リーンへ
ナハルから出て、初めての村に着いた。
村人に宿屋を聞くと、突然担がれた。
私が余程やつれているのか、大丈夫か、痛いとこないか?と走りながら聴かれ、ケガはないから大丈夫と言うと、もう大丈夫だと、痛まし気に微笑まれた。
宿で出された食事をかき込み、お金を払って固いベッドに倒れ込んだ。
翌朝、いくらか回復して、体を拭く余裕と洗濯する体力を取り戻せた。
女将さんや、商会から卸している酒屋に話を聞いたりして、今後の行き先は決まった。
この村から南西の、馬で1日の距離に、リーンという町があって、そこにハンター組合所があるらしい。
それと、2、3日で商隊がくるらしいのだ。
いつも通りならリーンに行くだろうと言ってたから、金払ってでも乗せて貰う!
女将さんにハンターになることを話していたら、髪切ってくれるってさ。
優しいねー。
ウィルナードのナイフでザクザク斬っただけだったから助かった。
ま、王都から飛び出してすぐ切ったから、自分の髪型の事とか忘れてたけど…
酷い、汚い、最悪!って、言われながら切られるのはなかなか堪えたよ…
キーキー言いながらも世話してくれる豪快なおばちゃん女将に、髪を洗われながら感謝した。
井戸の冷たい水だったけど。
その後大衆浴場に行かせるなら、水かけなくてもよかったんじゃないか?と、おもわなくもない…
3日後予定通り商隊がきて、邪魔しないならいいと言われた。
完全ガキ扱いで、金は要らんてさ。
ガキで助かりました。
当日、御者のおっちゃんも護衛も無言で、私も大人しく黙ってた。
何事もなくリーンに付いて、ハンター組合に行った。
年齢制限の記載はなく、登録用紙に名前と年齢を書いて血印を押すだけの登録。あ、登録料もね。はいよ。
カナメ、アルタイン王国リーン発行とプレスされた金属板を渡された。
依頼を受けるとプレスされる。
達成印済みの依頼書と引き換えにまたもプレス、金をもらえるらしい。
獲物は、依頼書と一緒に隣でカウンターで出すように…だそうだ。
因みに、期限を越えると失敗扱いで全て消され、罰金を請求される。
だが、コンピューターで管理されているわけではないので、偽造とかされないのか少し心配になった。
依頼書の掲示板をサラッと見て、宿取りに出ようとしたとき貼り紙に目をとめた。
『ハンター専用寝床、1日15ネル、10日150ネル』
「…激安!」
ああ、笑顔を隠せきれてないな、と自覚しつつ受付兄ちゃんに駆け寄った。
「あれ、あの貼り紙の寝床、まだ残ってる?」
「ああ、残ってるよ。そんな焦らなくても、いっぱいになることなんてないから。」
「そうなんだ…そこ、なんか問題あんの?」
「そーだな…相部屋だからな。鼾とか、深夜にゴソゴソしてたりだとか…そんな感じ。あんたみたいに始めたばかりの金がない奴仕様の救済宿だ。飯は出ないけど、湯浴みと洗濯はできるぞ。」
「そう…私にピッタリだな。とりあえず1日泊まってみる。」
「毎度っ。ま、同室の奴に迷惑かけるなっていうのと、武器とデカいもんは個別収納室に入れること。決まりを守れなかったら追い出す。以上!」
「適当だな〜ナイフとかも部屋に持ち込んじゃ駄目ってことだよな?」
「そうだ。持ってたら不意に殺っちまうこともあるだろ?事件になったら未遂でも、ハンター証剥奪、宿は牢屋に変更。逃げても指名手配、斬首決定〜。馬鹿でも決まりは守るだろう?」
「ふーん。誰でもハンター組合所で問題起こす度胸はないよな。死ぬ気の奴以外。」
「だな。奴らは厄介だぞ〜見極める俺らの目にかかってんだ。あんたも頼むからやめてくれよ?」
「ハハハッ、病んでるようにみえる?」
「いや、見た感じからして変わり者だから釘刺しとこうと思ってな。ハハッ」
「えー?こんなに素直で真面目な人間なのに…」
「自分で言っちゃあ、嘘って言ってる様なもんだ。ククッ」
「ハハハッ。あ、ご飯食べたいんだけど、ここから近くて、安くて、美味しくて、ガッツリ食べられるとこ知ってる?」
「注文が多い奴だなぁ。その辺の店は似たり寄ったりだ。敢えて薦めるとしたら、右に歩いて、豚の旗の店。看板娘が可愛い。」
「別に可愛い子情報はいらないから…」
「ハハハッ、ちげぇよ。あの店では絡まれにくいんだよ。看板娘の人気と、凶悪顔なオヤジのおかげで。」
「そっか。あんためちゃくちゃいい奴じゃないか!ありがとう!行ってきまーす!」
「はいはい。いってらっしゃい」
店はすぐにみつかった。
「いらっしゃいませ〜席は…相席か、カウンター、どっちにしますか?」
「カウンターに」
「どうぞー。」
よいしょと座り、メニューをみる。酒のメニューしか無いのか…
しっかし大繁盛だなこの店。看板娘は伊達じゃない!かな?
