表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
538/550

538 魔王ってこんな、かがやくように笑うの?

 おっきくなった魔王に抱っこされる聖女の図……危険過ぎるだろ、あらゆる意味で!

 さりとて、ちっちゃい魔王を抱っこする聖女の図というのも……逆よりは平和だけどね? それこそ、ぽかぽかあったかゆる次元なら許されると思うけどね?

 ここ、そういう次元じゃないから!


 そもそも、なんだけどさ。なんで抱っこ?

 抱っこなんて言葉、久々に使ったよ! なんで魔王にせがまれてんの。おかしいだろ。


「……ひとつ、質問したいんだけど、いいかな?」

「抱っこしてくれたら」

「いや、抱っこから離れて。そこちょっと置いといて。しばらく忘れて?」

「……」

「知っておきたいの。あなたは、魔王なの?」


 推定魔王は小首を傾げた。……あざとい! かっわいい!

 生え揃ってきた髪は、青みを帯びた艶のある黒。さらっさらのストレートで、カットもブローもしてないのに、人気子役タレントのグラビア撮影か! くらいの整い具合である。


「わかんない」


 これが近所のお子さんだったら、抱っこもやぶさかではなかった……!

 かっわいい、キュンキュンするぅ!


「そっかぁ。じゃあ、どこから来たのかは覚えてる?」


 聖女様、とナヴァト忍者がささやいた。交流は自重しろってことだな? 慎重にすべきという考えも、わからなくもないけど……そもそも、会話しなかったら爆速で成長してたわけだし。

 推定魔王は、難しい顔をしている。


「わからない……ずっと、うた、きこえた」

「歌?」

「こんなの」


 ふんふんふ〜んと推定魔王は鼻歌を一節。それから、うーんと唸ってまた首を傾げる……可愛いかよ!


「おっきしたら、いいことがいっぱい、やさしいママがいて、抱っこしてくれるって」


 誰だよー、そんな歌をセットしたの!


「じゃあ……起きたらわたしが見えたから、ママだと思った感じ?」


 推定魔王は、また首を傾げた……なんだろうこの……この小動物っぽさ! いや実際、小さいサイズの生き物ではあるからね? 現段階でね? ヴィジュアル的にこう……訴えかける力が強い。

 どうしよう、可愛さに屈服して抱っこしちゃったら。


「あのね、えっとね……」


 言葉まで可愛くなってきた! やめて!


「ゆっくりで大丈夫だよ」

「うん……んとね、そこにいたからママだと思ったのも、そうなんだけどね、それだけじゃない」

「それだけじゃない?」

「ずっと、まわりにあって、あったかくて、やさしかったの。そういうの、似てるの」


 ……?????

 魔王の周りに、あったかくて、やさ……しい……。


「あっ」


 思いついてしまったが、いやそんな馬鹿な……ただの突飛な思いつきであり、誰かに鼻で笑ってほしい考えだ。まぁ誰かなどと曖昧にいう必要はなく……鼻で笑うなら弟じゃない方のリートだろうけども……。

 同じ思考に辿り着いたらしいナヴァトが、まさか、とつぶやいた。


「興国の祖であられる、陛下が……」


 ナヴァトが同じ思考にたどり着いたらしい。

 魔王を囲んでいたというなら、封印だろうと考えるのが筋でしょ……信じがたいけど。

 聖属性魔力って、本来は相反する力で魔王にとっては厭わしいものなんじゃないの? と、思わなくもないけど……それがまぁ「あったかくて、やさしい」と認識されていたらしいね?


 ……殴ってわからせる暴力的な封印をしたはずなのに、平和な夢じゃん……。


「へいか?」

「よくわからないけど、それってこう……これ?」


 わたしは少しだけ魔力を放出してみた。もちろん、聖属性である。

 推定魔王は、ぱぁっという笑顔になった……この子ほんとに魔王? 魔王ってこんな、かがやくように笑うの?


「それ! もっとほしい、抱っこして」

「また抱っこに戻っちゃったかぁー……」

「抱っこ!」


 と、推定魔王は小さな両手をさしのべる。

 ……可愛い。抱っこしてあげたい。

 頭の中にリートがあらわれて「危機意識」と冷淡に告げなければ、危なかった……。


「抱っこは、ちょっと無理かなぁ」

「なんで?」

「知らないひとを相手に、抱っこしたりされたりは、ダメ」

「知らなくないよ、知ってるよ。だって、ずっと、ずっとだったもん。ふわぁ、って……あったかくて。でも消えちゃったの。消えちゃったけど、ママがいたから、ママになったんだよね?」


 ……翻訳しよう。

 たぶん、自分を包んでいたあたたかなもの――おそらく初代陛下の聖属性魔力――か消えたが、同種のあたたかさを帯びた人間が、目の前にいる。だから、もう一回包んで! ……が、抱っことイコールになっているのだ。


「これ、抱っこしてあげたらすべて解決するのでは」


 思わず口走ったら、ナヴァト忍者が律儀かつ冷静に問い返してくれた。


「なにが解決するんですか」

「え、っと……魔王問題?」

「愚見ながら申し上げますれば、なにも解決しないように思われます」


 まぁ……そうよね……。


「封印の具体的な方法を思いつくまで、保護してればいいと思わない? そうすれば、この子が魔王だったとしても悪さはできないわけだし」

「賛同いたしかねます」


 そうよね……。そうよね!


「ママァ、もういい?」

「えっ、なに?」

「おっきくなって、いい?」

「まだ! まだよ〜、もうちょっと、ゆっくりしようよ。子どもにしかできないことっていうのも、あるんだから! あと、わたしはママじゃないからね?」

「ママ……」


 推定魔王は顔をぐしゃっと歪めた。

 あっ……これは……。


「ママァー! うわーん!」


 泣いたー!

 わたしが泣かせたー!

 でもいわせてくれ、ママじゃない! ママでは! ない!


「ごめんごめん、泣かないで」

「ママァー、抱っこー!」


 ……ブレない!

「ママ」と「抱っこ」に関してはブレが皆無なの、なぜなんだ……。

 泣いている推定魔王幼児が可愛くて、かわいそうで、もうどうしようもなく抱き上げたくなったけど――まさに、そのとき。


 ――それが魔王か?


 耳元で声がした。

 リートだ! 危機意識の鬼が来た!

 かわいそうだけど推定魔王よ、これで君の抱っこ路線は消えた……。


「たぶん」


 ――赤子だと聞いていたが?


 デスヨネー。


「すごい勢いで成長した。今は、お願いして成長を待ってもらってる」


 ――意味がわからん。


 デスヨネー! わたしだって、わからんわ!


「わたしを母親だと思ってて、抱っこしてほしがってる。母親だと思った理由は、目が覚めるまで自分を包んでいた、心地よい力と似てるから……だ、そうですよ」

「ママァー! いいこにしたよー! いいこにしたから、抱っこー!」


 大泣きしながら一歩、推定魔王が前に出た。


 ――うるさいな。


 リートがリートである……。


 ――少し距離をとれないのか?


「追いかけてくるから……」


 ――幼児くらい、引き離せるだろう。ナヴァトに運んでもらえ。


「たぶんだけど、離れると成長加速するよ」


 そして大人になって、今度はわたしを抱っこする側になると主張しているのである!

 なんかもう……なにそれ?

 自分が当事者じゃなければ呆れて笑ってたわー! 当事者じゃなくなりたーい!


「ママァー!」


 ――ママ?


 鼻で笑う声である……。

 ほらな! リートはリートだった!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SNSで先行連載中です
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