどしく言葉を紡いで。
「また、あたしと組んでくれますか?」
心に何かが灯ったのに、その気持には上手く名前がつかなくて。
「もちろん」
俺がこの時どんな顔をしていたかも良く分からなくなって。
「あたし、あなたとならどこにだって行ってみたいです。苦手なフィールドにも挑戦したいです!」
だけど、彼女の顔は、今まで見た中で一番キレイだった。
「いいねいいね。したらば、ちょいとレベリングに付き合ってもらおうか」
ただ、この返しについては今ならはっきりとこう言える。
――――もうちょい気の利いたこと言えやこのクソボケナス!
…
―――
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「そろそろ1年か…」
VRポットの中で手を握る。
期待されるというのは、怖いことだ。
クリスタルシティオンラインの準廃パーティに所属していた。
立ち回りを勉強して、持ち前の先読みをAI相手にかましてガードを決めて、最初はそれで褒められて。嬉しくて。
当たり前にこなすようになると、要求がどんどん上がっていって。褒められることもなくなって。
次第に後ろに抜かれた瞬間に罵声が飛ぶようになって。
異世界型のMMOワールドは内部でAIが文字通り生活していて、2日も顔を出さないと最前線の世界は一変していたりして。だから最前線で居続けるためには毎日必ずログインしなければいけなくて。
タンクへの要求の上がり続けるパーティに毎日顔を出し続けることに耐えられなくて、逃げ出した。
EFOはストーリー型だ。
アプデが来ない限り、突然世界が変わったりしない。
それが心地よくて移住して、だけどやっぱりひとつのパーティに居続けるのは、できるタンクと思われた場所に再度行くのは、怖くて。
「フレンド枠いっぱいなんだ」と言い続けて誰ともフレンド登録はしなくて。
タンクはどこも不足しているから、ギルド勧誘の数も凄まじくて。
ニンカは、タンクを求めていなかった。
彼女が求めていたのは一緒に遊べる相手であって、まあ流石にブラックマジシャンやビショップだったら組めなかったかもしれないが、そういうレベルのミスマッチでなければ誰でも良かったのだろう。
タンク役は必要だけれど、タンクとしての俺は求めていない。
その関係が心地よかった。
ペアと呼ばれるだけの実績は重ねてきた。トップだがエンジョイ気質なギルドに拾ってもらえて、ギルド勧誘も落ち着いた。
固定で組むようになってからは気が向いた時にだけ野良や助っ人募集に入るだけになって、気持ち的にも余裕ができていた。
――――明日はニンカも合流だろ、それまでにその顔戻しておけよ。
自分がどんな顔をしているかはなんとなく分かるが、しばらく鏡は見たくない。
傀儡師になったニンカは、もう誰とでも組める。
誰とでも組めるニンカは、それでもまだただの俺と組んでくれるのだろうか。
たまにミスるタンクでも許してくれるのだろうか。
確認する方法も、言葉ももたないまま、月だけが窓の外に見えていた。
※準廃
(著者意図としては)本当の意味での最前線ではなく、最前線組の攻略情報を見て最新ボスを後追いクリアするようなグループの通称
「本当の意味での最前線には立てないが、一般人目線では十分に廃人ゲーマーである人たち」という感じ。
割と自虐や蔑称として使われている印象があるので、お外では使わないでね。





