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544 にこにこしながら棘のある雰囲気を醸し出せる

 シスコ曰く、もともと今回の学徒出陣――と頭の中で日本語変換が勝手に発動したが、今使ってる言語にそんな表現は存在しない。素直に訳せば「学生たちの支援活動」くらいかな?――自体が、チェリア嬢を推してく運動の一環だったらしい。

 少なくとも、ローデンス王子はそう見てるそうだ。

 王子の見立てという名の内部情報によれば、王宮の狙いは単純。チェリア嬢を前面に立てて戦わせ、ルルベルは聖女を騙った罪人として引き取り、王宮を守らせる……んだってさ。


 ほんっと!

 脱力するよねー。

 大丈夫なの、我が国?


「学生の前線支援運動を活発化させ、央国ラグスタリアの存在感を示すという名目で、ローデンス殿下が仲間を募ってくださったの」


 王子と、大富豪侯爵家の跡取りが揃って参加するだけでも、けっこうなインパクトだ。

 チェリア嬢に付き添うかたちで参加した王宮の人員は、王宮付き魔法使いと近衛騎士。ほとんどはスタダンス様にすら逆らえないし、王子が相手となれば理不尽な命令にだって従わなきゃいけない――厳密にいえば、「王命です」っていうカードは切れるけどね。


「だから、わたしたちの第一の目的は、戦いじゃないの。ルルベルを守ることなのよ」


 ……くそぅ。泣きそう。


「わたしが……皆を守らなきゃいけないのに」

「そうよ? ルルベルは皆を守ってね。今まで通りに。わたしたちは、それを手助けするだけ」

「シスコ……」

「わたしはルルベルと親しいからと参加を認められたけど、平民の子はあまり来てないの。ほとんどは、王宮の手勢に対抗できるような貴族のかたがたよ。魔法学園の生徒はもともと貴族階級のかたが多いし、当然ではあるのだけど。だから今のうちにこっそり伝えておくけど、息が詰まったときは、わたしにいってね。平民枠として、ルルベルの気もちが楽になるよう頑張るから」


 天使ぃぃぃぃ!


「皆が来てくれたのは、正直、複雑なんだ……。戦場に近づいてほしくないって気もちも、あるから。もちろん、助かるかっていわれたら、助かるし、とっても嬉しい。……でも、貴族のかたが、そんなに?」

「同じクラスのひとは、だいたい参加してくださったわよ。試験のときの恩義を返そうって」


 あー……。ジェレンス先生の個人的な恨みが詰まってたっぽい、あの理不尽ペーパー・テストか!


「そんなこともあったねぇ……」

「あと、的を射抜いた競技でも活躍してたでしょう、ルルベル」

「……あったねぇ……」

「あれで、あなたの実力はほんものだと信じてくださったかたも大勢いらしたの。希望者が多過ぎて、子爵家以下のかたはお断りしたくらいだったらしいわ」

「え、ほんとに?」

「そう聞いているわ。ただ、お家のかたに止められてしまうこともあって……」


 そりゃ当然だわ。


「しかたないよ。わたしが家族でも、止めると思うもの」

「シデロア嬢もご家族に制止されたって……でも、だったら留まる者ができることをするまでよ、とおっしゃっていたわ」

「ええー……。なにか無理をしなければいいんだけど」

「そうね。ずいぶん鬱憤が溜まっていらっしゃるようだったから……」


 それで思いだして、わたしはシスコに訊いてみた。


「例の婚約話って、どうなってるの?」

「破談にはなっていないようよ。詳しいことは教えてもらってないけれど……でも、諾々と従うだけで終わらせていいのかって、アリアン嬢が怒ってるのが聞こえたことがあるから」

「そっかぁ〜……」


 なにもかも、遠いことのように思えるな……なんて。感じたのをそのまま言葉には、できなかった。

 魔法学園で過ごした日常は、下町育ちのド平民のわたしにとって、夢のようなできごとだった。楽しくて、困ったことがあっても解決して、皆で笑いあえる日々。夢じゃんね?

 今ここでこうして聖女として活動してるのも、それはそれで非現実的な話だけど。だけど、「今、ココ」での話だから逃れようがない。

 ……変態みがある美形魔王にママ呼びされてるのとか、ほんっと! ほんっとに非現実的だけどな!


 無情な現実を思いだして顔をしかめたとき、扉がノックされた。


「ファランスです。アリアン嬢をお連れしました」


 どうぞの声を待って入って来たのは、もちろんアリアンとファランス様だ。

 アリアンは相変わらずショートボブの赤毛が勇ましい――いやこれ前よりさらに短くなってない?――左目の下の泣きぼくろが、硬質な印象に妖艶さを与えており……えっ、ほんとに同級生? って気分になる。

 しかも、制服じゃないのよね。男装なの! 白いシャツに黒のパンツ・スーツ。ジャケットの襟は深みのある燕脂色で縁取りされていて、なんかもうお洒落!

