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83 最大の間違いは、ひとりで抱え込むこと

「でも、今は……」

「使えています。そういえば……あの時期があったからかもしれません、制御の精度が上がったのは」

「えっ? どういうことですか」


 スタダンス留年生の説明によると、寝ると魔力を垂れ流してしまう性質のおかげで魔力量がどんどん育ってしまう過程で、一切、魔法が使えなくなった時期があったそうだ。

 測定してもらうと魔力はあるのだが、まったく感じ取れなくなってしまったのたという。

 それでも魔法の修行をやめなかったのは、たぶん貴族だから――ジェレンス先生がいうように、平民は魔力が発現する者が少なくて魔法への意識が低いけど、貴族は魔力が発現して当然、それが有用か否かで今後の人生が決まってしまうのである。


「極小の魔力の感覚がまず、戻って来たのです。力はあっても感じ取れなかったものが、すぐそこにあった。ほんの一部に過ぎないでしょう。でも、届いたのです、意識が。それを、だいじに……蝋燭の火を消さずに燭台を動かすような意識というか? 申しわけない、うまく説明はできないが、とにかく、細心の注意をはらって制御したものです。小さな魔力を失わないように」

「なるほど……」


 つまり、ジェレンス先生のすぐ手前までぶわっと魔力を押し出しちゃう、みたいな雑なことやってても駄目なんだな……いやもうわかってるけど! わかりきってるんだけど、そんなの!


「ですが、二度と魔法が戻って来ない者もいるのです。危険なのです、ほんとうに」


 気をつけてくださいね、とスタダンス留年生が話を結んだところで、我々は保健室に着いた。

 中にはウィブル先生がいて、あら、と眉を上げた。


「どうしたのスタダンス……って、ルルベル? あなた、また魔力を使い切ったの?」

「いえ、一歩手前……だと思うんですけど」

「一万歩くらい手前でやめておかないと! スタダンス、食堂に行ってシュガの果汁もらって来て」

「心得ました」

「え、でも、そんなご迷惑をおかけするわけには」

「迷惑をかけたくないなら、まず、魔力の残量に気をつけるの! 今日はもう手遅れよ。迷惑かけなさい」


 行け、という風にウィブル先生が顎を動かし、スタダンス留年生は魔法の力だけでわたしをベッドに運んだ――本人はもう保健室の外である。器用だな! ていうか、マジで制御うまいよな、これ!

 ベッドに横たわると、なんかもう……後悔しかない。そういえば、ウィブル先生にもいわれてたよね……魔力を使い切るのは危険だって。さっきのスタダンス留年生の話も、そういうことでしょ。

 わたし、ぜんぜん学べてなくない? 教わった通りにできてない。


「頻繁に、すみません」

「気にしないで。アタシはこれが仕事なんだし」

「でも……自己管理ができてないせいです」


 恥ずかしい。たぶん、こんなギリギリになっちゃったのって、ジェレンス先生相手に意地を張ってしまったせいである。馬鹿としか評しようがない。

 ため息が、上から降ってきた。


「ねぇ、ちゃんと甘えてちょうだい、ルルベルちゃん」

「ちゃんと……ですか?」

「アタシたちが、こうやって一箇所に集まってるのって、なんのためだと思う?」


 話の流れからすると、甘えるため……? いやでもそれは、と躊躇するわたしの髪を、ウィブル先生はやさしく撫でてくれた。

 ……これは甘やかされてるな! 間違いない。


「助け合うためよ。見捨て合うためじゃない。誰かが間違ったら、ほかの誰かが支えるため。足を引っ張り合うためじゃない。自分の責任? いったでしょ、そうやって背追い込むのは駄目なんだって」

「ウィブル先生……」

「できないことはできないと認める。失敗は失敗。個人が万能なわけないんだから、至らないことがあるのなんて当然じゃない。それをなんとかするために、アタシたちは仲間をつくるの。集まって暮らすの。人づきあいが苦手な魔法使いでさえ、多少はつながりを持つものよ。アタシたちの間違いは、ときに、世界を揺るがすことさえあるから」


 ……いい話だなと思って聞いてたけど、だんだん物騒になってきたな!

