553 舌打ちするエルフ、解釈違いなんだけどー!
そのあと、我が友語りがつづくのかな……と、わたしは少し期待したんだけど。
エルフ校長はすぐ、話題をもとに戻してしまった。
「それでルルベル、その約束を呪符で厳密に縛ってはどうかとファビウスが」
……もうファビウス先輩まで届いちゃってるかー。爆速!
「えっと、それは……どう転んでも、わたしが死なないように?」
「方針としては、そうですね。ルルベルの命と引き換えにする前段階に、いくつか条件を詰めておいて、ジェレンスを半死半生の状態に持ち込めるようにと」
うわ怖。
「あの……実際問題として、ジェレンス先生をどうやって半死半生に?」
「本人がやります」
「本人……?」
「禁止行動をとったら、反動が来るような条件づけですね。いろいろできると思いますよ、本人が多才ですからね」
多才……そりゃ間違いないけども。
「危険じゃないんですか? つまり、戦闘中にもその、禁止行動をとる可能性があるじゃないですか」
「ありますね」
「それでその……反動で急に動けなくなるとか、なんかそういう……すごく危険そうだと思います」
「そうでしょうね」
だから? といわんばかりに、エルフ校長は片眉を上げて見せた。
「つまりその……さすがのジェレンス先生でも、命にかかわるのでは?」
「自身のミスで君の命を奪うくらいなら、自分が犠牲になる方が本望では?」
「そうでしょうか?」
「ルルベル、彼とて立派な大人であり、教師なのですよ。まだ若い生徒の命を犠牲に生きながらえることを、善しとするでしょうか」
「それは……わかりませんけど」
ジェレンス先生は、とんでもない俺様だけど。でも、基本的には正しいひとだ。
わたしの命を犠牲にすることだって、避けたいとは思っているだろう。それは信じてる。
でも、ですよ?
ジェレンス先生が禁止行動に踏み込むレベルで魔法を使うなら、それなりにシビアな場面だろうし、そこで反動食らって負けたりしたら、どうすんの。
「そのへんは、うまく考えますよ。ルルベルも、意見があったら教えてください」
エルフ校長の眼は、相変わらず暗い。光がない。
つまり、なんか逆らえない圧を感じる……。
「……わかりました」
すまん、ジェレンス先生! 呪符で契約する件に関しては、わたしが防げる話じゃなさそう!
でもさー、わたしが条件に意見をいう隙なんてある? ファビウス先輩が着手してるんでしょ……あっそうか、そこまで酷いことしないように諌めるとか、そういう方向性でなら参加の余地がありそうだな。
……早めに意見した方がよさそうな気はするけども。
「ところで、例の魔王っぽい存在ですけど。ジェレンス先生が、竜巻にぶちこんで放置してきたとかいってたんですが――」
チッ。
……えっ? エルフ校長、舌打ちした? ねぇ、今の舌打ちだよね?
舌打ちするエルフ、解釈違いなんだけどー!
「――えっと、ある程度の拘束が効いているうちに、なにか打てる手はないかと」
「真っ当な意見をいうなら、封印の準備ですね」
あっ、はい。それ、わたしがやるやつですね……まったくなんにも思いついてないけどね……。
「場所は……今のままでも、かまわないかもしれませんね。人里が近くにあるわけでもないですし」
「場所」
考えたこともなかったので、思わずリピートしてしまった。
場所かぁ。でも魔王の封印って、現実の座標に固定されるわけじゃない、みたいな結論が出てなかったっけ? ファビウス先輩の実験で。
「あの、場所って重要なんですか?」
「事実上、魔王との決戦の場になりますからね。ある程度の範囲は、事前に避難勧告が必要ではないかと」
「ああ……」
そうか。そりゃそうか。
実際、今だって竜巻発生中なんだもんなー。
巨人の移動経路沿いに浄化しながらの発見だったから、周囲に人里がないのは把握済み。というか、あったらすでに巻き込まれて大災害になってるはずだ。
そう考えると、けっこうラッキーだったんじゃないかな。
「それで先生、封印なんですけど……まだ、なにも思いつかなくて」
「自分だけの魔法を考えるようなものですからね。無理はしなくて大丈夫ですよ」
いや、大丈夫じゃないと思うよ?
