550 人間相手にも、誠実であってほしいなぁ!
でも、なるほどな。
聞いたことがない魔法で当然だわ。知りたがりの漂泊者ルールディーユスでさえ、しっかりと分類することができなかった属性だ。マジで前代未聞に違いない。
そのルールディーユスは、さすがの慧眼ですよ。ほんとに存在自体をいじる魔法だった!
あー、なにこれー。前代未聞が前代未聞で前代未聞過ぎるよ!
転生小説のチート主人公かよ! また俺なんかやっちゃいました〜? ってとぼけるタイプかよ! けっ!
いや違うな、ジェレンス先生なら「おぅ、やっといたぜ!」だな……。
「取扱要注意危険物のかたまりみたいな存在ですね、ジェレンス先生って」
「ま、否定はできん」
「その属性、シュルージュ様はご存じなんですか?」
「逆に訊くが、あの伯母が俺に吐かせずに済ませると思うか?」
「……思いませんね」
それでシュルージュ様も、あの態度か。好き放題やらせちゃ駄目だと、わかってるからこそなんだ。
実際、ジェレンス先生を保護したとたん、わたしも問い詰めてるんだもんな。そりゃ監督役としては知りたくなるよな。自分が抱えてる爆弾が、どんなタイプかを。
結果、むっちゃ爆弾ですわコレ。なんやコレ。無理やコレ。
ああ〜、なんでわたし、ジェレンス先生を保護しちゃったのか!
やめとけ、と少し前の自分に助言したい……。
「あと、ひとつ気になってたんですけど」
「魔王のことなら、ばんばん飛ばしまくって前後不覚の人事不省状態にした上で、竜巻の中に突っ込んどんいた。そのまま消せねぇかなと思ったんだが、ちょーっと難しそうだったなー。読めねぇんだよ、なんか」
あんた気軽に! そのまま消せねぇかなとか!
「そんなこと、できるわけないでしょう!」
「は? なんで断言してんだ。できるかもしれねぇだろ?」
不審げに問い返されて、わたしは口ごもった。
「だって……魔王は魔王で、なんかこう……消せないというか……消してはいけないというか?」
「消してはいけない? なんでだよ」
なんでだっけ? なんでだかわからないけど、安易に消しちゃいけない気がしてる。
わたしだって万物融解装置である万象の杖を使えば、魔王を消せるはずだが……なんか、駄目な気がする。
「わかりませんが、女の勘です」
「おんなのかん」
……棒読みされたよね。
「聖女の勘にした方がいいですか」
「その方が、少しは説得力が増すな」
「で、竜巻っていうのは? その場で回転してるんですか?」
「あー、うん」
「無駄に環境破壊してないですよね?」
巨人のせいでボロボロになった山林を見ているので、そのへんも気になって訊いてみると。
ジェレンス先生が少し怯んだ……これアカンやつや!
「……シュルージュ様と殺し合ってもらう方がよかった気がしてきました」
「おいやめろ。それだけは、ほんっとにシャレにならんから」
「で、どうしましょう? いつまでもナクンバ様に飛んでいてもらうわけにもいきませんし」
「うーん……あの場さえ逃れられれば、まぁなんとかなるだろ」
「はぁ?」
呑気! 呑気・オブ・呑気!
「ほら、はじめてじゃねぇしな、こういうのも」
「ふざけてる場合じゃないですよ? シュルージュ様、かなり本気でしたよね?」
「魔王か、眷属の団体と戦っておきゃ、手出しできねぇだろ」
伯母避けに魔王の眷属を使おうとする大魔法使い。
……なにかが間違っている気がする。
「そんな目で見るなよ。実際、俺がいねぇと困るんだぞ」
「いねぇと困るのに、たぶん無連絡で戦場放り出してこっちに来ましたよね?」
「や、一応『復活した魔王がみつかったっぽいから、そっち行く』とは伝言したぞ」
一方的に通告したわけね。うん、まぁそんなことだろうと思った!
「魔王発見は、どうやって知ったんですか」
「そりゃ重大事だから、すぐ知らされたんだよ」
「ちゃんと、自分がいなくなったあとの手配もしたんですよね?」
「あの時間帯は伯母上も起きて戦場にいたから……つまり伯母上のところに来た連絡を聞いてだな、じゃあちょうどふたりとも揃ってるんだし、俺がまず様子を見てくりゃいいなと思って」
「なんでそこでシュルージュ様に直接、お伺いを立てないんですか……」
「そりゃ断られ――」
途中で、ジェレンス先生は言葉を切った。
さすがに「断られるに決まってるから勝手にやった」とは、明かせなかったようだ。
まぁ、だいたいわかっちゃったけどな!
