暴かれる証拠と、もうひとつの罪——選ばれる真実
司がそっと布を開く。
白い布の中央に横たわっていたのは――
無惨に折れ曲がった、
黒いボールペンだった。
真耶は目を細め、
折れたペンを見つめながら
静かに問いかける。
「……カナタ。このペンはカナタの――」
「お、俺のだよっ!!」
その言葉を遮るように男子が叫んだ。
声は裏返り、
必死に自分を守ろうとする
焦りが滲んでいる。
真耶の視線が、
ゆっくりと男子へ向けられた。
冷たくもなく、
怒っているわけでもない。
ただ、逃がさない目。
「折れたから捨てたんだよ! 何がおかしいってんだよ!?」
男子の声は荒く、
その手は僅かに震えていた。
「……そう。折れてしまったのなら、捨てるのも自然な判断だろうね」
真耶があっさりと言うと、
男子の口元はゆるむ。
「ところで、カナタ」
真耶の声が、ぴしゃりと空気を裂いた。
「カナタは、彼と交流を取っていたの?」
カナタは私の肩からそっと手を下ろす。
『……名前すら知らないよ』
静かすぎる答え。
嘘ではない。
ただ、興味がなかっただけの声音。
「同じクラスなのに?」
司が小首を傾げながら、
悪気のない声で尋ねる。
『うん』
カナタは揺れず、平然と答えた。
「さすがだね」
真耶のそれが褒めか皮肉か、
誰にもわからなかった。
私はそっと息を呑む。
「じゃあ――このペン」
真耶が、ゆっくり言葉を置く。
「彼のものだとしたら、一度も触ってないってことでいいね?」
『そうなるね』
一拍。
「なら簡単だ」
真耶が、僅かに口角を上げる。
「このペンに、カナタの魔力が付着しているか見ればいい」
その瞬間、男子の肩がびくっと跳ねた。
「ま、魔力の付着……? それってさっき言ってた……」
真耶は頷く。
「そう。漏出魔力。もし触ってたなら、痕跡は残るよ」
さらりと言い放つ真耶とは対照的に、
教室の空気は重く沈んでいく。
「で、でも……調べるって。学園で勝手に魔法は使えないよね?」
詩乃ちゃんが声を震わせながら言った。
男子が、口元をゆるめる。
「ほらな。無理なんだろ? ルールで魔法は禁止。つまり証拠なんて出せっこない」
強気な言葉。
でも――声が揺れている。
すると真耶は、
鼻で笑うように小さく息を吐いた。
「……いつ、うちが“自分たちで魔法を使う”なんて言った?」
男子の笑みが引きつる。
「あぁ、その通り」
玲央くんの声が、張り詰めた空気を裂く。
「俺たちができないなら、できる人を呼べばいい。例えば――」
玲央くんはゆっくりと
教室のドアに近づく。
廊下の奥から、足音が響く。
規則的に、近づいてくる。
「今回、被疑者のカナタのご友人とか――」
足音がさらに近づいた。
「今回の被害者である、莉愛のお兄さんとか――」
心臓が一拍、強く鳴る。
「天律学園、生徒会の副会長さんとか――」
玲央くんがドアに手をかけ、笑った。
「俺の大尊敬する、エス様とか、ね」
ガラッ――
勢いよくドアが開かれた。
その向こうに立っていたのは――
「利玖っ!」
カナタの友人であり。
私の兄であり。
この学園の生徒会副会長であり――
玲央くんのエス。
「よっ」
軽い声。
でも、その一言で空気が変わる。
その背後には、瑛梨香先輩と学先輩。
「さて、と――」
利玖が静かに口を開いた。
「とりあえず玲央。状況、説明してもらえる?」
「はいっ!」
玲央くんが簡潔に説明する。
利玖も学先輩も真剣に聞き、
瑛梨香先輩は詩乃ちゃんの傍に寄る。
「……それで、その証拠っていうペンはどこ?」
「ここで〜す」
白い布の上に置かれた折れたペンを、
司が丁寧に差し出す。
学先輩が覗き込み、
一度義足を鳴らした。
学先輩の瞳が藍色に光る。
その瞳はゆっくりとカナタの方へ向けられる。
「……どうだ、学?」
利玖が問いかける。
学先輩の瞳の光が収まると、
短く息を吸い、告げた。
「……ある。カナタの魔力反応だ」
教室が一瞬ざわめき、
すぐに静寂へと戻る。
生徒会の視線がある前では、
誰も軽々しく声を出せなかった。
犯人の男子は、
顔を引きつらせながら言葉を失う。
そんな中、
真耶がふっと息を吐いた。
「それと、そいつ。許可なしで魔法を使ってる可能性もあります」
「なんだって?」
利玖の声が低く鋭くなる。
男子はびくっと肩を震わせた。
(一体いつの間に……)
利玖は学先輩と目を合わせた。
そして二人は迷いなく
犯人の男子の前に並んだ。
最初の威勢はどこへやら。
二人を前にした男子は、
ただ震えだけが残る。
「……これより、生徒会規律に基づき、君を拘束する」
学先輩の宣告。
「理由は、迷惑行為および無許可魔法行使の疑いによるもの」
「……はい」
男子は、俯いたまま答えた。
利玖と学先輩は肩を支えながら、
教室の扉へと歩き出す。
これで――終わり、のはずだった。
拓斗が、そっと声を上げた。
「……あの。ひとつ、いいですか?」
「ん? どうした、拓斗」
利玖たち三人が立ち止まると、
拓斗は視線を男子へ向けた。
「お前……」
拓斗は少しの間じっと見た後、
訝しげに聞いた。
「左手の小指。……何着けてんだ?」
教室の空気が、一瞬だけ止まった。
その指には何もない。
「え、何も――」
私は思わず声に出してしまった。
すると――
「あっ、やっぱりそうだよね! あるはずなのにないから、変だなって思ってたの!」
司が声を上げた。
「利玖っ、左手の小指、見てっ!」
真耶が食い気味に叫ぶ。
学先輩が男子の左腕を後ろに持ち上げる。
利玖の義手が小さく二回音を鳴らすと――
ぼんやりと、
小指に“何か”が浮かび上がってきた。
「……指輪、か? にしては太いが……」
学先輩が眉をひそめる。
司がさらに顔を近づけた、
その瞬間――
「……あっ……あ———っっ!!!」
司が叫ぶ。
「真耶、これっ! カナタの“創駆”の、無くなってたパーツだよ!!」
(えっ、パーツ?)
頭が追いつかない。
すると、
真耶が勢いよく司の背に飛び乗った。
「うぉっとっと!」
司はいきなりなって来た真耶を、
おんぶするように支える。
「まじでっ!? そんなことあるっ!?」
真耶は小指についてる物を凝視する。
すると、静かに息を吐いた。
「……副会長さん。この件、器物損壊の疑いも含めて、正式に扱った方がいいと思います」
その静かな声は、
怒鳴り声よりも重く教室に落ちた。
(えっ、器物破損?)
読んでくださり、ありがとうございました。
無実の証明——そして確定した犯人。
……のはずが。
まだ終わっていません。
次話、“もう一つの罪”の正体です。




