逃走
バルは、道を知っているのか、迷うことなく走ってくれる。
ただただ身を任せ、休憩も自分勝手にとる
賢い馬だ。
野宿でも寄り添い、暖かい。寂しくない。
村に寄っても宿なんて取らない。
お金が勿体無いし、何より追われる身だ。少しでもナハルに近づきたい。
ウィルナードは、探してくれるかな…。
矛盾してる。探すなと言ったのに。
心配されたら嬉しい。一緒に居られないのは哀しい。
でも駄目だ。堂々と『娘』を名乗れるような人にならなくては…
途中何度か、野宿中の商隊に一夜暖をとらせてもらって、情報収集。当面の生きる術を探した。
やはり、金を稼ぐのに手っ取り早いのはハンター。
馴れ馴れしい護衛中ハンターが、甲斐甲斐しく教えてくれた。
薬草や、小動物を指定された分持って行く依頼が初級。
中型、大型動物の、狩猟難易度が低いものは中級。信用によって、早馬(速達)の手紙や荷物をまかされたりもある。
難易度の高い動物や、過酷な環境での採集。盗賊関連の討伐や、商隊護衛…ありとあらゆる仕事がある上級。経験を積んで信用され、任せられるため、上級の依頼が一番多い。
初級はとばしてもいいが、中級依頼を、30件連続達成しなければ上級に上がれないらしい。
うん…苦々しく言っているから、苦労したんだな…。
「上級まであがったら、一人前?」
「阿呆!こっからだ。依頼をこなす内、名が売れる。指名依頼が来るようになる。そうなれば一人前だ。金もその分ガッポリだしよー、名が広まったら何より胸張れるだろう?」
「…そうかも…」
「それでだ、王族、貴族、騎士共が一目置く存在。ハンターなら、誰もが憧れる実力主義の頂点、闘王!!」
「…は?」
「は?とはなんだ!知らねーのか?……おめぇ、常識だぞ?ハンター向いてねぇんじゃねーか?…ガリガリだし、筋肉ねぇし、若いし、俺の知り合いだったら間違いなく止めるな…やめとけ、やめとけ!」
「そんなことは別にいい。大丈夫。闘王ってなんだ?」
「全国のハンター組合元締め兼、一騎当千傭兵団長ってとこか?実力のある奴には実力ある仲間がついて来るだろう?そして下も半端な奴はふるい落とされ、残ったもんは…強者集団。国にしちゃ脅威だろ?各個撃破しようと思えば最終的に国乗っ取れるんじゃねぇ?ハハハッ!」
「そう…で?あんたは目指してんのか?闘王…クククッ」
「笑うんじゃねぇよ!あきらか馬鹿にしてんだろ?憧れっつったろ?…俺は無理しねぇでコツコツとだな…それで十分だ。可愛い嫁さん貰って一生を終える。それに尽きる!!」
「よく言った!!女だ、女がほしい〜。」
「おめぇがそれいうか?食い散らかすからだ阿呆。欲出すからフられんだよ!」
「ガハハハ!僻んでやがる。ハハハッ」
「次は女回しやがれ糞が!」
「ガハハハハハハッ」
ハンターは国にとって脅威?駄目じゃねーか…
「あん?なんか言ったか?」
「ハンターは国から嫌われてる?」
「あぁ、お偉いさんにはそうじゃねぇの?上に立って仰け反っていたいんだろ。平民風情が!とか言ってよ」
「……」
「でも切り捨てらんねぇんだぜ?俺らがいなけりゃ、珍品珍味は手にはいらねぇし、商隊が襲われちゃ街はたち行かなくなるしよ…いちいち騎士出してらんねぇだろ?俺らの方が使い易いってもんだ。それにな、家の柵がねぇからって敢えて内に引き込む貴族もいるんだ。そんなひどいもんじゃねーぜ?」
「なるほど…」
「おめぇ、イベルナ貴族の息子かなんかなんだろ?」
「おっ、そうなのか?」
「マジか…」
「…そう見えるか?」
「うーん…見える!」
「違うけどな」
「ちげぇのかよ!ハハハッ」
「いやービビっちまったぜ〜。あの戦の復讐かってな…」
「おめぇ、対した働きしてなかったくせしてビビってんのか、ハハッ!」
「お前も人のこと言えねーだろう!」
「「お前もだ!!」」
「ハハハハッ、仲間って感じだな。くくっ…」
「笑え笑え!ガキが悟ったような顔してんじゃねーよ!」
「ガキ…やばっ…何歳でハンターになれるの?」
「年齢制限なんかあったか?」
「さぁ…」
「知らねえ…」
「前途多難だ…」
「ちなみにお前、何歳?」
「何歳だと思う?」
「じらすなよ…」
「チビの16歳に1賭ける!」
「あーん?顔付きはガキじゃねーか。14だ14!」
「なら間をとって15だ!」
「お、さすが間男!」
「来るものの拒まず去るもの追わずだっ」
「ギャハハハ!」
「なら16にするか…」
「16ってことか?」
「16に見えるんだろ?そうしよう。決めた!」
「いやいや、本当はどうなんだよ」
「14だ。」
精神年齢28歳だけどな。
「はー?嘘だろー?!」
「うっしゃっ!毎度あり〜!!」
「「チッ」」
『オーイ、見張り先してやっから、お前ら先寝とけよ〜』
「りょうかーい」
「さ、お開きだ。寝るぞ。」
「あっちでバルと寝るから。たすかったよ。何となく」
「何となくかよ!ハハッ。明日起こしてやっから寝ろ寝ろ。」
「うん。おやすみ」
「添い寝してやろうか〜?」
「節操なしは勘弁!」
「フられたぜっ」
「両刀だったのか?気色わりぃ…近寄んなよ…」
「ちげぇよ…ほら」
「捨てられたか…死んだか…いや、家出か…」
まだ幼い顔付き、自分で切っているのだろう黒髪、汚れていても良い物とわかる服。落ち着いた態度、馬付きとくれば、ここにいるのは後ろ暗い理由だろう。
「………14か…」
「きっついだろうな…」
「…俺がっ」
「やめとけ。面倒見切れねぇのに、中途半端に手を出すな」
「……だよな」
ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
翌朝起こされて餞別をもらったので、礼をして別れた。
何度も夜を外で明かし、ようやくナハルに着いて、馬を預けて家にむかった。
留守番警備に見つかったらヤバい。
使用人は居ないはず。
こんな事に使うことになろうとは…
首から下げた鍵をにぎり、庭から侵入。
勝手口にへばりついて慎重に鍵を開けた。
中に入り、荷物をリュックに詰め込んでそそくさと退散する。
懐かしむ余裕なんてないが、胸はひたすらに痛かった。
勝手口もきちんと閉めて、早急に買い出しをし、町の外へ外へ……
西に行こう。何となく。
この町にいたら決心が鈍る。見つかる。
夕日に向かって走って走って、青春ドラマかとから笑い。
どっぷり日が沈み、干し肉を噛みながら歩く。
満月で助かった。まだ視界が効く。
けれど、森のざわめきが恐怖心を煽り、バルの温もりもない今、何かいるんじゃないか
飛び出してくるんじゃないか?と気が狂いそうだ…
連日の移動、一時も気の休まる時がないこの状況で、突き動かすのは気持ちだけ。
それも恐怖心に、蝕まれ始めている。
もう駄目、もう動けない。
一際大きな木に縋って、よじ登る。
木の幹に背を預け、ウトウトしては起きて…と、浅い眠りを繰り返した。
暁の空があがる頃、行動を開始する…
孤独と闘いながらひたすら歩き続ける…
また戻れる日を夢見て…