「今日の献立は牛煮込みと、鶏肉野菜串、ジャガイモスープ、パンとサラダです。飲み物は…お酒?」
「ふふっ…お酒貰うよ。ある?軽い奴。」
「ありますあります。果汁割は飲みやすいですよ?レモンがスッキリ飲みやすいよ?ですよ?」
「ハハッ、気軽に喋ってほしいな-。じゃ、レモン割りで!」
「あ…う、うん。ちょっと待っててね。レモン割り1つ!」
たしかに可愛いかも。小動物的可愛さだな。まわりが野獣ばっかりだから引き立つな〜
エプロン付けたブルドック似の親父さんがガツンと木製ジョッキを置いた。
『…坊主が酒か?ターニャに手ぇだしたらぶっ飛ばすぞ』
「ん、ありがとう。ターニャってゆうんだ?」
「あ゛ん?てめぇ!」
「ふふふ。ないない。働き者だな〜って見てただけ!姉ちゃん思い出したよ。(姉居ないけど)」
「…ふん。それまけといてやる…」
「やったー!ありがとう!」
「………飯持ってくる…」
ついでに言うと、私坊主じゃないぜ。嬢ちゃんだぜっ。
久々の酒〜うま〜!シルエラが飲ませてくれなかったしな…シルエラ怒ってるかな……
「…ほらよ。」
「あ…りがとう…」
も、盛り過ぎだろ!全部食えるかな…
き、気合いだ。お残しは許しまへんで〜!
「食った…食ったぞ……破裂しそう…」
「アハハ!あんなによく食べれたね。お父さんに気に入られたの?」
「…さぁ?…嫌がらせじゃないよね?」
「ふふふ。君からしたらそう思うよね。君は…ほら、細いから…」
「体質だ…体の割に大食いのはずなんだけど、今日のはきつかった〜…」
「でしょうね。普通でも多いのに…よくできました!ふふっ」
ちょっと…肩叩くのはいいけど、野獣からの視線、半端ないんですけど…
あ、客も睨んでる…
女だーって叫びたいーーー!
逃げる。逃げるに限る。
「お、お金…」
親父が来ちゃった。
違う、違うよ?ターニャが勝手に…
「…姉っつったよな?」
「う、うん。…子供扱いされたよ…?」
「10ネルだ。」
「はい」
「…また来い」
「ん?おいしかったよ。また来ます。酒、ありがとう!」
「おぉ…」
あっぶねー危ねぇ。あの店ではお子様ぶりっこしとくべきだな。
あー食い過ぎて気持ち悪い。
ハンター組合の三階に上がり、教えてくれた決まり通りに従って荷物を置く。
鍵をかけると不安感が沸き上がった。
武器を置いて、他人と同じ部屋で寝る。
昔は何も思わず、宅飲みで雑魚寝なんて当たり前だったはずなのに、今じゃ剣を持っていないと不安になるとは…
負ける気しないからなんて、前の様には思えない。アッチの世界の男共とは違う、屈強な連中と一緒なんだ…
剣の重みがない違和感は、自分自身がマールに染まりきったのだと、悟った。
ウィルナードに貰った剣は、心の支えの1つになっていたみたいだ…
案内をかってでてくれた受付眼帯兄ちゃんに顔を覗き込まれて、顔を引き締めた。
不安が顔に出てたようで、頭にポンと手を置かれた。
案内された部屋は4人部屋。
申し訳程度の仕切りが置かれ、殺風景で、病室のようだと思った。
2人は既に寝床にいるようで、奥の方は微かな鼾が聞こえる。もう一つは空いているようだ。一人は灯りを付けているので、何かしているのだろう。
「これが金庫の鍵。明日、外に出る時鍵返せよ。」
「はい。」
落ち着かない気持ちを抑え、眠りについた。
貨幣価値
鉄貨1枚 1ネル 100円
半銅貨1枚 5ネル 500円
銅貨1枚 10ネル 1000円
半銀貨1枚 50ネル 5000円
銀貨1枚 100ネル 10000円
金貨1枚 1500ネル 150000円