「信じられない……ジェレンス先生って、ほんとに大人なんですか?」
「俺が子どもに見えるかよ」
見た目はな。見た目は三十代ですよ。間違いないよ。イケメン魔法使いだよ。
でも、中身は子どもじゃーん!
「とにかく、せめて反省してください」
「反省してるって」
「してませんね。ジェレンス先生の反省は、世間一般でいう反省の半分の重みもありません」
「計量できんのかよ」
せせら笑われて、さすがにわたしもムッとした。
「そこ、話の要点じゃないですよね。すり替えないでもらいたいんですけど……」
「俺だって、連絡なしで飛び出したのは、まぁ悪かったと思ってるよ。うん」
「先生、似たような状況が起きたら、また考えなしに飛び出すと思いませんか?」
「似たような状況なんて、起きっこねぇって。魔王っぽい赤子が発見されました! なんて椿事、二度あったらおかしいだろ」
……そういう話じゃないんだよなぁ!
「瞬間移動の件については? シュルージュ様に禁止されてましたよね? ほんとに反省したら、二度と同じことはしないんですよ」
「あのなぁ、おまえら誰も言及しねぇけど、魔王と戦うのに手を抜いてられるわけねぇだろ。俺も全力で、有効な手法を編み出そうとしてだな……」
「危険なんですよ、あれは。わたしが世界の果てに意識を落っことしたときのこと、お忘れになりました?」
「や、それはルルベルが呪文を練習してるという特殊な環境下で起きた事故だろ」
「それ、断言できます? わたし以外には、絶対に生じないって」
ここで、ジェレンス先生は口ごもった。そうだろ、断言できないよな。わっかんないもんな、そんなこと!
魔法には誠実なんだなー、というのがわたしの感想である。
人間相手にも、誠実であってほしいなぁ!
少し考えて、わたしは思った。
うん、納得した。ジェレンス先生は、駄目だ。シュルージュ様の対応がああなるのも、よくわかる。
「とりあえず、下に戻りましょうか」
「えっ。なに考えてんだルルベル、戻ったらまた――」
「ナクンバ様、お願いします」
「――わーっ! くっそこの竜、阻害すんな!」
仔細はわからないけど、ジェレンス先生の逃亡をナクンバ様が阻止してくれたらしい。
着地したところで、わたしはまずナクンバ様を褒めた。
「ナクンバ様、ありがとうございます。ジェレンス先生を逃さないでくれて」
「直接命じられておらずとも、必要なことはわかるゆえな」
得意げ〜!
そっと下ろしてもらったとはいえ、一応、衣服の乱れをととのえて。
仁王立ち――という表現はこの国にはないけど、どう見ても仁王立ちのシュルージュ様の前に出ると、ジェレンス先生はおとなしかった。逃げようともしないのは、たぶん経験があるんだろうなぁ。失敗して酷い目に遭った、的な?
「シュルージュ様、お待たせしました」
「決心がつきましたか」
「はい」
わたしはジェレンス先生を前に突き出した。
「お、おい」
「本人から直接話を聞いてみましたが、たしかに、ジェレンス先生は無責任過ぎます」
「おい、ルルベル!」
「ですが、だからといって、おふたりが殺し合うのを看過はできません」
ここでジェレンス先生がほっとしたのがわかる。シュルージュ様の背後に並んでいた、友人たちもだ。
シュルージュ様だけは、しっかりと腕を組み、仁王立ちのままだ。微塵も気を抜いていないのがわかる。
「もちろん、シュルージュ様とわたしが殺し合うのも、なしです」
わたしが言葉をつづけると、シュルージュ様はかすかに眉を上げた。
「では、如何様になさるおつもりですか」
「ジェレンス先生のために誰かを殺すなんて……わたしには、できません。もちろん、ジェレンス先生と殺し合うことだって」
「ならば――」
「だけど、ジェレンス先生に殺されることなら、まぁギリギリできます」
まーたしても、うっかりしました!
もうダメだ……。
いやまぁ頑張りますけども、来週もまたうっかりしそうな自分が怖い。




