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84 長生きしたいので決意をあらたにした

 午後いっぱい寝ていたら、まぁひとりで動ける程度には治り。夕食は、平民組の席に行けた。食欲はそんなにないけど、ほら、ウィブル先生のいわゆるところの寄り集まって支え合うってやつをさ! 平民同士でやりたいわけよ。貴族とか王族とか天才魔法使いとかには疲れてるのよ……ああ、開放感!

 ……と思っていたら、スタダンス留年生がやって来た。


「ご一緒しても?」


 と問われたら、断れないよねぇ……。相手はお貴族様だし! わたしは借りがあるし!


「今日はお世話になりました」

「いえ、なにほどのことでもありません。光栄だといってもいいでしょう、ルルベル嬢のお力になれるなど」


 どうも、スタダンス留年生はわたしのことを高く買ってる感じだよね……最初はあんなだったのになぁ。振り幅が激しくない? 極端なタイプなんだろうな。

 会話をふるべきだろうかと悩んでいると、リートが口を開いた。


「殿下をお見かけしないのですが、なにかご存じですか?」


 あ、それならわたしが知ってるのに。ジェレンス先生のところに押しかけて、返り討ちにされそうなところまでは把握してるぞ。

 とはいえ、リートが話しかけているのはスタダンス留年生だし、今のわたしは話に割り込む元気ではないしで、おとなしくスープを啜っていると。


「はい。魔力を使い切って倒れたと聞きました」


 スタダンス留年生は、わたしよりも新しい情報を握っていた!

 ていうか、なんですと? あの魔力量が多過ぎて困るといわれていたノーコン王子が、魔力を使い切ったですと!?


「え」

「それはすごいですね」


 控えめな「え」はシスコの発言である。もう一方は、いわなくてもわかるだろうがリートだ。おどろいた顔すらしない。可愛くない。


「ええ。はじめてのご経験らしく……ひどく苦しんでおられるようです」

「魔力量が多いほど、魔力枯渇の症状はきついと聞きますからね」


 ……そうだな、リート。つい最近、その件でウィブル先生に叱られてたな!

 いやでもそうか。そうだよなぁ。王子の魔力量を考えると、ちょっと洒落にならない状況なのではないかと思われる……。ジェレンス先生も、ああ見えていろいろ考えてる教師だから、そこまで承知の上で使い切らせたんだろうけど。鬼だな。マジで鬼。


「シュガの実をお持ちした方がいいでしょうか?」


 これはシスコ。……ああ! シスコってほんと天使のようだね!


「いえ、王宮に戻られたそうですから」


 リートがかすかに笑ったような気がした。これはアレだろ、逃げて帰ったのか、ダセェ、みたいな顔だろ……。一瞬だったが、わたしは見逃さなかったぞ!

 さすがに王子が気の毒なので、わたしも話題に入ることにした。


「ローデンス様は、あの魔力量でいらっしゃいますし……魔力を使い切ること自体が、大変なことでしょうね」

「ええ。殿下の場合、魔力枯渇を狙う理由がありません。これ以上、魔力が増えてもむしろ……困る、というのが王宮の皆様のご意向だったようです」


 なるほど、といっちゃっていいのかどうか。ノーコン王子、これ以上出力値をデカくされてもね……そりゃ困るっていうのが本音だろうなぁ、周りとしては。


「それでは制御もうまくなりようがないだろうな」


 あっ……! リートが無礼千万発言を!

 スタダンス留年生は、くいっとメガネを押し上げて問い返した。


「なぜでしょう?」

「あなたならご存じだと思いますが。魔力が多いと、誰しも当初は制御がうまくいかないものだと聞いたことがあります」


 魔力量が少ない俺には無縁の話ですが、とリートは自分の事情を挟んだ。さらっと口にしてるけど、複雑な心境かもしれないな、とは思うよね。


「制御できないあいだは、なにをやるにも必要の二倍、三倍の魔力を消費します。結果、どんなに豊富な魔力を持っていても、必然的に使い切るものです。ですから、そうなったことがないというのは――」


 皆までいわず、リートは言葉を切った。

 まぁ、全員が理解したよね。魔力を使い切ったことがないっていうのは、イコール、本気で制御を練習してないってことだ、と。


「殿下は……苦しんでおられました」


 静かに告げたのは、もちろんスタダンス留年生である。この面子めんつで唯一の貴族であり、王族とのかかわりも深い人物だ。そりゃ、裏事情みたいなものも多少は知ってるのだろう。


「苦しむ?」


 だが、リートは容赦しない。そういう性質だからな。聞く人が聞けば――つまり、こいつに慣れてきてしまったシスコやわたしが聞けば、今のは大いに皮肉っぽい口調であるとわかる。

 スタダンス留年生には通じないと思う……通じないといいな!


