557 でもさぁ、嫌われたい人っている?
とはいえ……「魔王は倒すな封印しろ」論にも、弱点はある。
わたしが言及するまでもなく、リートがそれを指摘してくれた。
「倒せないから封印する、それは問題ない。むしろ、当初からの予定の行動だ。だが、どうやって封印するんだ? 早く考えるようにと、俺は君を急かしたはずだ。返事はもらっていない」
さすがリートであるが、これに答える言葉がない。
だって、進捗ゼロだもん。
「……」
「あらためて訊く。どうやって?」
……ほんとだよ。
どうやって?
誰か教えてほしいけど、そういうものじゃないっぽいしなぁ。
自分らしく? なんか、その……なんだろうね。
初代陛下は、想像もできない面積を抉り取るようなパンチで封印したっていうから、陛下らしさ……怖い。
そのパンチで封印されたはずの推定魔王が、あんななのも怖い。
聖属性魔法の波動? みたいなものを感じ取って、幸せな抱っこを夢みてた、ってことだよね?
陛下パンチが謎効力過ぎて、まったく理解できない。
そして戦慄すべきは、わたしもなにか謎効力の行動を求められているに違いないということである。
「とにかく、ジェレンス先生は迂闊に魔王の相手をしないでほしいです」
軽率に変なことしそうだから。
これには、本人以外の同意がとれたと思う……皆、そうだよねぇって顔してるもん。
「俺抜きで魔王の相手をできる、ってか?」
「しなきゃいけないんです。わたしは、そのために魔法を学んできたんだから」
できるかどうかじゃないんだ! ってやつだ。
聖属性だから、特別に魔法学園に入れた。聖属性だから、皆に親切にしてもらえてるとも思う。もっと一般属性の冴えない学生だったら、すべてが違っていたはずだ……。
リートもナヴァトも護衛にはついてないだろう。ファビウス先輩がわたしに注目したきっかけだって、さる筋からの依頼だったはずだし……聖属性じゃなければ、相手にされてなかったんじゃないかな。
聖属性であることが、わたしの価値なのに。それが活かされていない現状よ……。
「やりましょう、ルルベル。ひとりじゃないのよ。皆で力をあわせれば、きっと、できるわ」
シスコが手を握ってくれた。
……ああ、シスコってほんとに天使!
きっと、わたしが聖属性でなくても友だちになってくれたんじゃないかな……と、思わせてくれる。
「ありがとう、シスコ」
「いやいや、おまえら待て待て。根拠のない自信で前に進むほど危ないことはねぇぞ」
ジェレンス先生は、自信に根拠があってウラヤマシ〜。
「それに関しては同意見だな。無策で挑める相手ではないだろう」
「策を立てるのはリートが得意でしょ。なんかないの?」
「丸投げか」
「丸投げだよ。だって、わたしより向いてるもの」
「俺は?」
ジェレンス先生が、ジェレンス先生にしては控えめに割り込んできたけど、そこは無視した。
わたしのイメージするジェレンス先生は、ノー・プランでぶちかましていくスタイルだ。それを魔王相手にやったらエスカレートするだろうし、それこそが絶対に避けねばならない展開である。
「少し時間をくれ」
「もちろん」
こっちも時間が必要だからなぁ。
封印……わたしらしい封印……焦るばかりで、なんにも思いつかない。
「まず、ここにいる面々でなんとかすることを考えよう」
「俺も勘定に入ってんのか?」
「当然です。ただ、余分なことをしないと誓約してください……誰か契約の呪符を描ける者は?」
「ある程度でしたら」
申し出たのは、ファランス様である。東国って、呪符魔法の学習を推奨してるのかなぁ? ……してそう。
「よし、条件を詰めよう。それから――ああ、ここに紙があるな。残りは、自分の得意魔法、できそうなことを書き出してくれ。正確に把握したい」
「わかったわ」
素早くうなずいたのは、アリアンだ。この伯爵令嬢、平民のリートに指図されても文句もいわないの、地味にすごいと思うんだよね。
たぶん、リートのなんらかの実力を認めてるから、なんだろうけど。
「シスコ、ペンがどこかにあったはずよね?」
「うん。ここに来たときに見かけたわ。たしか暖炉のあたりだったと思うけど、あのへんのもの、吹き飛んだから行方不明ね。わたしは拾った覚えがないわ」
「わたしもよ。でも、壁は無事だったんだし、室内にはあると思うのよね」
……吹き飛んだのは、わたしのせいですね! ナクンバ屋根アターック!
「わたしも探そうか?」
おずおずと申し出ると、シスコがにっこりした。
「助かるわ。ルルベルも書いた方がいいわね、できること」
たしかに……。
ほどなくペンはみつかったし、なんならファランス様がそっと差し出してくださったのも重複したので――東国男って、こんなとこまでフォローアップする習性があるの?――わたしは紙を前に唸ることになった。
・聖属性魔法ぶっぱなし
・聖属性魔力玉生成
・聖属性呪符の準備及び強化
・聖属性魔力を竜に貯蓄及び放出
・万象の杖
聖女としての能力って、こんなところかな。後ろへ行くほど「わたしらしい」って感じはありそう。竜が従ってるのもだけど、エルフの秘宝を貸してもらえるのだって、レア中のレア・ケースだろうし。
少し考えて、政治的な立場としての聖女についても書いておいた方がいいかと思いつく。
・聖女
自国の王室とは関係が悪い
東国には巨人の処理の関係で感謝された
現在の戦場では感謝と批判の両方を確認
あんま意味ないか……。
ていうかさ、「わたしらしさ」って、こういうのとは違うんじゃない? もっとそのー……為人というか? なんか、そういう言葉で表現されるサムシングが要求されそうな気がしない?
生まれ育ちとか……そういうの?
うーんと唸りつつ、そのへんの情報を補填してみる。
・パン屋
売り込みの呼び声→大声?
客あしらい
・姉であり妹である
断じて、ママではない
・学生
テストでクラスを一致団結させた(原因はジェレンス先生)
チェリア嬢とのチーム戦を制した(あの宝石どうしよう)
・エルフと親しい
・世界の果てに行ったことがある
……だんだんカオスになってきたぞ。思いついた端から書けばいいってものじゃないだろう!
わたしはペンを置き、考えこんだ。
この中に、わたしらしい魔王封印のヒントってある? とてもそうは思えないんだけど、気のせいかな!
それでも思いだしたので、客あしらいの項目の脇に、小さな字でたしておく。
→誰にも嫌われない立ち回り
たしか、リートにいわれたんだ。客の反感を買わないのと同じように、誰にも嫌われないようにしようとする……みたいなこと。
でもさぁ、嫌われたい人っている? いたとしても、圧倒的少数派じゃない? 他人に嫌われたくないってタイプの方が大多数で、つまり自分の特徴として挙げるほどのことではなくない?
「あらルルベル、これは違うわ」
「シスコ……」
わたしの書いたものを覗き込んでいたらしいシスコが、さらに書き添える。
ルルベルの特技は、皆に好かれること!
力強く二重の下線まで引いて強調されちゃったぞ。
えっと……これは笑うとこだよね?




