↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/192

創駆破壊事件・真相——やわらぐ境界

 クラスメイトが一人、

 また一人と教室を出ていき――


 気づけば、残っているのは私たちだけだった。


「えっと……利玖を待たなきゃいけないんだよね? 私も、ここに残ろうかな」


 そう言いながら、

 胸をそっと押さえる。


 カナタが僅かに目を見開いた。


 驚きというより、

 戸惑いに近い反応。


 私を見たまま、

 チョーカーから静かな呼吸音が漏れる。


『……どうして? 莉愛は、創駆の件……関係ないのに』


 遠慮と、申し訳なさが滲んだ声。


 私は小さく首を振った。


「関係なくないよ。犯人、同じだったんだし……」


 一度だけ息を吸う。


「……最後まで、見届けたい」


 言葉にして初めて、

 胸の奥にある“決意”に気づいた。


 逃げずにいたい。


 ちゃんと、自分の目で。


 カナタは瞬きをひとつして――


 少しだけ、目元をゆるめた。


『……そっか。利玖も、きっと心配してるし……』


『一緒に待っててくれると、心強い』


「うん。一緒に待ってよう」




 笑い声が、柔らかく教室に溶けていく。


 窓の外では、西日がゆっくりと傾いていた。


 そのとき――


 廊下の奥から、足音が駆けてくる。


 顔を上げると、

 開いた扉の向こうに利玖が立っていた。


 息を切らし、額に汗を浮かべながら――


 それでも視線は、

 真っ直ぐカナタと拓斗へ。


「ハァ……今日は走ってばっかだな……」


「お疲れ様ですっ!」


「おぅ」


 玲央くんへ軽く手を上げて応える利玖は、

 いつも通りの笑顔だった。


「利玖が来たことだし、私は学のところへ行こうかしら」


 瑛梨香先輩が静かに立ち上がる。


 利玖は小さく息を整えながら頷いた。


「ああ……そうしてくれる?」


 瑛梨香先輩は立ち上がり、

 優ちゃんへ振り返る。


「それじゃあ、優。詩乃さんのこと、お願いね」


「はい、お姉様。必ず」


 胸元にそっと手を添えた優ちゃんが、

 凛とした声音でそう答える。


「それじゃあ、詩乃。私たちは帰りましょうか」


「うん、優ちゃんありがとっ。莉愛ちゃん、また寮でね!」


「うんっ、ばいばい」


 優ちゃんと詩乃ちゃんは、

 そのままふたりで教室を後にした。


 私は手を振って見送る。


「さて……まずカナタと拓斗から話を聞くけど――」


 そこから語られた内容に、私は息を呑んだ。


 ――創駆が壊されたのは、本番三日前。


 放課後、魔械(マギア)工学棟で見つかったのは――


 バラバラの機体。


 そこでカナタは先生へ相談するのではなくて、

 真耶と司に調べてもらうように

 お願いをしていたらしい。


「で、何で先生に報告しなかった?」


『……揉み消されるから』


 短い言葉。


 でも、その奥にある重さが空気を変える。


『“もう解決したから気にするな”って。……そういう形で終わるのが嫌だった』


 利玖が視線を落とし、黙り込む。


 私も、何も言えなかった。


「……ってことは」


 利玖がゆっくり顔を上げる。


「壊された後、どうしたんだ?」


『作り直した』


「いつ」


『土日で』


 ――沈黙。


 教室の空気が、一瞬止まった。


「……は?」


 利玖の目が見開かれる。


 玲央くんは言葉を失い、

 拓斗はこめかみを押さえてため息を吐いた。


「……またかよ、お前は」


 呆れた声。

 でも、その奥にあるのは――理解だった。


「まったく……」


 利玖が呟いた声はため息に似ていたのに、

 目だけが優しく笑っていた。




 気が付けば窓の外は、

 宵の空へと変わっていた。


 廊下も静まり返り、

 もう生徒の気配はない。


「……よし、今日はこのくらいにしておこう」


 利玖が深く息を吐いて言った。


「明日、また改めて話を聞くことになると思うけど……大丈夫か?」


 カナタと拓斗は頷いた。


 その様子を見届けた利玖は、

 軽く腕を上に伸ばしてから、

 一気に脱力した。


「はぁ……カナタが部活に来ないし連絡もないから、何かあったのかと思ったら、まさかこんな大事件とはな……」


『……部活?』


 カナタが首を傾げる。


 利玖は半ば呆れ顔で言葉を続けた。


「おいおい、今日は部活だったろ。体術の奴ら、心配してたぞ」


『……?』


 何のことかわからないような顔。


 その表情を見て、

 私ははっと気づいた。


「あっ、カナタっ。そういえば、石……まだ持ってるよね?」


『石……あぁ』


 カナタはポケットを探り、

 忘却魔法の施された人工魔法石を取り出した。


 手のひらの上で淡く光るそれを、

 利玖が覗き込む。


「これが、莉愛に使われたってやつか?」


 カナタが頷く。


「なるほど」


 利玖は義手を鳴らし、

 慎重に保護魔法をかけながら受け取った。


「はい、確保っと」


 その瞬間、

 カナタの瞳が一瞬だけ揺れ、

 目を瞬かせた。


『……あ、部活に連絡するの、忘れてた』


「おぉ、思い出してくれて何よりだ」


 利玖は苦笑して、何かに気づく。


「……ていうか、お前……保護魔法もなしで莉愛から受け取ったのか!?」


『うん。だって、魔法使ったら駄目なんでしょ?』


 その言葉に利玖は一瞬だけ目を細め、

 呆れ半分、優しさ半分の息を吐いた。


「基本的には駄目だけど、ちゃんと調べた上で仕方ない状況だと分かれば不問になるから。次からはちゃんと使えよ」


『へぇ……分かった』


 二人のやり取りを見て、

 私は胸の奥から熱いものが込み上げてきた。


 誰も責めない。


 誰も置いていかない。


 今日一日で、

 そんな温かさを何度も感じた気がした。


 私のために、

 躊躇いなく危険な石を受け取ったカナタ。


 音の違和感から真実を掴んだ拓斗。


 迷わず利玖を呼んでくれた玲央くん。


 そして、最後まで冷静に全体をまとめた利玖。


 みんながいてくれたから、

 私は今日を無事に終えられたんだと、

 改めて思う。


 ふと窓の外を見ると、

 空はもうすっかり夜の色を帯びていた。


「よし、じゃあ……今日はもう帰ろう。続きは明日な」


「拓斗は、学と帰れよ。同じ寮だろ?」


「はい、そうします」


 私たちは立ち上がる。


 教室を出る前に、私は振り返った。


 誰もいない教室。


 夕日の名残だけが、机に残っている。


「……お疲れさま」


 誰に向けたのかもわからないまま、呟いた。


 そして私は――


 カナタたちと一緒に、廊下へ出た。


 夜の静けさの中に、

 足音だけが、ゆっくりと響いていた。


お読みくださり、ありがとうございます。


今回は、

“誰も置いていかない”回でした。


支え合うこと。

隣にいてくれること。

それが少しずつ形になってきた回でもあります。


でも——

ここで見えたものは、

まだ始まりに過ぎません。


引き続き、見守っていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。