序
キンコンカンコン――。
と文字で表現されることの多いチャイムだが、昔からあたしの耳にはそう聞こえない。たとえば「リンゴンランゴン」みたいな、もう少し重いカサついた音に聞こえる。元々は「ウェストミンスターの鐘」と呼ばれる、ビッグ・ベンが鳴らす時鐘のメロディなのだそうだ。
だからどうした、ということなのだけど、要するに、あたしは特別反体制的な人間ではないということだ。むしろその逆。仮に自分の耳にはちょっと違うように聞こえていたとしても、「チャイムの音ってのは『キンコンカンコン』なんですよ」と多数の人が言えば、「ああそうなんですね、わかりました」と自分を流せてしまう人間であるということ。どうでもいい議論にエネルギーを使うのはもったいない。
そんなあたしの耳に、今日のチャイムはいつにも増して「リンゴンランゴン」に聞こえる。「ロンゴンルンゴン」にも近い。終鈴とともに、級友たちはそそくさと席を立ち、それぞれの放課後の活動へと向かいはじめる。みな、青春はこれからが本番だとばかりに、その顔は活き活きとしている。
はあ、とため息をつき、のそのそと自分の席から立ち上がる。かく言うあたしも、これから部活に向かわなければならない。教室を出て、部室棟へ向かう。
部室棟の階段を下りながら、はあ、と二度目、いや三度目のため息をついた。ロンゴンルンゴン。重いチャイムの残響が頭の裏側で鳴る。
――どうしよう。
目下、あたしの脳内を占めている悩み事がその色濃さを増していく。それは前回の霊球部での活動中に起こった出来事だった。