「ええ。あれだけの魔力です。へたに使えば、周りの者に命の危険が及ぶ可能性も大きい。ゆえに、殿下は控えておられたのです。魔法を使うことを」

「控えたままでは、上達もしないでしょう」


 リートは爽やかクラスメイト系の笑顔を浮かべているが、内心ではむっちゃ王子をディスっていそうだ。

 ……まぁ、リートの身になって考えれば理解できなくもない。リートが欲しいに違いない潤沢な魔力に恵まれているというのに、鍛えもせず、ただ「皆の身の安全をおもんぱかって――」って名目で放置してるんだからな。嫌いに決まってるじゃん。

 スタダンス留年生はごまかされてくれるだろうか……笑顔のおかげで雰囲気だけは友好的だから、なんとかなれ!


「そうですね。王宮では、どうしても……殿下に厳しくする指導者は、おりませんので。でも、殿下もそこを理解されたのでしょう。みずからジェレンス先生のもとへ出向かれるとは」

「わたしがいたからですけどね」


 ……あっ。思わず口から出てしまった!

 スタダンス留年生はしかし、それも気にしなかった。このひと、大物なのでは? 変な意味で。


「ええ。ルルベル嬢がいてくださるからこそ、良き影響を受けられたのでしょう」


 そういう意味じゃない! と思ったが、今度は口から出さないようにした。

 だけどリートは我慢しないよね。


「良き影響ね……。その影響が、ほんものになればいいですが」

「ほんもの、とは?」

「一時の思いつきではなく、継続しなければ意味がない。今日、魔力を使い切ったのは事実でしょうが、それで早速、王宮に戻ってしまわれるようでは。魔法学園の生徒としての自覚が不足しておいでなのではないかと考えざるを得ません」

「リートは厳しいね」


 あっ。また思わず感想が口から……。まぁ、これは無難な感想だから大丈夫か?

 リートは呆れたなという顔をわたしに向けた。


「厳しくなければどうするんだ。あれだけの魔力、ただ無駄にするなんて余裕、これからの俺たちにあると思うか?」

「これからの……?」

「長生きしたいだろ、誰だって」


 ……ああ、対魔王戦の戦力としてカウントしたいって意味か!

 ほかのふたりには通じなかったようだが、わたしには通じた。ピンポイントで。


「そうね……わたしからも、ローデンス様にお話ししてみようかな」

「えっ!」


 さっきの控えめな「え」とはずいぶん音量の違う「えっ!」がシスコから出て来た。そりゃそうだろう。わたしが王子を避けようとしてるのは知ってるはずだし。


 でもさ、わたしはひらめいたわけ。

 使えるものは、なんでも使おう!

 今までは、王子を味方につけるメリットって「物理最強らしいナヴァトに国の宝である初代国王の武装つけて貸し出してもらう」って方向性でしか考えてなかったけど、それに限る必要なくない?

 王子の価値は本人にもあるんだ。

 制御さえできれば、あの魔力量……いや、制御できなくてもすでにマップ兵器化してるじゃん。スタダンス留年生と並んで、殲滅戦向きじゃん。


 ラブはいらぬ。イケメンとの恋愛を餌にした奴隷化計画など、もっといらぬ。

 不肖ルルベル、転生先はうっかり顔で選んだが! もはやそのようなものには惑わされぬ!

 今後、イケメンの皆さんには、その背後の誰か知らん人々を含め、イケメン・アピールより殲滅力がある魔法使いアピールをすべきだと、わかってもらおう。

 聖属性魔法使いという看板を欲しがるなら、相手もわたしが欲するものを供出してくれないとね? 魔法使いとか戦士とか国宝とかさ。我が国の王室に限らない。仲良しごっこをしたいなら、先に、出すもん出してもらおうじゃないの。


「ルルベル嬢の励ましを受ければ、殿下もやる気を出されることでしょう、きっと」


 スタダンス留年生は感慨深げにうなずいているが、たぶんなんか違う。でもそれでいい。

 利用されるのを避けてるだけじゃ駄目なんだよ。もっと積極的に行こう。筋肉代替部隊を増やして増やして増やしまくるぞ!


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