491 リートが使えない認定されてやがる!
そういや、前世の我が国もそんな感じだったよねぇ。組閣発表されると、男ばっか! とか。
ひとり混ざってた女性が何人分も頑張りますとかコメントして、いいから何人も入れろよって思った記憶はある。
べつに女性の閣僚を入れるべきって強く思ってたわけじゃないけど、なんかな〜……って感じよ。
それだけ「偉くなりたい」ひとは男性が多いってことなのか、あるいは「偉くなりたいという願望を成就できる」のは男性が多いってことじゃん? たぶん後者よね……女性は権力欲がないってのはダウトだと思うし。
女性は能力がたりないっていうのも偏見だから、能力主義でそうなってるってのもダウトでしょ。もっと純粋な力関係の問題だよね。
今生でも、事情は変わらなさそうだ。
そういう環境に、ウフィネージュ殿下は入ってくわけでしょ。しかも、トップとして。
あの大量のおっさんたちは、若い女性であるウフィネージュ殿下にちゃんと臣従できるのか?
……あやしい〜!
「殿下は王族だから、女性であっても例外的に国政の頂点に立たれるわけだけど……あなどられるのではないかと心配になっちゃう」
「はい」
ガヤの役目を果たしつつ、ウィブル先生が共有してくれる会話の内容に耳をかたむける。
『リートもなにもないのね……校長にいわれてるし、引き離されそうになったら全力出すけど。なにか穏便に済ませる方法はないかしら。ない? 気にするな? ちょっとリート、そこまで短絡的だとは思わなかったわ。知恵を絞る努力を怠ってるっていうのよ、そういう態度』
リートが使えない認定されてやがる! ハハハ!
真顔をたもつのに忙しいわたしに代わって、ナヴァト忍者が少し長めの発話をした。
「俺の伯母がよくいっていたのですが、男なんて褒めあげて、てのひらの上でころがしてやればよい、と。殿下もそのようになさるのでは? いえ、あの――高貴なかたがたのご事情を、俺の家族などの例で慮るのは礼を失していました、すみません」
「高貴とか下賎とか関係なくない? わたしも聞いたことあるし。下町の庶民でも、よくある話よ」
実質的に決定権を握ってるのは奥さん、みたいな家族はよくいる。気弱そうな若いお嫁さんが実はしたたかで、亭主を思うようにころがしてるなんて話も聞いた。
でもさぁ……。
「そういうのも、なんだかねぇ」
『あんた魔力感知得意なんだから、とりあえずこの部屋をぜんぶ調べて。隅々までよ。なにを? なにを調べなきゃいけないかくらい自分でわからないの? 全部よ、全部!』
リートがめんどくさそうな顔をしている。ウィブル先生は、わたしの手を握って心配そうにしてるから、顔面操作のレベルではウィブル先生の圧勝!
「なんだか、ですか」
「信頼関係がないっていうか……いや、違うな。対等じゃない? 相手を尊重してない、とか……まぁ、ころがさないとマトモなことができない相手なんて、尊重する気も起きないかもしれないけど、誠実じゃないと思うし。それに、なんでそんな面倒な相手を立ててやんなきゃいけないの、役にも立ってないのに! ってならない?」
「それは……たしかに」
「でも、数よね。あの数の……殿方を相手になさるわけだから、正面からぶつかっても意味ないだろうし。じわじわとでも、臣下に女性を入れられればいいのにと思うわ。例外的といえば、わたしだって聖女としてお役に立てるかもしれないんだし。ああでも駄目かもね、これから判定で聖女の資格を剥ぎ取られるんだろうから」
『ルルベルちゃん、盗聴の呪符発見よ。そのまま話をつづけて。面白いわ』
思わず、面白いですか? と訊き返しそうになったが、ぐっとこらえた。
おっさんと口走りそうになったのを殿方で我慢したところも含めて、褒めてほしい。
「聖女様は聖女様しかあり得ません」
ナヴァト忍者が、真顔で断言した。心情は伝わるが、表現としてはどうなんだ。
「わたしも、自分が聖属性魔法使いだってことは確信してるんだけど」
「もちろんです」
「魔王封印は頑張る」
「微力ながら、俺もお力添えさせていただければ幸いです」
『ちょっと嫌だ、視覚的な覗き見呪符も発見したわよ。変態なのかしら』
ウィブル先生が発言するたびに、真顔が崩れそうになるの困る……。いや盗視? 盗撮? されてるんだったら、表情もきちんとしないと!
