↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/192

選択の午後、揺れる君——交友

 教室に戻ると、

 自然といつもの場所に集まった。


 椅子を引く音。

 机に触れる音。


 さっきまでの説明会の熱が、

 まだ少しだけ残っている。


「詩乃ちゃんは、どこが気になってるの?」


「んーっとねぇ……」


 詩乃ちゃんは口元に指を当てて、

 視線をくるくると泳がせた。


「“技術管理委員会”と〜、“調理研究部”か“魔械(マギア)工房部”!」


「あら、詩乃は魔械(マギア)に興味があるのね」


 優ちゃんがくすっと笑う。


 私はふと、

 寮での詩乃ちゃんの顔を思い出した。


 きらきらしていて、

 少しだけ真剣だった横顔。


(……そっか)


 頬がゆるむ。


「詩乃ちゃん、絶対合ってるよ」


 詩乃ちゃんはぱっと笑った。


「ほんとっ?」


「うんっ」


 小さく頷く。


「どっちも魔械(マギア)に関わるなら、詩乃は理工系にいくのかしら?」


「……算数苦手なやつがいけるのかよ」


 拓斗がぼそっと言う。


 詩乃ちゃんは、えへへと笑って頬を掻いた。


「そうなんだよねぇ。さすがに両方はやりすぎかなぁって思ってるっ」


(じゃあ、部活は調理研究部かな)


「……調理研究部、私も気になってたんだよね」


 その瞬間、

 詩乃ちゃんの目がぱっと輝いた。


「えーっ! じゃあ一緒に入ろうよっ!」


 ぐっと腕を掴まれる。


 その勢いに、

 思わず笑ってしまう。


 でも――


「んー……環境整備委員会も、気になってるんだぁ」


 優ちゃんがくすっと笑った。


「ふふっ……人気あるものね、あそこ」


「えっ、そうなの?」


「まぁ、ね」


 それ以上は教えてくれない。


(……?)


 少しだけ引っかかる。


「そこってあれだろ。“お片づけ委員会”」


 拓斗が頬杖をついたまま言った。


「確かにそうかもね。でも、片づけってスッキリするから、私好きだよっ」


「……そうか、変わってんな」


 呆れたように言いながら、

 拓斗の口元が少しだけゆるむ。


「莉愛ちゃんっ、莉愛ちゃんっ! 一緒に入ろうよぉ! 一緒に料理しよっ!」


 詩乃ちゃんが身を乗り出してくる。


 抱きつく勢いに、

 思わず肩が揺れた。


「う〜ん……」


 迷う。


 詩乃ちゃんと一緒なら、

 きっと楽しい。


 でも――


(委員会と両立なんてできるのかな……)


 そのとき、

 優ちゃんが柔らかく言った。


「そんなに難しく考えなくていいんじゃない?」


「やってみて、難しかったら辞めてもいいのよ」


 私は目を伏せて、首を傾げる。


「……いいのかなぁ」


「いいのよ」


 はっきりと言い切られて、

 胸の中の迷いが少しほどけた。


「……じゃあ……両方、やってみようかなっ」


「わぁーいっ!!」


 詩乃ちゃんが勢いよく抱きついてくる。


 思わず笑った、そのときだった。


 ――横目に、カナタが映る。


 目を見開いていた。


 私を見ている。


 ただ驚いた、という顔じゃない。


 何か、違和感を感じた。


 一瞬だけ、

 胸の奥がひやりとする。


 カナタの視線が、

 すっと視線が逸らされた。


(……え)


 胸の奥に、

 小さな棘みたいなものが残る。


(今の、なに?)