 男装なのに……いや男装だからこそ、逆に女性っぽさが際立つっていうか。とにかく、すごい。

 あ、語彙がなくなったわ。


「久しぶりね、ルルベル。いろいろ災難だったそうじゃない?」


 ほら、この余裕の笑み! わたし、こういうのを学ぶべきなんじゃないかな……。


「ファランス様、事情を話してくださったんですか?」

「そうでないと信用してもらえないからね。話が突飛過ぎて疑われたら、どうしようかと思ったけど」


 そりゃ突飛だよな……わたしが目を逸らしたい現実だもんな……。

 でも、アリアンは楽しそうに笑って、こういった。


「突飛だからこそ、嘘じゃないんだなと思えたわ。でもルルベル、ああルルベル! どうして、あなたの周りは面白いことばかり起きるのかしら!」


 ……面白くはない。面白くはないぞ!


「勘弁してよ、アリアン……。わたし、疲れてるのよ」

「ふふ、それはそうよね。お察しするわ」

「ありがと。……あっ、おふたりとも座って、座って」


 疲れてるのは、わたしだけじゃないはず。アリアンがまず座り、ファランス様もその隣に腰掛けた。たぶん、ソファじゃなかったら椅子を引いてたんじゃないかな、ファランス様……。

 そのファランス様は、愛想よく微笑んでいる。


「このような場に、混ぜていただいてもよいものかと思いますが。役得と割り切ることにしましょう」

「緊急事態ですから、遠慮は抜きで。お疲れのはずです、少しでも休んでください」


 シスコが差し出したカップを、アリアンが優雅に持ち上げる。……最近、周りが男性ばっかだったから、ちょっとした女性らしい仕草に心が撃ち抜かれそうだよ。


「移動に関しては、次はわたしが受け持てるわ。ずいぶん使えるようになったのよ、風属性」

「そうなの?」

「ええ。ジェレンス先生も、そのつもりでわたしを選んでくださったんだと思うわ」


 アリアンの魔法は、たしか……水と風で、風は最近使えるようになった副属性だったはず。たぶん……わたしの記憶に間違いがなければ!


「先ほど披露していただきました。安定した力をお持ちのようです。わたしもまだ使えますが、今は周囲の探知に力を割いていますし、回復が追いつかない状況ではありますから。彼女がいてくれて、安心です」

「探知、ですか?」

「侵入者を察知するため、風を巡らせております。自動的に弾き出すほどの力は残っていないので、あくまで察知するだけですが」


 いやいや……それでもすごいって!


「休んでいただきたいとは思うのですけど」

「平気ですよ。まだ魔力には余裕があります。いざというときも、おまかせください」


 ……わたしは今、空っぽだしなぁ。

 ナクンバ腕輪があるから、ほんとのほんとに緊急時なら使えるけど、そのナクンバ様だって、追加のエネルギー補給ができないのだ。できれば使わずに済ませたい。


「ファランス様は、とても効率よく魔力をお使いだから……この規模の魔法を扱うには、もっと無駄が出るのが当然だけれど、拝見したところ、ドケチとしか表現できない節約ぶりよ。素晴らしいわ」


 ……ドケチ? 常時優雅な伯爵令嬢であるアリアンの口から、そんな言葉が出るとは思っていなかったわたしは、一瞬、意味がとれなくて困惑した。

 ドのつくケチって意味の、ドケチだよな? これ褒めてる?


「アリアン嬢こそ、その惜しみない魔力の使いぶり。もともとの魔力が膨大でなければ無理でしょう。とても真似ができるものではありませんよ」


 笑顔をかわすふたりは、美男美女。お似合いに見えるが……なんか言葉に棘がない?

 わたしは、へらっと笑って話をまとめることにした。


「おふたりとも、すごいですね。わたしは今、空っぽなので……」

「ジェレンス先生の指示だそうね?」

「うん、そう。全力ぶっぱなせ、っていわれて」

「追跡阻止が目的でしょう。魔王にしてみれば、目眩めくらましを食らったようなものでしょうから」


 ……わたしの全力が、目眩し……。ううう。


「ジェレンス先生のあの移動、追跡できるとは思えませんけれど」

「それでも、安全策をとったんでしょうね」


 ……どうしてアリアンとファランス様は、にこにこしながら棘のある雰囲気を醸し出せるの?

 すごい。これが貴族ってやつか。……ちょっと怖い。


月曜更新できなくてすみません。

旅行に行って帰って疲労困憊、動けなくなっておりました。

旅行中は思ったよりずいぶん歩けて、先月だったら無理だったことができるようになってる! 復活してる! と思ったのですが、体力がついて来なかった(結論)

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