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 体育館に着くと、四つのコートをぐるっと囲むようにして並んだ座席に、もうたくさんの同級生たちが座っていた。前の方からどんどん埋まっていって、広いはずの体育館なのに、どこか落ち着かない空気が漂っている。


 クラス毎にまとまってはいるけど、席順が自由だからか、友達同士で小さく笑い合う声も混じっていて、少しだけお祭りみたいな雰囲気だった。私たち五人も、なるべく前の方の座席に腰掛ける。


 体育館の真ん中に、銀色の支柱で組まれた即席のステージが置かれていた。


 その周りを取り囲むように、折り畳みの椅子がずらりと並んでいる。椅子の金具が光を反射していて、何だかちょっと緊張感がある。


 私たちが座る席は、床よりも少し高いところにあった。だから、真ん中の体育館を上から見下ろすみたいに全部見渡せる。座席の下には扉や通路があって、先生や先輩たちが出入りしている。


 その中には、生徒会役員の利玖の姿もあった。


(そう言えば、生徒会の説明もするって、さっき言ってたっけ)


「利玖先輩もいるねっ。生徒会の説明もあるの?」


 私の隣に座る拓斗のさらに隣にいる詩乃ちゃんが、体を前に少し倒して顔をひょっこりと見せながら私に尋ねた。


「うん、そうみたいっ」


 答えながら、私は自然と視線を利玖の方へ戻す。即席のステージに立つ利玖は、真剣な眼差しで生徒会役員たちに確認しながら指示を出している。姿勢はきびきびとしていて、周りの役員たちもそれに応えるように頷いたり、少し緊張した顔で資料を確認したりしていた。


 その中心に立つ利玖の表情は落ち着いていて、どこか余裕すら感じられる。口元に微かな笑みを浮かべながらも、視線は鋭く仲間を見渡し、必要な言葉を的確に投げかけているみたい。


(……まさに、生徒会副会長だ)


 兄として知っている、いつもの優しい利玖とは少し違う。みんなを引っ張る姿は頼もしくて、胸の奥にじんわり高揚感が広がっていく。私はその感覚を隠すように、ただ黙って利玖たちの様子を眺め続けた。

 準備が進んできたのか、説明してくれる先輩たちが次々とステージの周りの椅子に座り始めた。


 委員会の先輩たちは、まだ手元の資料を開いて、隣の人と小声で確認し合っている。ピリッとした空気があって、何だか「ちゃんとしてる」って感じ。


 一方で部活動の方は、もうすっかりリラックスしていて、笑いながら話している人も多い。そっちはそっちで楽しそうで、体育館の中で二つの空気がはっきり分かれているのが面白かった。


 すると進行役の先輩がステージに上がって、魔械(マギア)義肢を鳴らすと話し出した。


 体育館に静けさが落ちていった。ざわざわしていた同級生たちの声も、スッと消えていく。


「新入生の皆さん。入学、おめでとうございます」


 落ち着いた声が体育館中に響く。背筋が自然と伸びて、私も思わず姿勢を正した。


「ここ、天空律環学園での生活が、皆さんにとって実りある時間になるよう願っています。学びや挑戦はもちろん、友達と過ごす時間も、きっと大切な宝物になるはずです」


 ふと詩乃ちゃんの方に視線を向けると、入学式の時のように目を輝かせて先輩を見ていた。


「今日は、その第一歩として、委員会や部活動について説明をします。これからの学園生活をどう彩るか、そのヒントを見つけてもらえたら嬉しいです」


 ステージ上の先輩の笑顔に、体育館の空気が少し和らいだ気がした。


 すると、委員会を説明する先輩たちがステージの真ん中に上がってきた。真っ直ぐな背筋に、どこか威圧感すら漂う逞しい男子の先輩。


 照明に照らされたその姿は、正義感そのものを体現しているようだった。ざわめいていた会場が、自然と静まり返る。生徒たちの視線が一斉に先輩へと注がれ、その眼差しの強さに、言葉を発する前から会場の空気が引き締まっていく。


「初めまして、私たち風紀委員会は、天律学園の秩序と規律を守るために活動する委員会です。生徒たちが安心して学園生活を送れるようにするのが主な役割です。ただ「取り締まる」だけではなく、困っている生徒に声をかけたり、トラブルを未然に防ぐことも大切な仕事です。生徒同士の対立を仲裁したり、問題が大きくならないように助言をするなど、学園の平和を守るために日々努力しています」