 聞きたかったのに、

 聞けなかった。


 そのざわつきを残したまま――


 教室の扉が開いた。


「皆さん、席に着いてください。委員会を決めますよ」


 日向先生の声に、

 教室の空気がすっと引き締まる。


 慌てて席へ戻った。



◇ ◇ ◇



「委員会には必ず所属してください」


「生徒会に選ばれた場合は、委員会は外れます」


 淡々とした説明が続いていく。


(生徒会が最優先なんだ)


「では順番に、前へ来てください」


 教卓に置かれた魔械板(マギアパッド)。


 出席番号順に、前へ呼ばれていく。


 キン、と義肢の音。


 静かな緊張が、教室に広がっていった。


 やがて――


「……莉愛さん」


「っ、はい」


 少しだけ声が上ずる。


「義肢を鳴らしてから、選択してください」


 左手を握る。


 キン、と音が響いた。


 迷いはなかった。


 “環境整備委員会”。


 軽い音とともに、

 選択が確定する。


「はい、ありがとうございます」


 席へ戻る途中、

 玲央くんとすれ違った。


 迷っている顔。


 席に戻ってからも、

 ちらりと様子を窺う。


 案の定、

 画面の前で立ち止まったまま動かない。


(……迷ってるなぁ)


 しばらくして、

 ようやく選び終えたらしい。


 玲央くんは大きく息を吐いて、

 席へ戻ってきた。


「……随分迷ってたね」


「いやー、めっちゃ誘われちゃってさ」


 苦笑い。


「モテモテだねっ」


「困るわ〜」


 少し嬉しそうに笑う。


 全員の選択が終わると、

 先生が画面を確認した。


「……大きな偏りはありませんね。このままでいきます」


 小さく頷く。


 教室に、

 ほっとした空気が広がった。


「では、部活動の入部届を配ります。明日の朝、提出してください」


 キーン、コーン、カーン、コーン――


 チャイムが鳴り響く。


 学園初日の授業が終わった。


 張りつめていた糸が、

 ふっとゆるむ。


 日向先生が教室を出ていった瞬間、

 教室中にざわめきが広がった。


「……それで玲央くん、どの委員会にしたの?」


 椅子にぐったりともたれたまま、

 玲央くんが顔を上げる。


「あ〜、一番付き合い長いやつと同じ風紀にした。……なんかカッコいいじゃん?」


 にっと笑う。


「あとは、芽依ちゃんが何の委員会に入ったか、だね」


 次の瞬間――


「しまったっ! まったく考えてなかったっ!」


 ガバッと頭を抱え込んだ。


 思わず、くすっと笑う。


「ふふっ……寮に帰ったら聞いとくね」


「……お願いします」


 軽く笑ってから、

 私はロッカーへ向かった。


(少し予習しとこうかな)


 取っ手に手をかけ、

 義手を鳴らす。


 微かな音とともに、

 扉が開いた。


 数学の教科書を取り出した、

 そのとき――


『莉愛』


 機械混じりの声。


 振り向くと、

 カナタが立っていた。


「ん? どうしたの?」


『……部活、やるの?』


 低い声。


 目が、少し沈んでいる。


「えっ、うん。やってみようかなって思ってるよ」


『そっ……か……』


 短い返事。

 どこか引っかかる。


「……どうしたの? 心配?」


『……まぁ、そんな感じ』


 歯切れの悪い返事。


 それが少しだけ、

 嬉しくて。


「ありがとう。もし難しそうだったら、ちゃんと辞めるからっ」


『……うん』


 でも――


 その声は、

 あまり納得しているようには聞こえなかった。


「……カナタ」


 顔を上げる。


「大丈夫だよ」


 微笑んで言うと、

 カナタの目が僅かに見開かれた。


 それから、

 ゆっくりと目元がゆるむ。


『……うん』


 短い返事。


 それだけなのに――


 どうしてか、

 胸の奥に小さな違和感だけが残った。


(……本当に、それだけ?)


 聞けないまま、

 私は教科書を抱え直した。


読んでいただきありがとうございます。


莉愛にとっては前向きな一歩でも、

カナタにとっては少し違う意味を持つ選択。


同じ出来事でも、

感じ方が違うときがあります。


その“ズレ”が、少しずつ形になり始めました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。