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1章―2

 街を出て、少し離れた所に鬱蒼とした森――『ナルの森』が広がっている。

 森の入り口付近では、後衛職の冒険者たちが絶え間なく魔法や矢を放っている。

 前衛職の冒険者たちは森へ入り、剣や斧を振るっている。

 回復師たちが彼らに治癒(ヒール)をかけ、傷を癒し、魔力を回復させる。

 それと同時に、ポーションもみるみる減っていく。


「私も、戦うんだ!」


 震える声だったが、リベアは自分を奮い立たせる。

 リベアは魔法使いたちが集まっている所に行き、両手で杖を持って、周囲を見渡す。

 そして、群れから離れ、こちらに向かってくるゴブリンを見つけた。


氷球(アイス・ボール)


 詠唱と共に魔法陣が現れ、氷球がゴブリンへと飛んでいった。

 氷球がぶつかったゴブリンは光り、その場に石を落として消えた。


(1匹倒せたっ!)


 そのまま、その近くにいたゴブリンも倒した。


(これじゃ時間がかかって、街に入られちゃう……どうしたら……)


 ふと横を見ると、魔法使いたちが様々な種類の魔法を使っている。


「魔法が、いっぱい……そうだ!」


 リベアは再び、魔物の方へ向く。


氷球(アイス・ボール)


 リベアがそう詠唱すると、辺りに幾つもの氷球が出現した。

 それらはゴブリンへと直撃し、数匹まとめて倒した。


(これなら、いけるっ!)


 それからリベアは数多の氷球を操り、近づいてくるゴブリンを倒した。

 その間も回復師により治癒(ヒール)をかけられ、魔力が尽きることは無かった。

 近くにゴブリンがいなくなり、変わりに遠くの方にオーガが見えた。

 リベアはオーガにも氷球を放つ。



 ◇◇◇◇



 そうして絶え間なく魔法を放ち続けていると、ついに周囲の魔物がいなくなった。


「後衛もフェンリル討伐に加勢だ!」


 1人の冒険者が大声で叫び、防御に長けた数人の魔法使いと回復師を残して、後は森の中へと入っていく。

 リベアもその後ろを走って付いて行く。

 突如として、開けた場所に出た。

 そこには、青銀色の毛を血に濡らしたフェンリルと、返り血と自身の血で汚れた冒険者たちの姿があった。

 剣士が剣を深く前足に突き刺す。だが、振り払われ、木へ激突した。


「――――っ!」


 フェンリルの異様な存在感に逃げ出したくなるが、踏みとどまり、リベアは杖を強く握りしめる。

 隣で矢を放つ音が聞こえた。リベアは顔を上げて大きく深呼吸をする。


氷球(アイス・ボール)


 リベアの詠唱と共に魔法陣が展開され、無数の氷球がフェンリルへと飛んでいく。

 だが、そう簡単には倒れない。

 しかし、リベアも含めた後衛職たちの猛攻撃に曝され、一瞬だが動きが鈍った。

 その隙を見逃さず、前衛職たちが一斉に切りかかる。

 たとえ振り払われても、武器を失っても、立ち上がり、勇敢に挑む。

 ここにいる誰もに、絶望の表情はない。

 ただ、不屈の笑みを浮かべている。


「ガァア――――ッ!!」


 フェンリルが空気を震わすほどの咆哮をあげ、最後の足掻きとでも言うように暴れ狂う。

 それに対抗するように、冒険者たちも攻撃の手を強める。

 魔法が、矢が、さらには石までもが飛び交う。

 フェンリルにはいくつもの矢が深く刺さり、刃に肉が抉られ、赤く染まった毛は焦げつき、凍りついている。

 時間の感覚なんて、とうになくなっている。

 誰も弱音を吐かない。誰も退かない。誰も諦めない。


 地響きがした。

 それは、フェンリルが倒れた音だった。

 刹那、戦場に静寂がおりた。


「……倒した……倒したぞ!!」


 誰かが言った。

 その言葉に、歓声が上がる。



 ◇◇◇◇



 冒険者のひとりが巨大な石(フェンリル)魔法の鞄(マジック・バッグ)にしまうと、そこには赤い血溜まりが残った。

 それを見て、リベアは地面に座り込んだ。

 体力なんてほとんど残っていなかった。気力だけで立っていた。

 しかし、フェンリルを倒したという実感が遅れてやってきて、気が抜けてしまった。

 周りを見ると、互いに称え合い、喜んでいる。


「お疲れ様。あなたもよく頑張ったわ」

「嬢ちゃんの魔法、凄かったな!」


 ひとりの女性が声をかけてきて、その隣にいる男性も話しかけた。


「ありがとう、ございます……」

「さ、街に帰りましょう」


 彼女はそう言って微笑んで、手を差し出す。

 リベアはその手を借り立ち上がって、歩き出す。

 見上げると、空の端が瑠璃色へと変わりつつあった。

お読みいただきありがとうございます。

次回更新は8月12日(水)です。

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