 私たちは資料に目を通しながら、風紀委員会の説明を背筋を伸ばし、静かに聞く。


「赤の賢者が象徴する『正義と防衛』を継ぐ存在として、風紀委員会は学園の“心臓”であり、生徒たちの安全と安心を守り続けるのです」


 その後も詳しく説明をした後、風紀委員の先輩はステージの端へ移動し、次にステージの中央に来たのは、まさかの弥生寮の翔寮長だった。


「我々、技術管理委員会は、学園における魔械(マギア)義肢や魔械(マギア)機器、研究設備などの点検・管理を行う委員会です。義肢や機器の不具合は生活や学園活動に直結します。委員たちは日々の検査や調整を行い、生徒たちが安心して勉学や訓練に励めるよう支えています。また、新しい発明や研究の発表の場を設けたり、後輩への基礎的な技術指導を行うのも役割のひとつです。故障の修理から改良の提案まで、知恵と工夫で学園を支える姿は「創造の火」を象徴しています」


 まだ翔寮長のことをちゃんと知らないけど、何となく「翔寮長らしいな」と感じた。


「橙の賢者が体現する『進化と創意』の精神を受け継ぎ、技術管理委員会は学園の発展を陰から支える存在なのです」


 そしてまた、説明が終わると翔寮長はステージの端に行く。次にステージ中央へと歩み出たのは、眼鏡をかけた後ろに三つ編みを結った女子の先輩だった。


 黒縁のレンズの奥から覗く瞳は静かで落ち着いていて、その存在感だけで場の空気が少し引き締まる。


「私たち図書委員会は、天律学園の膨大な蔵書を管理し、生徒たちが安心して学問や研究に打ち込めるよう支える委員会です。書籍の貸し出しや返却の管理だけでなく、新しい本の選定、蔵書の修復、学園の知識体系を整理する役割も担っています。また、ただの図書管理に留まらず、知識を広める活動にも力を入れています。定期的な読書会や研究発表会を開き、生徒同士が学び合う場を作り、学園の知の中心として機能します」


 本の管理だけだと思っていたら、何かのイベントなんかも開くらしくて、私にできるのか少し不安になる。


「黄の賢者が象徴する『知識と叡智』を継ぐ存在として、図書委員会は学園の“頭脳”であり、求める者に智慧の灯を差し出すのです」


 そして次は、柔らかな笑みを浮かべながら、ひとりの男子の先輩が静かにステージへと歩み出てきた。


 その仕草はどこか穏やかで、場の緊張を和らげるような空気を纏っている。視線が自然と彼に集まり、ざわめきがすっと静まっていった。


「私たち保健委員会は、生徒たちの健康を守り、学園生活を安心して送れるよう支える委員会です。授業や訓練中のケガの応急処置、体調不良者の対応、定期的な健康診断の補助などを行います。また、学園には心に不安を抱える生徒も少なくありません。保健委員たちは、身体だけでなく心のケアにも寄り添い、相談役としても頼りにされる存在です。魔法薬の調合や癒しの術の実践を学ぶ場としても人気があり、医療や癒術を志す生徒たちにとっては貴重な経験の場となっています。」


(リョク様と連携しているのに、心のケアも担当するのか……)


 私は何となく、隣のカナタをチラッと見た。鉄のマスクをしたその表情からは、何を考えているか分からなかったけど、優しいカナタならきっと大丈夫だと思った。


「緑の賢者が示す『生命と調和』の精神を受け継ぎ、保健委員会は学園の命と心を支える、優しい守り手なのです」


 次にステージ中央へ駆けて来たのは、一際明るい笑顔を浮かべた女子の先輩だった。


 足音も弾むようで、先輩の動きひとつひとつが場の空気をパッと華やがせる。観客席に自然と笑みが広がり、その元気な雰囲気に胸が温かくなる。


「えー、私たち交流委員会は、学園の人と人との絆を深める役割を担う委員会ですっ。学年やクラスの垣根を越えた親睦会の運営、学園祭や季節毎の行事の企画や調整などを行いますっ。私たちは、仲間同士の絆を結ぶ『橋渡し』として頼られる存在であり、行事を通じて生徒の新たな一面を引き出すこともあります。……時に恋のきっかけや友情の始まりも、この委員会の活動から生まれたりしますよっ!」


 先輩の明るい説明に、「えっ、すごーい!」「まじで〜!」とざわざわし出す。


「青の賢者が示す『感情と美しさ』を受け継ぎ、交流委員会は天律学園の活気を彩る原動力となっていますっ」



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