4-2-4
「いけ、るっくん! そのまま決めろ!」
「ウォォォォ――」
「ガゥ、ガォガォ」
「ちっ、クソッ、……やられた」
なんとか完全に日が暮れるまでには到着できた朧グラウンドでは、まだ練習が行なわれていた。いまは咲と阿納の2On2が戦われているようだ。
「辰樹! もっとシンタに動きを合わせろ! 完全に遅れてるぞ、それでも主人か!」
「ぐっ……、わぁってるよ、うるせえなっ! ちょっと……、足が滑っただけだ!」
「それから、シンタ! あんたもあんたで、ひとりで突っ走りすぎ! もっと周りをよく見る! それと、パスが雑! 一つひとつのプレーを、もっと丁寧に!」
「ガゥガゥ、クーン……」
咲による指導の声は金網の外にまで響いている。それを聞きながら中に入り、コートのほうに歩いていく。「あ」と声がして、ベンチから立ち上がるまなの姿が見えた。
「みーちゃん」
その声に、咲と阿納がこちらを振り向く。「弥里先輩!」と咲、それから阿納がこちらに駆け寄ってくる。
「弥里先輩……」
「咲。……その、ごめ――」
「すいませんでしたぁっ、弥里先輩ぃ!」
と、なぜか咲がガバッと頭を下げる。
「えっ、いや、あの……」
「自分、先輩のことを何も知らずに、先輩を追い詰めるようなことを言ってしまって……嫌なことを思い出させてしまって、本当に、すみませんでしたっ‼」
「……まなから聞いたの?」
「自分が強引に聞き出したんです! 不用意な発言でしたっ! このとおり、反省してます!」
「い、いや、そんなに謝らなくても……ていうか、咲が謝るなんて変でしょ。悪いのはあたしだよ。ちゃんと説明もせず、練習サボって部に迷惑かけて……ごめんなさい」
「いえいえ! そんな! なにをおっしゃいます! 弥里先輩はなにひとつ、悪くありません! 悪いのは自分です! このとおり……このとおり深く、反省しております。で、ですからどうか、命だけは、お助けください……!」
まな。きみは咲に何を話したのかな? 航士郎といい、我が幼なじみたちは人のことをなんだと思っているのか。
「おいコラ、アンタ」
阿納辰樹が鋭い目であたしを睨んでいる。
「ごめんね、阿納くん。せっかく入ってもらったのに、いろいろと迷惑かけちゃって……」
「まったくだ。……だがまあ、またこうして来る気になったのなら、それでいい。アンタのいない一週間で、俺もシンタもかなり上手くなったぜ。実力のほどを見せてやるから、さっさと準備しな。俺たちと2On2で勝負だ!」
勢いに圧倒されながら、お、おう、と頷く。初めて会った日はどちらかというとクールな印象をもったが、意外にけっこう熱いタイプなのか。一週間経って部に少し慣れてきたのだとすると、むしろこっちが本来の姿なのかもしれない。
「だめだよ、阿納くん」
横から声がかかる。まながこちらに歩いてきていた。
「阿納くん、もう二回続けて試合してるでしょう? さっきはわたしと、いまは咲ちゃんと。少し休まないと。はいこれ、タオル。それと、水分も摂ってね」
「あ、あぁ、ウッス。……あざっす」
ぺこりと頭を下げ、まなからタオルとドリンクを受け取る阿納の頬は、夕焼けと同じ色にぽっと染まっている。んお? なんかあたしのいない間に、なにやらおもしろいことになっていないか?
「みーちゃん」
まながあたしに向き直る。だめになったあたしを見捨てず、これまでずっとそばにいてくれた友人。無気力生活にもし「孤独」が加わっていたら、あたしはまた立ち直ることができていただろうか。いや、きっと――。
「まな。いままで――」
ごめん、と言いかけて、言い直した。
「ありがとう。あたしはきっと、もう大丈夫だ」
「みーちゃん……」
目を潤ませたまなの顔が途中からぼやけて見えなくなったのは、きっと夕日の逆光のせいだ。
「あ、あの、弥里先輩!」
咲の声に、汗を拭うふりをしながら振り返る。
「その、さっき辰樹がテキトーなことを言ってましたけど、そういうことでいいんですか? 弥里先輩、また霊球部に戻ってきてくれるんですか⁉」
「戻るもなにも、あたしはべつに辞めてない。辞めるつもりもない。みんな、この一週間、迷惑かけてごめん。今日から復帰して、その遅れを取り戻すよ。みんなで練習頑張って、次の県大会で優勝を目指そう」
「先輩……、はいっ‼」
「うし。そうと決まれば、さっそく練習だ! 水を飲んで体力も回復した。せっかく四人いるんだし、四対四でもどうだ?」
チーム分けをし、コートに向かう。あたしとまな、咲と阿納のチームで対戦することになった。ひさしぶりのグラウンド。たった一週間なのに、踏みしめる土の感触が妙に懐かしい。
「みーちゃん、霊体は?」
「え? あ、そっか」
「アハハ。弥里先輩、ちょっとやらないうちに、そんな基本的なルールも忘れちゃったんですか? 霊球は人間と霊体で一緒にプレーするスポーツなんですよ」
ごめんごめん、と頭を掻き、いつもの儀式でヒューイを召喚する。ひゅいー、という声のあと、一瞬、その場の空気がピタッと止まったようになった。そして、
「誰、それっ⁉」
という、みんなの声が重なった。




