見てるだけは嫌だ(拓斗視点)——操導練習
「……はいっ、ここ、座ってっ」
操導者の練習が終わった後、
俺と莉愛は揃ってバテてた。
莉愛は休んでいるうちに
だいぶ回復したみたいだが、
俺はまだ頭がズキズキして、
足元も少し怪しい。
そんな俺を見て、
詩乃が眉を寄せた。
――その顔を見た瞬間、
変に張ってた意地が、すっと引いた。
素直に椅子へ腰を下ろす。
座った途端、
身体の力が一気に抜けた。
「……ありがと」
「どういたしましてっ」
いつも通りの、
遠慮のない笑顔。
それだけで、
少しだけ呼吸が楽になる。
「あれ、カナタくんが作ってるんだよねっ! すごーいっ」
詩乃の視線が、
制作途中の魔械創駆へ向く。
つられて俺も見る。
まだ骨組みみたいな塊。
未完成で歪。
だけど――
ただの鉄の塊には見えなかった。
これは、
俺たちが走らせるものだ。
そう思っただけで、
胸の奥が少しざわつく。
「……俺はほとんど触ってねぇから、よく分かんねぇけど」
気づけば、
そんな言葉が出ていた。
詩乃はすぐに首を振る。
「乗る人が作った方が、魔械の構成とか操作とか、理解するの早いからいいんだよっ!」
当たり前みたいに言う。
軽いのに、
ちゃんと芯がある言葉だった。
胸の引っかかりが、
少しだけほどける。
「……詩乃のやつも、こんな感じなのか?」
「ううんっ、私はもっと小さいのにしたんだぁ! あのねっ――」
そこから先は、
正直よく分からなかった。
専門用語ばっかりで、
頭に入ってこない。
でも――
目を輝かせて話す詩乃を見てると、
退屈じゃなかった。
むしろ、
もう少し聞いててもいいと思った。
しばらくして、
詩乃がはっと口元を押さえる。
「ごっ、ごめんねっ! 話し込んじゃったっ!」
慌て方が、
妙に素直で。
思わず小さく吹き出す。
「いや、大丈夫。……好きなんだな、魔械」
そう言うと、
詩乃は一瞬きょとんとしてから、
ふわっと笑った。
「うんっ!」
迷いのない声。
眩しくて、
なんとなく目を逸らす。
「えへへ。じゃあ、莉愛ちゃんのところ戻るねっ」
小走りで去っていく背中を、
なんとなく目で追った。
揺れる袂が
見えなくなるまで。
少しして、
カナタが戻ってきた。
あの無機質なマスク。
なのに、目元だけ妙に柔らかい。
『……大丈夫?』
声が落ちてくる。
莉愛を気にするのは分かる。
でも、
俺にまで来るとは思ってなかった。
さっきの自分の顔を思い出して、
少しだけ気まずい。
「……おう」
短く返す。
カナタはそれ以上何も言わず、
そのまま作業に戻った。
その背中を眺めているうちに、
組み上がりかけた形に見覚えがあることに気づく。
「……これ、莉愛の兄貴のやつに似てねぇか?」
『うん。そう作ったから』
「……は?」
一瞬、
言葉が止まる。
「設計図とか……あんのか?」
『ないよ。見ただけ』
さらっと言う。
……こいつは昔からそうだ。
普通なら無理だろってことを、
何でもない顔でやる。
俺らが届かない場所に、
当たり前みたいに立ってる。
……それが、
少しだけ気に食わない。
でも――
少し、羨ましい。
『去年か一昨年に、試験中に事故があってさ。タイヤが小さくなったから、ちょっと玩具っぽいよね』
「あー……まぁ、そんな感じだな」
何気ない会話のはずなのに、
妙に引っかかる。
さっきから、
別のところでもずっと引っかかってる。
――晶。
俺も莉愛も立ってるのがやっとだったのに、
あいつだけ平然としてた。
息も乱れてなかった。
あれが、
どうにも気になる。
「……なぁ」
『ん?』
「晶って、お前とどこで知り合った?」
『寮で同室』
(如月寮か……)
妙に納得できた。
「……あいつって、結構いいとこの家なのか?」
聞きにくかったが、
聞いた。
あの余裕の理由が、
気になってた。
カナタは一度瞬きをして、
首を傾げる。
『さぁ? そういう話はしないから分からない』
「……そっか」
まぁ、
仮にそうでも、
あいつは言わなさそうだ。
『でも、育ちは良さそうだよね。……なんで?』
「あー……誕生日に、うちの親が演奏しに行ったらしくてさ」
うちの親は、
それなりに名のある音楽家だ。
個人の誕生日なんかで演奏することは、
まずない。
それなのに――晶の時は、行った。
それだけで、
普通じゃないのは分かる。
『……確かに、それはすごいね』
あっさり同意されて、
少しだけ気が抜けた。
自分だけが引っかかってるわけじゃない。
それだけで、
少し楽になる。
カナタはまた、
作業に戻る。
金属の擦れる音が、
静かに響く。
それを聞いているうちに、
身体のだるさも少し引いてきた。
(……立てるな)
ゆっくり立ち上がって、
カナタの隣にしゃがみ込む。
未完成のパーツに、
そっと手を添えた。
支えるように力を込めると、
カナタの手が一瞬止まる。
『……休んでていいのに』
「これくらいはできる。安心しろ、口出しはしねぇ」
軽く言ったつもりだったが、
胸の奥は落ち着かない。
役に立つかなんて分からない。
でも――
見てるだけは、なんか嫌だった。
さっき詩乃が言ってた。
“乗る人が作った方が、理解できる”
だったら、
邪魔にならない範囲でいい。
少しでも、
触れておきたい。
カナタは少しだけ俺を見て、
何も言わずに作業へ戻った。
俺の手を、
どかすこともなく。
それだけで――
胸の奥に、
小さな熱が灯った。
読んでいただきありがとうございます。
誰かの隣にいるとき、
ただ見ているだけではいられない瞬間があります。
その気持ちが、
今回の中に少しでも残っていたら嬉しいです。
引き続き、よろしくお願いします。




