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483 スマホのない世界、不便!

 皆に挨拶をして食堂を出ると、わたしはリートに尋ねた。

「案件ってなに? それと、ファビウス先輩が昨晩お留守だったんだけど、なんの用があったか知ってる? リートも、いったいなにやってたのよ」

「質問が多い。ひとつずつ順番だ。選ばせてやる、まずどれを知りたい」

「ファビウス先輩」

「俺は知らん」


 ……つっ……かえねぇぇぇー!


「知らないなら知らないっていってよ! 選ぶだけ無駄じゃないの」

「次は?」

「……案件」

「宮廷魔法使いによる、属性判定がある」


 さすがに今度は、内容がある回答だった。いやでも、なにそれ?


「属性判定? って、わたしの?」

「そうだ。チェリア嬢も呼び出しを受けている」


 えっ。


「それって、ついにあの謎魔法の属性が判明するってこと……?」

「そうだといいがな」


 む。リートにしては曖昧な返事だ。

 わたしは無言で見上げたが、リートはこちらを見もせず、こうつづけた。


「あれが聖属性ではないとわかると、ウフィネージュ殿下の陣営は不便だろう」

「不便……」

「便利に使うために、発掘してきたわけだからな」


 いちいち表現がひどい!


「それを避けるために、なにか工作をするかもっていうの?」

「君にしては理解が早いな。そういうことだ。ついでに、君を偽物扱いする可能性もある」


 絶句。

 さすがにそれは……ちょっと無理筋じゃない?


「そんなこと、できるの? わたし、吸血鬼関連の浄化とか、いろいろ実績あると思うけど」

「聖属性の呪符があるからな。呪符を通じてやった、という論法で押されるかもしれん」

「あー……」


 そういや、あの呪符を開発したときに、ファビウス先輩がいろいろ案じてたよな……。もう詳細は覚えてないけど、呪符があれば聖女はいらないからポイするとか、逆に抱え込んでどっかに幽閉するとか、なんかそういう。

 すっかり忘れてたわ! 危機意識が仕事してない。


「そういうことになる可能性……高いの?」

「わからん。ただ、備えておくに越したことはない。君も心構えをしっかりしておくべきだ。ある程度の事前準備も必要だろう」

「じぜんじゅんび」


 オウム返しにした声が棒読み過ぎて、ちょっと笑う。


「したくないか?」

「えっ? いえっ、やっ、もちろんしたい! けど、なんかこう……めんどくさくて」

「めんどくさい」


 今度は、リートが棒読みになった。


「もうさぁ、べつに王宮に認められなくてもいいかな、って。公認聖女でいる必要、なくない? 魔王封印だけ、ちゃんとやればいいでしょ。いっそ、姿をくらましてさ……」

「本気でいってるのか?」


 わたしは肩をすくめた。


「ただの逃避。……わかってるよ。そんな簡単に解決しないって。それに――」


 ほかの女子のためにも。頑張るって、決めたんだ。

 そういうの、リートには理解できないかもしれないけど……わかるように言い換えるなら、こうかなぁ。


「――せっかくある権利とか、いろいろ、なんの駆け引きもせずに手放すのって、もったいないじゃない? 王家の庇護下から出るにしても、もぎ取れるものは、もぎ取っておかないと」


 義務だけ果たすから放っておいてくれ、って。

 そう思うけどさ……それって、うまくいかないんだよ。放っておいてくれないタイプのひとには、その考えが理解できないから。疑われて、怪しまれて、自由にはさせてもらえないんだ――って、お母さんがいってた。ソースは、はす向かいのグレンジャさん。

 グレンジャさんは、なんでも怒る。なんであんなに怒ってるんだろ、と母に訊いたら、自分の思う通りにならないのが不満だからだといわれた。

 それって変じゃない? なんでもかんでも自分の思う通りになるはずないのに。

 すると、母は困ったように教えてくれた――グレンジャさんは、想像力がたりないんだ、と。だから、自分がやることしか理解できない。自分がやりそうもないことは、わからない。他人への無償の親切も、ちょっとしたおふざけも、グレンジャさんは思いつかない。わからないことは不安だから、怒る。