ナヴァト忍者も同じことを考えたらしく、おっそろしく真面目な顔で目と目を合わせることになった。
ちなみに位置関係としては、ナヴァト忍者はすぐ横に立ってて、ウィブル先生はわたしの前に跪いてるのが現状。リートは室内をゆっくり移動してて、今はわたしの後ろを通過中。
『転移陣は? ない? よく調べて! 手を抜いてんじゃないわよ。攻撃用の呪符だって、仕込まれててもおかしくないわ。見逃すんじゃないわよ。ルルベルちゃんもナヴァトも、もう少しこう……会話して! その方が監視してるやつらの気が逸れるから』
「えっと」
「あの」
ウィブル先生の依頼に応えるべく、我々は同時に発話した。そしてまた顔を見合わせる。
先に口を開いたのは、ナヴァト忍者だ。
「失礼しました。聖女様から、どうぞ」
まぁそうだよな。でも、なにを喋るか決めてないんだ、実は!
「貴族って、男性じゃないと跡継ぎになれないのよね?」
「そうです」
「なるほど……その制度が変わらない限り、宮廷は……殿方ばかりのまま、ということね」
またしても、おっさんを殿方に変換する場面。危なかった。
『くっそ面倒なのみつかったわね……ちょっと見てみましょう。ルルベルちゃん、手をはなすわね』
耳に直接お届けしつつ、ウィブル先生がわたしの手をぎゅっと握った。
「もう大丈夫そうね。なにか不安があったら、いってね?」
「ありがとうございます」
「そもそも、この部屋寒くない? 暖炉に火を入れられないかしら」
ウィブル先生が奥の暖炉の方に移動するのを見守りつつ、ガヤは継続した方がいいのか考える……まぁ、やった方がいいだろうな。
「ナヴァトがいた騎士団も、男性だけなの?」
「はい」
「王太女殿下は女性なのだから、女性騎士もいないと困るのではないかしら」
「そういう話も出ていたようです」
「なら、そこから改革がはじまるのかな」
女性騎士を護衛にほしいという願いなら、おっさんたちも無下にはできないだろう。多少反対されても、ウフィネージュ殿下なら意を通せるはずだ。それこそ、うまくころがすテクニックくらい身につけてるんだろうし。
でも、大変そうだなぁ。婉曲にころがしていかないと事態が紛糾しがちで、直接的な命令は出しづらいってことだもんね。
「聖女様も、女性の護衛をお望みですか?」
「えっ? まぁ……どうかしら……」
思わぬところに飛び火した!
たしかに女性が身近にいてほしいとは思う。べつに護衛じゃなくていい。でも、わたしとかかわると危険もあるわけで、だったら自分の身くらいは守れる実力があった方がいいんだろうし……。
ガヤのはずが真剣に悩みつつ、わたしは答えた。
「正直にいうと、護衛をつけてもらうこと自体、わたしには違和感があるの。もったいない、身に過ぎた待遇って感じ? もちろん、わかってる。わたしはこの世で唯一の聖属性魔法使いだし、わたしの生死は世界の命運にかかわるんだって。なのに、自分の身を守るすべは少ないから、護衛は必要なのよね」
それは、わかってる。
でも、人員を増やされるのはなぁ……。
「ですが、できれば女性は必要ですね。申しわけありません、今まで思い至りませんでした」
「立ち入れない場所が多いのは困るからな。ま、いざというときは立ち入るが」
リートが話に入って来た。さりげなく、俺は気がついてたぜ感を醸し出してるあたりが、さすがリート。
「ほんとのほんとに、いざというときだけにしてよ?」
「ああ。便――」
「口にしなくて結構よ!」
急いでリートの口をつぐませた自分を褒めたい。今絶対、便所っていおうとしてたよね!
さっきからわたし、褒められるべきじゃない?
……と、リートの声が耳元で聞こえた。
『ウィブル先生が解析にあたってるが、発見した呪符は爆発系だ』
ば、と口が開きかけたのを急いで閉じる。ほんと、わたし頑張ってるよね!
ていうかさ、聖属性魔法使いを爆殺するとか、正気? 魔王復活が近そうなこの時期に、頭オカシイんじゃないの!? ニンゲン、オロカどころじゃないだろ!
「なかなか迎えが来ませんね」
ナヴァト忍者の口調は平然としていたが、情報共有はしてるのだろうか……してるんだろうな。少しだけ、距離を詰めてる。
『安心したまえ。君の身体には傷ひとつつかない。ウィブル先生の魔法があるからな。たとえ先生が死んでも、しばらくは効果が残る。竜に逃してもらうだけの時間の猶予はある』
ウィブル先生を! 気軽に殺すなーッ!
薬が変わって副作用がどう出るか(つまり体調がどんな感じになるか)読めなくなったのですが、週一更新くらいはキープしたいなと思っております。
FANBOX の方では、全体公開でお読みいただける旅行記などを含め、こちらも週一での更新はキープしようとしております。
紅白歌合戦で米津玄師さんの歌唱の背景になっていた名古屋市 市政資料館に行ったときの写真など、ご覧いただけますので、よろしかったらどうぞ!
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