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揺れる午後、惹かれる先——交友

 余韻を切り替えるように、

 今度は部活動の紹介が始まった。


 まず現れたのは、

 疾駆(しっく)競技部(きょうぎぶ)。


 ステージの端に並んだのは、

 タイヤのないバイクのような乗り物――


 “フロートライダー”。


 ひとりの先輩が軽やかに跨(また)がった、

 その瞬間。


 ふわっ、と機体が浮かび上がる。


「わっ……!」


 小さな歓声が、あちこちから漏れた。


 次の瞬間には、

 そのまま私たちの頭上を鋭く駆け抜けていく。


 風を切る音。


 尾を引くように残る、淡い光。


 一台、二台、三台――


 交差して、すれ違って、

 それなのに一度もぶつからない。


 軌跡が重なり合って、

 空に模様を描くみたいだった。


 ただの競技じゃない。


 ひとつの演舞みたいに、美しい。


(……速い)


 思わず息を呑む。


 でも――


 ただ速いだけじゃない。


(……かっこいい)


 そんな声が、

 周りからも小さく漏れている気がした。



◇ ◇ ◇



 続いて登場したのは、武装演習部。


 ステージの上には、

 道着を着た人たちが静かに立ち並んでいた。


 空気が、少しだけ張りつめる。


「あの人たち、守るもの着けてないけど……大丈夫なのかな?」


 思わず声が漏れる。


 そのとき、

 隣でキンッと小さな音が鳴った。


『……大丈夫だよ』


 カナタがステージを見たまま言う。


 その瞳は、緑色に輝いていた。


『触覚魔法で、体を部分的に保護してるみたい』


「そうなんだ……」


 少しだけ肩の力が抜けた。


 最初に始まったのは、剣術だった。


 木刀がぶつかる音が、

 体育館の空気を鋭く震わせる。


 無駄のない動き。


 流れるような足捌き。


 一歩踏み込むたび、

 空気まで張りつめていくみたいだった。


 ――速い。


 ――重い。


 見ているだけなのに、

 こっちまで息を詰めてしまう。


 その後も、

 槍術や棒術が次々に披露されていく。


 武器が変わるたび、

 空気まで違って見えた。


 そして最後は、体術。


 突きと蹴りが鋭く交差し、

 重い衝撃音が響いた。


 義腕の拳。


 義脚の蹴り。


 一瞬で攻防が入れ替わって、

 どちらが押しているのかも分からない。


(……怖い)


 そう思うのに、

 目が離せなかった。



◇ ◇ ◇



 その後も、次々と部活動の紹介が続く。


 運動部。


 ダンス部、演劇部、音楽部。


 調理研究部では甘い香りまで漂ってきて、

 体育館の空気がころころと表情を変えていく。


 詩乃ちゃんは、

 ずっときらきらした目で

 ステージを見つめていた。


 どの部活も、それぞれに色があって。


 見ているだけで、

 世界が少しずつ広がっていくみたいだった。



◇ ◇ ◇



 こうして、すべての部活動紹介が終わった。


 体育館には、

 まださっきまでの熱が残っている。


 拍手の余韻。


 ざわめき。


 興奮。


 胸の奥も、

 少しだけ熱いままだった。


(……すごかったな)


 どこに入ろうかなんて、

 まだ全然決まってないけど。


 でも――


 選べるものが、

 こんなにあるんだと思った。


 そのとき。


 キン、と小さな音が響く。


 進行役の先輩が、再び前に出た。


 ざわめきが、

 ゆっくりと静まっていく。


「では、ここからは――」


 空気が切り替わる。


「学園の“非公式文化”『エス』について説明します」


 その言葉を聞いた瞬間、


(やっぱり、その話か)


 私は小さく息をついた。


 昼休みに、

 優ちゃんから聞いたばかりの話。


 でも――


 こうしてみんなの前で語られると、

 少しだけ意味が違って聞こえる。


「『エス』は、学園での評価には一切響きません」


「申し出を断っても構いません」


 その一言に、

 体育館の空気が少しだけ揺れた。


 強制じゃない。


 だからこそ――


 そこにあるのは、

 打算じゃなくて、

 ただ誰かを慕う気持ちなんだと思った。


 ただ憧れて、

 ただ信じて、

 その背中を追いかける。


 それはきっと、

 すごく綺麗な関係だ。


 説明が終わると、

 会場から拍手が湧き上がった。


 さっきまでとは少し違う、

 どこか静かな熱を帯びた拍手。


(……なんだろう)


 胸の奥に、

 小さく残るものがあった。



◇ ◇ ◇



 説明会が終わり、

 私たちは教室へ戻るために廊下を歩いていた。


 柔らかな金色の陽差しが、

 床に長い影を落としている。


「委員会も部活動も、どっちもいいなぁ……!」


 詩乃ちゃんがぱちんと両手を叩く。


「どちらも入ったらいいじゃない。詩乃なら器用にやり遂げるんじゃないの?」


「私もそう思うっ」


 優ちゃんと私が声を揃えて背中を押すと、


「えへへ、そうかなぁ!」


 詩乃ちゃんは照れたように肩をすくめた。


 すると拓斗が、少し眉を寄せる。


「どっちもやってパンクすんなよ」


「が、頑張るよ……!」


 詩乃ちゃんは両手をぎゅっと握りしめる。


「いや、頑張るからパンクすんだよ。手ぇ抜けるとこは抜け」


 一瞬、詩乃ちゃんがぽかんとする。


 でもすぐに、ぱっと顔を輝かせた。


「わかったっ! 頑張って手ぇ抜くねっ!」


「いや、そうじゃなくて……」


 拓斗が頭を掻く。


 そのやり取りに、

 思わずふっと笑ってしまう。


(……優しいな)


 ぶっきらぼうなのに、

 ちゃんと見てる。


 私は、隣を歩くカナタを見た。


「カナタは、部活で気になるところあった?」


 カナタは一瞬だけ視線を落としてから、


『……実は、利玖に誘われてるんだよね』


「えっ、そうなのっ?」


 思わず声が弾んだ。


「……そう言えば、利玖ってどの部活だっけ?」


『武装演習部だよ。剣術を習ってるんだって』


「へぇ……」


 ふと、さっきの光景が脳裏をよぎる。


 木刀のぶつかる音。


 鋭い踏み込み。


 一瞬で入れ替わる攻防。


 そこに、

 カナタの姿を重ねてみる。


 細い体。


 静かな立ち姿。


 胸の奥が少しだけざわついた。


 似合う。


 でも――


 だからこそ、

 少しだけ怖い気もした。


「いつの間に誘われてたの?」


『入学式の日。「俺とも遊べ」って誘われた』


「ふふっ……遊べ、って」


 思わず笑ってしまう。


(利玖らしいなぁ)


 でも笑った後で、

 また少しだけ胸がざわつく。


「……無理したらダメだよ」


 小さく言うと、

 カナタがこちらを見た。


『うん。ありがとう』


 ほんの少しだけゆるんだ目元に、

 なぜか胸の奥がすっと落ち着く。


 それだけで、

 さっきのざわつきが少しだけやわらいだ。


 鏡の前に辿り着き、

 私たちは教室へと戻る。

読んでいただきありがとうございます。


惹かれるものが増えるほど、

選ぶのは難しくなる。


でも、その迷いもきっと大切な時間です。

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