 思い通りにならないから怒る……って、思いもよらないことが起きるのが怖い、って意味なんだ。


 王宮の偉いさんたちは、グレンジャさんよりは想像力があるだろう。でも、その想像は、わたしを理解した上での妥当な推測なんかじゃない。かれらは、自分たちで考えだした「平民上がりの聖女」を想定するに違いない。

 ある程度はその想像に沿ってあげることで、多少は安心してもらえると思うんだよね。

 権力がほしいとか、お金がほしいとか、そういう――わかりやすさを演出して、得体の知れなさを払拭しないと、ずっと警戒されたままだろう。それじゃ、自由になんてさせてもらえない。


「……我ながら、冴えてるわ」

「なにがだ」

「ところでリートはその準備でもしてたの? チェリア嬢のところで」

「いや、彼女のところにいたから、この情報が入って来ただけだ」


 なるほど……。


「ファビウス様のこと貶してるって聞いたけど。婚約の申し込みを撤回させるために?」

「ファビウスが話したのか?」

「校長先生」


 答えると、リートは嫌そうな顔をした。

 うん、まぁ……わかるよ。なんでも知られてるってことだからね。


「で、うまくいったの?」

「チェリアのファビウスへの執着は、おおむね消えたといっていいだろう。ただ、婚約申し込みの撤回までは進まなかった。王家側が、申し出てすぐ引っ込めるなどできない、と」

「……そりゃそうなるかぁ」

「そうなるな。ここは、俺の力では如何いかんともしがたい。ファビウスが自分でなんとかするだろう」


 丸投げ! ファビウス先輩にバイト料値切られても知らんぞ。


「ファビウス様は、ご存じなの? その、魔力判定の話」

「少なくとも、俺は伝えてない。報告しに来たら、留守だった」


 ……ああー! スマホのない世界、不便! 携帯できなくてもいいから、せめて電話があれ!


「じゃあ、ご存じないのかな……」

「ファビウスがどこにいるかは、知っているのか」

「あ、うん。シェリリア殿下のところに行くってカードが置いてあったから……。昨晩から帰ってないの」

「なら離宮か……俺が行ってもいいが――」


 ここで、リートはチラッとわたしを見た。

 そうだよね、明日の準備よね……心構えとか、なんか仕掛けをするなら打ち合わせとかよね。


「――ナヴァト、伝令に行けるか」

「はい。今ですか?」

「まず研究室へ行こう。ファビウスが戻っている可能性もあるしな」


 というわけで、我々は足を早めて研究室へ行った。

 が、ファビウス先輩は帰っていなかった。

 ……心配!

 無意味に歩き回ってしまうわたしを無視して、リートはさらさらと手紙を書くと、ナヴァト忍者に渡した。


「隠密で行け」

「離宮への侵入は困難です。時間がかかりますが、試みますか?」

「いや、そこまではしなくていい。離宮に着いたら、適当に正体を明かして入れてもらえ。ファビウス本人に手渡すんだ」

「了解です」

「気をつけてね」


 わたしが声をかけると、ナヴァト忍者は真面目な顔でうなずいた。


「聖女様がご心配なさっていたと、ファビウス様にお伝えします」


 気が! 利く!

 わたしがなにかいうより早く、ナヴァト忍者はさっと姿を消してしまった。

 玄関のドアが開く音さえしなかった……ハイ・レベルの隠密行動、すご過ぎて怖い。


「で、どうするの?」

「向こうが君を陥れるつもりなら、大雑把にいって、判定装置に仕掛けをするか、判定の読み解きをする人物を買収しておくかの二択だろう」


 陥れる前提か! いや、それが危機管理というやつか……。

 性格悪くなりそうだよなぁ。実際、危機管理にうるさいリートの性格、悪いしなぁ。わたしもいずれ、こうなるのかなぁ。

 ……なんてことを思ってしまうが、思考がブレブレのわたしと違い、リートは揺らがない。


「魔力判定について、詳しいことは知っているか?」


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