 でもまぁ、それは事実なんだと思う。力ある魔法使いが派手に間違ったら、取り返しがつかないことになりかねない、ってのは確実にそうだよね。


「アタシの勘では、ルルベルちゃんは何回も間違うわよ」

「……先生」

「そんな情けない顔しないの。間違うのなんて、当たり前なのよ。あなたはまだ学生なの。間違ってもなんとかするために教師がいるんだし、そのために学園があるんだから、安心して間違いなさい」


 わたしが視線を合わせると、ウィブル先生は微笑んでくれた。やっぱり女神様みが強い……! 拝んじゃいそう。

 でも、その笑顔がすっと消える。


「ただね、最大の間違いがあるとしたら、それは、誰にもたよらないこと。ひとりで黙って抱え込むことよ」


 最大の間違い……。

 その話をしたときのウィブル先生の表情を見れば、間違ってしまった生徒がいたんだろうなぁ、と思う。とり返しのつかないことをしてしまった生徒が、過去にいたんだろう。

 破滅の原因が、相談してくれたら解決できたことだったりしたら……ぞっとする。教師の悪夢だな!


「気をつけます」

「そうしてちょうだい。ルルベルちゃんは、まだ入学して間もないんだし。魔法を使いはじめたのも、魔力量を意識しはじめたのだって最近のことなんだから、うまくできなくて当然よ。ある程度は、失敗も勉強だと見込んでね? 今日できなかったことが、明日すぐできるとは限らない。そのまた明日へと、一日ずつ積み上げていけばいいの」

「はい」


 わかります。お話はごもっともです。

 わたしは焦ってるんだと思う。時間がどれくらいあるのかわからないし……周りは魔法の達人が多いし、自分だけができない子って感じてしまうから。

 ……いや、王子に比べたら勝ってる部分はあるんだった。


「先生、今日ひとつだけ、いいことがあったんですよ」

「なに?」

「ジェレンス先生が、わたしの方がローデンス様より魔法制御がうまいって」

「……殿下より?」


 ウィブル先生の微妙な表情から、王子の魔法制御がいかに低評価かわかるというものだ……。王子よりマシだからって、ほんと、それだけだな! もっとうまくなろう。

 一日ずつ、積み重ねて……うまくなろう。うん。


「わたし、間に合いますかね?」

「間に合う?」

「魔王の封印に」


 わずかに眼をほそめたウィブル先生の表情が、なにを意味するのか。わたしには、わからなかったけれど。

 口調はとてもやわらかくて、だけど声はとても強かった。芯があるっていうか。


「大丈夫よ。アタシたちが間に合わせるから。つまり――ジェレンスが?」


 相変わらず、ジェレンス先生への信頼が篤い!

 わたしたちは顔を見合わせ、小さく笑った。


「先生も、力を貸してくださいますか」

「もちろんよ。最終的に、ルルベルちゃんに同行するのはアタシになると思うわよ」

「そうなんですか?」

「アタシがいれば、そう簡単には死なせないもの」


 ……やっぱ、そこかぁー! さすが国一番の生属性魔法使い。あと、転生コーディネイター情報ともバッチリ合致だ。隠し攻略キャラ・ポジションのウィブル先生を選べば、死にづらくなるっていってたもんな。


「ご面倒をおかけしますが、よろしくお願いします」

「まかせなさい。アタシが使える魔法使いだってとこ、バッチリ見せてあげるから」

「……そのためには、大怪我したりしないといけない気がするんですけど」

「大丈夫よ、一瞬で治すわ」


 怪我をするところは否定してないのが気になり過ぎます、先生!


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