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放課後乱闘ライヴズ  作者: (=`ω´=)
四日目
57/109

05-03 昇降口前での一幕。 

 救急車や警察の車両が、何台も校庭の中にまで入り込んでいた。

 昇降口のあたりから、担架に乗せられた生徒たちが救急車の中に搬入されていく。


「……この昇降口はしばらく閉鎖します!」

「生徒は、別の入り口に迂回して、そのまま土足で校内に入ってください!」

 警官とか先生方が、拡声器を使ってそんな風に声を張りあげていた。


「……ありゃりゃ」

 登校してきた井崎巴は、昇降口の惨状を見て、思わず声をあげてしまった。

「うちのクラスの誰かが、暴れたのかなぁ?」


 とはいえ、たとえ一年D組の生徒であろうとも、これほどの破壊力を持つスキルの数はそう多くはない。

 井崎も、クラス全員のスキルの詳細まで熟知しているわけではないのだが……委員長、三峰刹那の『エアタンク』か、元はといえば瑠河秀夫のものだった、そして今は新堂零時に預けられている『トラップメイカー』、それに……。


「ああ、そうか」

 そこで、ようやく井崎はもう一人、こんな状況が作れそうなスキルの持ち主を思い出す。

「木ノ下さんの、『パニックボム』なら……」

 あるいは、こんな痕跡を残せるのかも知れない。


 単純に威力の大きさだけを比較するのなら、自称魔法少女の四人組とか、他にも名を出してもよさそうな者は居るのであるが、この場の、あまりにも歴然とした爆発痕のような状況を作れるスキルは、案外に限定されてくるのだった。


 井崎が最後まで木ノ下紬の存在を思い出せなかったのは、普段から控えめな態度をしていた木ノ下の存在自体がなかなか意識のあがりづらかったこと、それに、木ノ下のこのゲームに対する態度がかなり消極的だったこと、以上の二つの理由による。


「……神経過敏になっているのかなあ、木ノ下さん」

 この井崎自身は、かなり脳天気な性格をしていてこのゲームについても思い悩むという事がなかった。

 しかし、昨日の一連の出来事によって、

「やらなければ、やられる!」

 という、被害妄想というか強迫観念に近い想念を抱いてしまった生徒たちも少なからずいるようだ。

 特に木ノ下紬は、もともと小心で臆病そうな女生徒だったから……。

 なにかの拍子に、あのスキルを暴発させてしまったのかも知れない。


「……なに、またうちのクラスの仕業」

 そんなことを考えていると、背後から声をかけられた。

「まったく、どいつもこいつもはた迷惑な……」

 挨拶もせずにそんな風に声をかけてきたのは、井崎と同じクラスの都井宮子だった。

「ああ、宮子ちゃん、おはよー」

 まず、井崎はそう挨拶をする。

「……みたいだねー。

 わたしもまだ着たばかりなんで、具体的なことはなんもわからないんだけどー……」

 井崎と都井とは、特に親しいというわけでもなく、かといって反目したり疎遠であるともいうわけでもなく、まあ一般的な「女子同士」の関係だった。

 都井にしてみても、たまたま同じクラスの井崎の姿を見かけたから声をかけてきたのだろう。


「……忌々しい」

 都井は、不機嫌な声でそんなことをいい捨てた。

「なんだって、こんな物騒なことをやらされているんだが……」


 ……あ。

 と、井崎は慌てて周辺の様子をうかがった。

 こういう発言は……。

 この状況で、一年D組の生徒がしてはいけないような……。


 案の定、たまたま周囲に居合わせていた、一年D組の生徒以外の生徒たちの視線が、都井宮子に突き刺さる。


 彼ら、一般生徒にしてみれば、昨日に引き続いて今日も、その一年D組の生徒によって多大なる迷惑をかけられているのである。

 ましてや、今回の件では何人もの生徒が巻き添えをくらって救急車のお世話になっている状況だった。

 ただでさえ風当たりが強いところに、「自分だけは無関係」といった態度でそんな悪態をついてしまったら……。


「……おい!

 あんた!」

 案の定、上級生らしい男子生徒が、都井にむかって怒鳴ってくる。

「あんた、ひょっとして一年D組の生徒か?

 そのいい方は、あまりにも無責任なんじゃないか?」

 都井は、目を丸くして、その男子生徒の顔をまじまじとみつめる。

 まるで、珍獣を発見したかのような顔つきだった。

「……だって、実際にわたしには責任がないんですけど」

 都井は、静かな口調で説明した。

「確かにわたしは一年D組の生徒だけど、たった今ここについたばかりだし、ここでなにが起きたのかさえ、把握していない。

 それとも、同じ一年D組の生徒であれば、自分自身がやっていない行為についても責任を取らなければならない道理でもあるのですか?」

 都井宮子は、美人である。

 年齢からいえば「美少女」と形容した方がいいのかも知れないが、どことなく大人びた雰囲気があるので、やはり「美人」とか「美女」と表現する方が相応しい。

 その都井が、怒気を隠してあえて淡々とした口調で正論を述べると、これはこれで迫力がある。


 一度は都井を怒鳴りつけた男子生徒は、都井のいい分に反駁する術をなくして、かえって顔を朱色に染めて都井を睨みつけた。

 自分の憤りが、少なくともその矛先を都井に設定した行為が、まぎれもなく間違いであったことを自覚し、しかし、そのことを公然と認めることもできず、二の句がつげないようだった。


 さて、どうやってこの場を収めようか。

 井崎が慌ただしく周囲を見渡してそんなことを考えていたとき、

「……なにしてるの?」

 と、柔らかい声がかかってきた。

 振り返ると、蘭世明、津川問、黒森永遠の三人がすぐそばに立っている。

 井崎に話しかけたのは、津川問だった。

「……えっと、昇降口で、うちのクラス絡みでまたなんか起こったらしくて、それで……」

「……その事件に関する所感をわたしが述べたら、そちらの先輩が難癖をつけてきたの」

 たどたどしい井崎の説明を、都井が引き継ぐ。

「……なるほどー」

 津川は、周囲を見渡しながら、なんびりとした声を出した。

「事情はわかりましたけどー。

 今は非常時ですから、先生のいうことを聞いて整然と行動をしましょうねー……」


 その津川の言葉が終わるか終わらないかのうちに、周辺で成り行きを見守っていた生徒たちがぞろぞろと離れていく。

 都井のことを睨んでいた生徒たちも、なにか憑き物が落ちたような顔をして、去っていった。


「……『ムードオルガン』といいましたったけ?

 あなたのスキル」

 都井が、津川に話しかける。

「それ、使ったでしょう」

「ええ、はい」

 津川は、あっけらかんとした口調で認めた。

「こういう場面でしか、使いようがないスキルですから」

「……助かりました」

 都井は、津川に対して軽く頭をさげた。

「わたしのスキルでは、大勢を従わせることはできないし……」

「いえいえ、お気になさらずー……」

 そういって、津川たち三人も校舎の方に去っていった。


「……駄目だなあ、わたしは」

 都井は、小さく呟く。

「どうも、いざというときに怒りっぽくていけない」


 井崎は、そんな都井に対してどう声をかけたらいいものか判断がつかず、狼狽していた。 


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