ぜんぜん大丈夫じゃないよ……さっさと終わらせないと、魔王がこっちの都合が悪い場所に移動しちゃうかもしれないんだし、眷属もますます活発化するだろうし、ジェレンス先生だって無茶な魔法を使わざるを得なくなるかもしれない。
大丈夫じゃないよぉ。
「ロスタルス陛下は、拳で解決されたと伺っていますが」
「はい」
「その……つまり、魔王をぶん殴ったという理解で、間違ってないです?」
「間違ってはいませんね。魔王ごと空間を、こう」
エルフ校長は、アッパーをかますような動作をして見せてくれた。抉るように、ぐいっと。
「こう、ですか」
「あたりには大穴が開きましたね」
「は……はい?」
えっ、物理? 物理なの?
「僕が多少は戻しましたが、完全に元通りというわけにはいきませんでした」
「あの、具体的にはどれくらいの大きさの穴だったんですか」
「そうですね……現在の王都の半分くらいでしょうか」
ごめん。東京ドーム何個分って表現以上にわからない。
王都の面積知らないし、たぶん数字で教わってもピンと来ないだろうし……とにかく広いことはわかるぞぉ! 王立魔法学園だって、かなり広いけど、王都の一部に過ぎないんだもんな。
イメージしづらいほどの面積を個人で吹き飛ばせるロスタルス陛下、どんだけよ。
「わたしが封印の方法を思いついたとして……そんな風に広範囲に影響が出るようなことには、ならなさそうです」
「そうかもしれませんね」
いや、かもしれないじゃなく、確実にそうですよね? そもそも、魔力の総量だって大したことないんだし。
「そこだけは、ちょっと安心かな……」
「やはり、やさしいですね、ルルベルは」
当たり前の心配をしてるだけなんだけど、まぁ否定しても受け入れてくれないだろう。エルフ校長って聖属性ガチ推し勢だもんな――と思いつつ、わたしは曖昧に微笑んで見せた。
「とにかく、早くなにか思いつくようにしたいです」
「自分にとって、しぜんなものがいいですよ」
「しぜんなもの……?」
「はい。無理に考えだそうとしても、うまく力が通りませんからね」
そういうものだといわれたら、そうなのかもだけど。
わたしにとって、通常営業〜って感じなの、なんだろう?
正直、思いつかないんだが……強いていえば、パン屋関連? でも、パンを焼くのはうまくない。パン生地を捏ねるのも、整形するのだって、ちょっと教えただけのナヴァト忍者の方がうまいくらいで。
じゃあ看板娘としての、なにか……?
ちょっと考えてみたけど、これというものがない。だって、魔王相手に呼び込みするわけにいかないじゃん。らっしゃいらっしゃい、ロールパン焼き立てでございます〜! ……いやこれ封印のイメージと結びつく?
無理でしょ!
「……頑張って考えます」
「はい。では、もといた場所に、送り届けましょう」
「え、あ……」
はい、とつづけようとして、わたしはちょっと躊躇した。
エルフ校長でも、目に光がなくなっているのである。ファビウス先輩のケアもしないと、大変なことになるのではないか? というか、わたしだってケアされたいのが本音だ。
……でも、本営に行くのはまずいかもしれない状況なんだよなぁ、たしか。
慎重に考えて、わたしは結局、うなずくことにした。
「お願いできれば、そうしていただけると助かります」
「もちろん。暫し同行しましょう」
そういって、エルフ校長はわたしの腰に手を回しながら、ナヴァト忍者にも声をかけた。ここまで無言だったナヴァト忍者も、よく見ると表情が暗い……。
わたしが死にます宣言、本人以外の方がダメージを負ってる感すごいな!
なんてことを考えているあいだに、雲の上である。
一瞬だし、まったくなんの違和感も覚えないの、さすがエルフの魔法って感じだ。
「周辺の地形や、竜巻の様子などを確認しながら行きましょうか」




