一三話、償いと慰め
巡洋艦青葉以下四隻はマレー半島の南端・シンガポールに入港した。
22:00・巡洋艦青葉CIC
「さて、一丁やりますか」
そこには作業着の袖を捲った武が居た。
「朝までに仕上げないとな…。皆に迷惑がかかっちまうぜ。」
武は工具箱からラチェットとボックスを取り出して、自らの席に着いている操作盤の真下の金属板を取りに掛かる。
「コネクタ、コネクタ…あったあった。」
コネクタを見付けた武は、予め起動してプログラムを開いているノートPCを取って、コネクタを繋げる。
「プログラム開始…。」
巡洋艦青葉の武器システムの一つ、誘導弾管制プログラムを開く。
「さて、問題点を洗い出すぞ。」
「無茶するなよ、武。」
「分かってるよ、松平。」
この時間帯の当直である松平に発破を掛けられ、武は無愛想に返す。
「…ん?こりゃプログラムが所々おかしいな…。」
「本当か?」
「ああ。だが俺が点検した時にはこんなプログラムじゃなかったんだけどな…。」
武は考え込んだが、ある出来事を思い出して急速に浮上してきた。
「もしかして、あいつらかな?」
「あいつらって?」
「ほら、事件の。」
「あ。世界政府の職員って偽っていたあいつらか!」
「ああ。」
「だがあいつらは…」
松平は青葉事件を思い出すが、心当たりがないようだ。
「そうだ。だが、何らかの手法でCICの戦闘プログラムに入り込んだ可能性はあるぞ。世界政府の職員に偽ってこの青葉に乗り込んで来たぐらいだからな。」
武は自信ありと断言に近い持論を言う。
「お前が断言すると、現実にありそうで怖いな。」
松平はおっかねぇと言わんばかりの顔をする。
「こりゃ、ウィルス除去やハッキング防止プログラムを入れとかないといけないな…。」
武は暫し考え込む。
「勘弁してくれよ。それでミスったら…」
「まあ、本気で俺がプログラムを作った時、その後に問題発生したか?」
「…無いな。」
松平は返す言葉を失った。
「0500までには点検まで終わらすぞ。」
「こりゃ、長~い一夜になりそうだな。」
松平がため息を吐くのに対して、武はいきこんでいた。
その後の作業は順調に進んで、04:30には点検まで終了した。
「…これで、完成だ。」
「完了の間違いじゃないのか?」
「隅から隅までエラーや必要修正箇所を徹底的に洗い三昧洗い出して、徹底的に直しまくったんだ。芸術だよ、もう。」
武はノートPCを閉じて、一伸びする。
「後片付けも終わったし…寝るか。」
「そうだな。」
「付き合わせてすまんな。」
「同期の依頼だ。気にするな。」
松平は笑って返す。
07:00・シンガポール
「武ー!起きてるー?」
「ああ…千早。」
「まだ目がちゃんと開いてないよー!」
「ちと野暮用であまり眠ってねぇんだよ…。」
上陸許可を得た武と千早は、シンガポールで観光をしていた。
「…」
「武~?」
「ん?」
武は、千早がいきなり顔を覗きこんでも動揺せず…
「まだ、引き摺っているの?」
「いや…。」
「そう…。」
千早は中々構ってくれない武にションボリとする。
「何も引き摺ってないし…」
武は頭をかいて千早に歩み寄る。
「お前の湿気た面を拝みたくもないしな。」
そして、千早の頭を撫でる。
「武…。」
「ただ、今後の戦いは厳しいぜ。クヨクヨしてる暇ねぇよ。」
「そうだね。」
武と千早は青い空を見上げる。
「さて、観光へ行きますか…。」
「うん!あ、その前に!!」
「?」
「忘れ物!」
千早は、いきなり武にキスをする。
「お、おい…。」
「今日はデートっぽく…ね☆」
「…ふぅ~。分かりました、御嬢様。」
その後、武と千早はシンガポールの街並みを見物した。
某日・某所
「クリア。」
全身を迷彩服やボディーアーマー、タクティカルベスト等で身を包んだ戦闘員が銃を構えながら進む。
「…よし。皆、証拠になりそうな物品を押収して。」
〝ウラー〟
どうやら、ロシア陸軍の特殊部隊らしい。
「さて…。(タケルの言ってたテロ組織はダミー組織だった…。)」
「エレナ班長。これを。」
「ありがとう。」
「ハッ。」
班を率いるエレナは、部下からノートPCを受け取る。
「さてと…。(エレナ、頑張るわ。)」
数分後、エレナ率いる突入班は突入した建物に時限式の爆弾を仕掛けて、タイムリミットまでに車両に乗り込んで去って行った。勿論、建物は瓦礫の山と化した。
19:00・巡洋艦青葉
シンガポールで見物を満喫した武と千早は、巡洋艦青葉に帰艦していた。
巡洋艦青葉・CIC
「松平。システムの調子は?」
「おう。良くなったぜ。」
相棒の松平は、武に修正プログラムの成果を見せる。
「…よし。これで実戦は心置きなくガンガンやれるな。」
「お前がガンガンやると、敵は涙目かもな?」
「まあ、現実そうとは行かんよ。何せ、前の海戦で俺は誇りをズタズタにされた程、エラーが出ちまったからな。」
武は一息吐いて目をギラギラさせる。
「この借りはキッチリと返す。倍返しでな…。」
「お、おお…こ、怖ぇ~。」
武のオーラが、正に尋常じゃないほどの黒いオーラを放っている。
「こ、怖い…。」
流石の千早も、小鹿みたいにブルブルと震えている。
「真田一曹…そのオーラ、しまえ。」
橋本は、額に困った汗を垂らして注意(?)をする。
「申し訳ございません。」
武は、黒いオーラを引っ込めた。
〝はぁ~…。〟
何故か、武以外のCICの全員がホッと胸を撫で下ろした。
「やれやれ。真田一曹は扱いづらい下士官だ。だが…」
橋本は、制帽を被り直して続ける。
「だが、信頼して指示を出せ、任せられる。…千早もだがな。」
橋本の目は、微笑ましいものだった。
その後の訓練シュミレーションでは、エラーが全くと言っていいほど出なかったようで、和田から「不気味だな。アグレッサー機能が死んだんじゃないか?」と評価(?)したそうな…。




